琥珀色の戯言

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【読書感想】「ポスト宮崎駿」論―日本アニメの天才たち― ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
新海誠監督「君の名は。」で一挙に“第4次ブーム”に突入した日本アニメ。市場は2兆円規模、海外展開も視野に映画公開がひきもきらない。「攻殻機動隊」の押井守、「バケモノの子」の細田守、「この世界の片隅に」の片渕須直、「アリエッティ」の米林宏昌、「エヴァ」の庵野秀明……多彩な才能を第一線の評論家が徹底分析。日本文化を代表するコンテンツ産業に躍り出た日本アニメの実態を俯瞰する最良のテキスト。


 「ポスト宮崎駿」か…… 
 宮崎駿さんには及ばないとしても、コンスタントにヒット作を出しているし、日本テレビも推しているので、細田守さんで良いんじゃない? 宮崎駿さんはあまりにも偉大すぎて、唯一無二の存在であり、押井守さんや庵野秀明さんは「ポスト宮崎駿」というよりは、同じ時代に違う路線を行っている人たちだし、と僕は思っていたんですよ。
 新海誠監督の『君の名は。』が、あんなに大ヒットするまでは。

 2016年8月26日に公開された劇場用アニメ『君の名は。』は異例の大ヒット、興行収入は250億円を超えた。邦画の歴代国内興行収入では、『千と千尋の神隠し』の308億円に次ぐ第二位の記録である。海外でも空前の大ヒットとなり、世界全体でみた邦画興行収入ではすべてのジブリ作品を超えて歴代一位となった。
 これまで日本アニメは、宮崎駿監督以外には国内興収300億円超えはおろか、100億円を超えるアニメ監督すらおらず、米林宏昌監督のジブリ・アニメ『借りぐらしのアリエッティ』(2010)が、92.6億円で最高だった。興収250億円の新海誠は、「ポスト宮崎駿」候補の筆頭に躍り出た感がある。しかも『君の名は。』は原作を持たない新海誠監督のオリジナル作品だ(小説版も新海誠がアニメ制作と同時進行で書いており、原作とノベライズの中間に位置する特殊な成り立ちをしている。
 新海誠監督の作品が、これほどヒットするとはファンでも、いやファンこそ想像しなかったろう。


 新海誠監督本人も、自身のサイトで、「自分自身も驚いている」と書いていることが紹介されています。
 『君の名は。』までの新海誠監督の作品は、情緒的な作風で熱狂的なファンは少なくなかったものの、コアなファンに支えられた職人的な監督、というイメージだったのです。
 『君の名は。』では、売れる作品を目指した、とは言うものの、まさかここまで「化ける」とは。


 著者は『君の名は。』がこれほどまでに売れた理由について考察しています。

君の名は。』はなぜ大ヒットしたのか。当たり前だが、面白い要素満載で、丹念に作られた作品で、筋も作画も音楽も声優も、すべてのタイミングが絶妙だった(うまく統御された)結果ということになるだろう。そして、その統御は、新海監督の強いこだわりと、それに応え切ったスタッフの意地による。
 たとえば作画監督安藤雅司は、新海が何度も修正を入れるので苛立ち、言い難くなった新海が自分で直すと「勝手に変えずに、こちらに意図を伝えて戻して下さい」と叱責したという。安藤雅司ジブリ・アニメを支えてきた実力者なので貫録が違う。
 キャラクターデザインの田中将賀は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2011)などで知られる。原画にも西村貴世のように新海作品生え抜きスタッフのほか、稲村武志、濱洲英喜、本間晃、田中敦子、賀川愛、松本憲生橋本敬史沖浦啓之、箕輪博子、古川尚哉、松尾真理子、松永絵美、土屋亮介、大橋実ら、ジブリ作品などで活躍した優秀なアニメーターの名前が並んでいる。なかには監督や作画監督クラスもちらほらいるし、他に庵野作品や押井守作品で知られる人の名前も見える。『君の名は。』スタッフが選りすぐりであることが感じられると共に、日本アニメ界を支える「優秀なスタッフ」の層の薄さが心配になるところだ。ジブリで動画担当だった名前を、原画で見かけると「頑張ってるな」と心強く感じたりもする。


(中略)


 その頃、ちょうど新海監督は、次は観客が楽しめるカタルシスのある作品を作りたいと思っていた。脚本は新海が書いたが、そこに川村元気東宝スタッフが共同チームとして参加し、新海監督の思い入れでマニアックになりすぎないよう、一般観客目線からの意見を入れたと言われている。こうして『君の名は。』が生まれた。


 ここでのアニメ関連の名前の羅列に興奮できる人なら、この新書を十分に満喫できると思います。
 僕はそんなに詳しくないので……
 ただ、『君の名は。』は、これまでの新海誠テイストに、外部からの風をうまく取り入れてつくりあげられた作品だったということはわかります。
 そして、今回の大成功に再現性があるかどうかは、次の作品をみてみないとわからないと思います。
 『君の名は。』のようなヒット作を、と狙いすぎてしまうと、新海誠監督の魅力が弱まってしまうかもしれません。
 大ヒット曲の次は難しい、とは、昔から言われていることでもありますし。

 (細田守監督の)『おおかみこどもの雨と雪』の美術監督ジブリ作品などで美術監督を務めた大野広司が担った。母子が生きるために向かった田舎の家について、細田監督は「ここには住みたくないと思うような、荒れた感じ」で描いてほしいと注文した。大野は、家の色調を暗くし、庭を雑草だらけにした。そして終盤に向かうにつれて、同じ家が幸福感を伴うものになるよう、全体の色調を明るめに調整した。
 ちなみに『サマーウォーズ』の美術監督武重洋二ジブリで『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』など多くの作品で美術監督を務めている。要にトップクラスの人材を迎えているのに感心する一方、日本アニメ界の層の薄さ、優秀なスタッフに仕事が集中しすぎていることへの一抹の不安を感じもする。

 
 著者は、『スタジオジブリ』の制作部門が解散したあと、「元ジブリ」の腕利きのスタッフが散らばって、その実力を発揮していることも紹介しています。
 その一方で、これだけ日本は「アニメ大国」なのに、大事なところを任せられる実力者は、そんなに数多くはいない、ということを危惧してもいるのです。


 宮崎駿監督の存在があまりにも大きくなってしまったばかりに、「アニメ映画の監督である」というだけで、比べなくてもよさそうな人まで、「ポスト宮崎駿になれるかどうか」と語られてしまう感じはします。
 本人たちにとっては、ありがた迷惑なんじゃないかなあ。
 比べられるのも監督の「仕事」だから、しょうがないんだろうけど。


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