琥珀色の戯言

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【読書感想】ケーキの切れない非行少年たち ☆☆☆☆

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)


Kindle版もあります。

ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)

内容(「BOOK」データベースより)
児童精神科医である筆者は、多くの非行少年たちと出会う中で、「反省以前の子ども」が沢山いるという事実に気づく。少年院には、認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない非行少年が大勢いたが、問題の根深さは普通の学校でも同じなのだ。人口の十数%いるとされる「境界知能」の人々に焦点を当て、困っている彼らを学校・社会生活で困らないように導く超実践的なメソッドを公開する。


 「子ども」が、あんなにひどいことを……
 少年犯罪に対しては、「親の顔が見たい」なんてことを考えがちになるのです。
 そして、再犯を繰り返したり、大人になってから大きな事件を起こしたりすると、「少年院に入っても、全然反省していないじゃないか!」と憤り、さらなる厳罰化を求めてしまう。

 著者は、児童精神科医として経験を積み、その後、少年院で法務技官としてさまざまな「問題を起こした少年たち」に接してきました。

 勤務先の少年院で、もっとも手がかかる、ちょっとしたことでもキレて、机やいすを投げ飛ばし、大勢の職員を相手に大暴れする子どもに、神経心理学検査の一つである、Rey複数図形の模写をやらせてみたそうです。
 その子が黙々と模写した図が、あまりにもお手本と比べて違って(歪んで)いるのをみて驚き、「この子には世の中のことすべてが歪んで見えている可能性がある」と考えたのです。

 これまで多くの非行少年たちと面接してきました。凶悪犯罪を行った少年に、何故そんなことを行ったのかと尋ねても、難し過ぎてその理由を答えられないという子がかなりいたのです。更生のためには、自分のやった非行としっかりと向き合うこと、被害者のことも考えて内省すること、自己洞察などが必要ですが、そもそもその力がないのです。つまり、「反省以前の問題」なのです。これでは被害者も浮かばれません。
 こういった少年たちの中で、幼い時から病院を受診している子はほとんどいません。彼らの保護者・養育環境はお世辞にもいいとは言えず、そういった保護者が子どもの発達上の問題(絵を写すのが苦手、勉強が苦手、対人関係が苦手など)に気づいて病院に連れていくことはないからです。病院に連れてこられる児童は家庭環境もそこそこ安定しており、その親も「少しでも早く病院に連れて行って子どもを診てもらいたい」といったモチベーションを持っています。
 非行化した少年たちに医療的な見立てがされるのは、飛行を犯し、警察に逮捕され、司法の手に委ねられた後なのです。一般の精神科病院に、こういった非行少年はまず来ません。


 この本を読みながら、子どもにとって、学校で勉強がわからない、というのはものすごいストレスなのだな、と思ったのです。
 僕は運動音痴で、体育の時間が憂鬱で仕方がなかったのですが、勉強が全然わからないというのは、僕にとっての体育の時間の絶望感が、学校にいるほとんどの時間、続くってことなんですよね。
 さらに、人付き合いが苦手で友達がいない、作れないともなると、それはもう、キツイはず。

 医療少年院では、新しく入ってきた全ての少年に対して、毎回2時間ほどかけて面接を行っていました。通常、非行少年の面接となると、なぜ非行をやったのか、被害者に対してどう思っているかといったことをメインに聞くことが多いのですが、実はそういったことを聞いても更生にはあまり役に立たないことが分かってきました。少年院在院少年たちの幼少期からの調書を読んでみると、彼らは少年院に入るまでに、これでもか、これでもかというくらい非行を繰り返しています。少年院に赴任したての頃は、凶暴な連中ばかりでいきなり殴られるのではないか、といつも身構えていました。しかし、実際は人懐っこくて、どうしてこんな子が? と思える子もいました。
 しかし一番ショックだったのが、


・簡単な足し算や引き算ができない
・漢字が読めない
・簡単な図形を写せない
・短い文章すら復唱できない


 といった少年が大勢いたことでした。見る力、聞く力、見えないものを想像する力がとても弱く、そのせいで勉強が苦手というだけでなく、話を聞き間違えたり、周りの状況が読めなくて対人関係で失敗したり、イジメに遭ったりしていたのです。そして、それが非行の原因にもなっていることを知ったのです。
 その他、高校生なのに九九を知らない。不器用で力加減ができない、日本地図を出して「自分の住んでいるところはどこ?」と聞いても分からない、といったこともありました。北海道は大体みんな知っているのですが、九州を指さして「これは何?」と聞くと、「外国です。中国です」と答えた少年もいます。ひどくなると日本地図を見せても、「これは何の図形ですか? 見たことないです」という少年もいます。


 勉強していないからわからない、というよりも、「勉強して、何かを理解していく、という機能が失われている」という感じなんですよ。
「丸いケーキを3等分できない中学生・高校生の非行少年」なんて、いくらなんでも……と思ったのですが、この本のなかには、彼らがそれを試みた図も収録されています。
 なぜこんなこともわからないのか……というのは「わかる側」の視点なのです。
 だから少年院に入れられるようなことをやってもいい、ってわけじゃないけれど、彼らが、そんな事件を起こす前に、「見る力」「聞く力」をの異常を感知することによって、できることがあるのではないか、というのが著者の考えなのです。

 これまで、少年院では、これまでの非行に対して、ひたすら「反省」を求めてきたけれど、彼らは「反省」ができる能力に欠けている。「なんで反省しないんだ!」と問いかけても、「反省って、どうやるの?」っていうのが彼らの現実なんですね。
 
 それでも、「だから無罪」とは思えないし、「やられた側は、やった側の事情は関係なく、致命的に傷つけられる」のですが。

 著者は、この本のなかで、「忘れられた人々」(=軽度の知的障害を持つ人々)について、何度も言及しています。
 2014年に神戸市で起きた、小学校1年生の女の子が下校後に殺害され、近くの雑木林で遺体がビニール袋に入れられた状態で発見された事件では、そのビニール袋のなかに、たばこの吸い殻と名前が書かれた診察券が入っていたのです。
 そんなものが入っていたら、何らかの偽装工作ではないか、と思いますよね、あからさますぎて。
 ところが、この事件の容疑者は、自分の診察券を入れていたのです。
 さらに、容疑者は、陸上自衛隊に勤務し、大型一種免許や特殊車両免許を持っていたそうです。

 しかし、あとになって彼が療育手帳(軽度知的障害の範囲)を所持していたことを知り、容疑者の奇異な行動の意味が理解できました。知的障害を持っている人は、後先のことを考えて行動するのが苦手です。これをやったらどうなるのか、あれをやったらどうなるのか、と想像するのが苦手なのです。特に急いで何かをしなければならないとき、後先を考えずにその場その場で判断してしまいがちです。診察券が入っていたら自分の素性がバレるのでは、と想像できなかったのでしょう。
 こうやってこうやったらこうなる、といった論理的思考は、「思索の深さ」とも呼ばれています。何ステップ先まで読めるかを予想する力といってもいいでしょう。知的にハンディのある人はこの思索が浅いと言われていて、先のことを見通す力が弱かったりするのです。
 しかし、ここで大きな誤解があります。もし知的障害を持っていたのなら、それまでに周囲に気付かれて、何らかの支援を受けられていたのではないか、と。
 しかし、軽度の知的障害者は、日常生活をする上では概して一般の人たちと何ら変わった特徴が見られないのです。軽度の知的障害でも陸上自衛隊に入隊したり、大型一種免許、特殊車両免許を取ったりすることは可能です。特に軽度の知的障害や境界知能の人たちは、周囲にはほとんど気づかれることなく生活していて、何か問題が起こったりすると、「どうしてそんなことをするのか理解できない人々」に映ってしまうこともあるのです。


 著者によると、このような「軽度知的障害者」をIQ70〜84の範囲と定義すると、人口の14%くらいを占めているそうです。ちなみに、IQ70以下は2%。もちろん、IQだけですべてが決まるわけではないのですが、傍目でみて、明らかに知的障害があるようには見えないけれど、周りとうまく噛み合わず、慢性的な生きづらさを抱えている人は、かなり多そうな気がします。
 そして、この人たちは、明らかに「異常」ではないだけに、かえって、「なんでそんなことができないんだ」「空気が読めないヤツだな」と阻害されやすい。仕事を選べば、ある程度普通に働ける。だからこそ、突発的にみえる異常な行動を周囲は理解できない。責任能力もあると見なされるのです。

 この本のなかでは、問題点を指摘するだけではなく、認知機能向上のための短時間でできるトレーニングを紹介し、彼らに「社会性」を身につけさせることが推奨されています。
 「見る力」や「聞く力」は、後天的にある程度向上させることができるし、上手に支援することによって、彼らの生きづらさも、それによって起こる犯罪の被害も食い止められる可能性があるのです。

 正直、いろんな研究が進めば進むほど、犯罪にはしってしまう人には、なんらかの「障害」があるのではないか、とも思えてくるんですよね。
 でも、被害に遭った側からすれば、「しょうがないよね」「運が悪かった」で納得できるわけがない。
 より未然に防ごうとすれば、AIによる超監視社会みたいになってしまうのではないか、という気もするのです。
 僕はもう、そうなっても良いんじゃないか、って最近けっこう思っているのですけど。


fujipon.hatenadiary.com

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