続・風の帰る場所―映画監督・宮崎駿はいかに始まり、いかに幕を引いたのか
- 作者: 宮崎駿
- 出版社/メーカー: ロッキングオン
- 発売日: 2013/11
- メディア: 単行本
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内容(「BOOK」データベースより)
『崖の上のポニョ』から最後の長編監督作品『風立ちぬ』まで、スタジオジブリ作品と変わりゆく時代、そして自分自身を語った4本のロング・インタビュー。監督としてのスタート地点に立った初演出作品『未来少年コナン』と長編監督デビュー以前のキャリアを語った2本も同時収録した宮崎駿の決定版インタビュー集、第2弾!
うーん、やっぱり宮崎駿の言葉は、含蓄があるなあ!
……と言いたいところなのですが、このロングインタビュー集、率直に言うと「宮崎駿監督が、気心のしれた仲間(渋谷陽一さん)相手に、居酒屋でずっとクダをまいているような本、なんですよね。
でも、もちろんそれがつまらないというわけではなくて、むしろ、「人間・宮崎駿」が、すごく表に出ている、面白いインタビューではあります。
それにしても、宮崎駿監督って、「インタビュアー泣かせ」なんじゃないかなあ。
このインタビューのなかには、けっこう他人の作品にキツイことを言ってもいますし。
「はじめに」で、渋谷陽一さんは、こう書いておられます。
宮崎駿のインタビューは面白い。それはこの本を手にした方にはいまさら説明する必要のないことだろう。しかし宮崎駿のインタビューは少ない。それはある意味、必然なのかもしれない。つまり、宮崎駿インタビューには、よくありがちな公式発言的なものがないからだ。
常に宮崎駿はインタビュアーと正面から向き合い、しっかりと自分の考えを語る。たくさんのインタビューに答えるための準備された発言はなく、一回一回のインタビューが一種の真剣勝負の場となる。
渋谷さんのインタビューのスタイルには、ちょっと「決めつけ」というか「誘導尋問的」なところがあって、ちょっと苦手なところもあるのですが、この本での宮崎駿監督へのインタビューに関しては「毒をもって、毒を制す」という感じで、宮崎駿という強烈な個性から言葉を引き出すには、渋谷さんくらい物怖じせずに向かっていく人が良いのだろうな、と思いました。
『コクリコ坂』に関してのはずのインタビューでは、途中から脱線しまくり、ほとんど作品については触れられていませんし。
また、宮〓監督自身の「あまりにも偶像化されてしまって『いいひと』だと思われている宮崎駿像への違和感」も率直に語っておられました。
このインタビューを読んでいると、たしかに「上司だったら、めんどくさそうな人だなあ」なんて、ちょっと思いましたし。
そして、インタビューに出てくる話題の端々に、「宮崎駿って、そういう人なのか!」とか「こんな作品も読んでいたのか」と、驚かされたりもしたんですよね。
『借りぐらしのアリエッティ』についてのインタビューより。
――じゃあ、より一層僕の言葉に換えちゃいますと。宮崎さんは、それほど人間が嫌いで、あるいは男が嫌いで……。
「そんなことないですよ」
――では、少女にしか夢を託せないのはなぜですか?
「いや、だから、少年を主人公にして作ると、悲劇的にならざるをえないって言ってるでしょ? 悲観的な映画を観終わった時、観て良かったと、みんなが思えるように仕立てるためには、大変な能力が必要で。だから、それは僕の手に余るんじゃないかっていう恐怖のほうが強いんですよ。僕だけじゃなくて、周りもみんなどうなんですよ。『魁!!男塾』みたいなものを作るんだったらね、そりゃあ、僕じゃなくて誰かがやってくれるだろうけど。でも、そういうのじゃないから、周りの男たちを観察しているとわかります。この頃、何をして生活しているのかわからない人間が、こんなに街に溢れてるんだって、本当に実感するようになりましたから。そんな時代だから、女のほうがなんとかなってる……いや、なんとかなっているふりをしているのか、それはわかりませんけど。でも本当にこれは、僕らの社会が直面している最大の問題で。そんな時、男を主人公に映画を作るっていうのはどういうことだっていう」
結局、このインタビューのあとに作られたのが、はじめての「大人の男が主人公の作品」であり、長編アニメーション監督の引退作ともなった『風立ちぬ』になりました。
それにしても、サラッと答えておられますが、宮崎駿監督が『魁!!男塾』を観ている姿というのは、かなり想像しにくい感じがします。
キャリアの中では、いろんなアニメーションをつくってきた人ではありますし、そんなふうに感じてしまうのも、観客側の「偶像化」なのでしょうけど。
ジブリの『男塾』って、ちょっと診てみたいような気もしますが。
『コクリコ坂から』のインタビューより。
「それで『ジブリはずーっと続くんですか?』とかね、くだらないことを訊きやがるんです。『続くはずねえだろう!』って。なんですかねえ? かくも人民が愚かになったのかと思うぐらいですよ。いや、スタッフは個人的にはみんな好きなんですけど(笑)、描いている絵を見ると、なんでこんなに下手くそになったんだろうって思うんですね。なぜと言ったら、理想がないからですよ。自分がこういう世界がいいなと思う気分がどっかなくなってるんですよ。どうせこんなもんだっていう感じなんですね。あとは年金数えようみたいなことに、自分たちの運命はきわまったと思ってるからです。それではアニメーションは作れない。一方では、パソコンで背景を描くのが普通になっていて。でもそうすると、影の中の色をどういうふうにするかというと、絞るだけなんですよ、暗く。コントラストを強くすればね、なんとなく絵らしく見える。明るいところは飛ばせばいい。それで、絵の具を使って影の中にどうやって色をつけるとか、一見黒く見えるけれど、その中にいろんな複雑な色があるってことを見抜いていくとか、そういう観察を積み上げてきた絵の技法とかについて、全部無知になってきちゃって。ただ絞るだけ、暗くするだけなんですね。もうデジタルになってからほんとにパーになってるんですよ」
――ははははは。
「『おまえらちゃんと絵描け!』って。ロケハンに行くとすぐ写真撮ってくる。写真横に置いて描く。写真にも色があるからそのとおりに描く。だから『バカっ! 写真機持ってくんな!』って(笑)。そういうふうになってるんですよね、どんどん」
また、『風立ちぬ』のインタビューでは、こんな話が出てきます。
――でもまあ、堀越二郎はそうやって淡々と仕事をやりながら、でも作るのは兵器なわけですよね。
「兵器を作ってるという自覚、なかったと思いますね。それを、戦後民主主義派がそうやって断罪していくことによって、見落としてるものがいっぱいあって。『じゃあおまえ無実なのか? アニメーション作るのはどういうことだと思ったことがある?』って、つい僕はそういうことを言いたくなるんですけど。僕らが『トトロ』を作った時に、そんな意思はなくても、結果的にはビデオを売らざるをえないとか。子供がビデオを100回も観ましたとか、セリフ全部覚えてますとかね、そういうことはもっとも僕が嫌だったことで。アニメーションなんか、子供時代に1回観りゃいいぐらいのもんであって。そんなものを毎日毎日、繰り返し繰り返しビデオで流してるとかね、テレビでやったら視聴率が上がりましたなんてんは、自慢でも誇りでもなんでもなくて。それはただの人生の消費であってね。それに加担するということは、実は、戦争に加担してるのと同じぐらい、今のくだらない世の中にくだらなさを増やしてることなんですよ。あっちで流されてる水よりもこっちの水のほうがきれいだからって、水を流して洪水にしてるようなもんでね。大してきれいじゃないんですよ。やっぱり子供は実際に何かに出会って、触ったり、舐めてみたりね、そういう体験によって、自分の生き物としての何かを育てていかなきゃいけないのに、その時間をコピーによって奪って。庵野(秀明)の悲劇は、自分がコピーのコピーのコピーだということを自覚してることなんです、ほんとに。コピーってのはなんでもやってくれるけど、どんどんぼやけていきますから。これ、庵野も言ってることなんですけど。もうほんとにダメだって言ってるんですよ。それなのに株式会社カラーなんか作っちゃったから、もう悲劇の巨神兵になってるんですよ」
世界的なアニメ監督、宮崎駿。
でも、こういうのを読んでいると、ほんと、「身近にいたら、めんどくさそうな人だなあ」と思うんですよね。
それでも、宮崎駿の「作品」に、多くの人は魅了されるのです。
そして、宮崎監督の「絵へのこだわり」の凄さには、圧倒されます。
この時代、まったくパソコンを使わないアニメ作りは至難だと思いますし、ジブリでも実際はかなり使っているようなのですが、宮崎駿監督は「パソコンで絵を描くことによって、失われてしまうもの」を常に意識しているのです。
ただ、「昔はよかった」だけではなくて、「手書きの時代の絵づくり」と「パソコンで『絞る』だけの絵」は、どう違ってくるのか、をちゃんと言葉にして、伝えようとしているのだよなあ。
それにしても、ジブリの屋台骨を支える、大きな定期収入源であるビデオやDVDまで「本当は売りたくない」とか、「子供時代に1回観れば十分」なんて言い切ってしまうのが、また凄いというかなんというか。
ビデオやDVDが売れてなかったら、たぶん『かぐや姫の物語』みたいな、制作期間が長すぎるアニメ作品は、完成前にジブリが潰れていたはずです。
ああ、大いなる矛盾の人、宮崎駿!
『風立ちぬ』で、長編アニメーションの監督からの引退を発表した宮崎駿さん。
(ちなみに「引退発表後」のインタビューは、この本には収録されていません)
『借りぐらしのアリエッティ』のときのインタビューに、こんなやりとりがありました。
――というか宮崎さん、ご自分で言ってるじゃないですか。「元・映画監督っていう肩書き、見たことないでしょう」って、宮崎さんの名言ですけれどもね。
「そうなんですよね」
――「元・映画監督」はないんですね。
「ないですね」
――死ぬまで映画監督ですよ。
「……おかしいよね」
この本には、1983年、1984年の『未来少年コナン』などに関するインタビューも掲載されています。
これを読んで、「宮崎駿という人は、『監督』になる前から、やっぱり、宮崎駿だったんだな」と感心してしまいました。
日本の、そして世界の映画界、アニメーションの世界、そして多くのジブリファンにとって、「偉大な存在」になってしまった宮崎駿。
30年前から、ブレていないことが、ここまでの熱意と成功を持続できた理由なのかな、と僕は感じました。
長編を引退したことですし、僕としては、ぜひ『男塾』とかやってみてほしいんですけどね、絶対やらないだろうけど。
宮崎駿という人を知りたいというのであれば、むしろ、こちらの鈴木敏夫さんへのインタビューのほうが、「わかりやすい」かもしれません。オススメです。
- 作者: 鈴木敏夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2013/08/10
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