- 作者: 雨宮塔子
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/02
- メディア: 文庫
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「30歳を前にして、やりたいことを自分からやりにいく人生も悪くない」と、TBSを退社し、パリでの生活を始めた。とまどいもあった。泣いた日もあった。新しい出会いもあった。そして、結婚し、出産。パリで家族ができた―。渡仏から出産までの約4年にわたって、はじめての海外ひとり暮らしで感じたこと、人生観を素直に書き綴ったエッセイ。20代、30代の多くの女性たちから支持されたベストセラーエッセイの文庫化。
多くの20代、30代の女性たちは、こういう生きかたを支持するのか……と考えながら僕は読みました。
異国でひとりで生きていく(しかも、日本人にとっては住むには敷居が高そうなパリ!)のは大変なのだろうと思いますけど、その一方で、雨宮さんは、どうやって食べているんだろう?というようなこともちょっと考えましたし。言うなれば「高等遊民」的な生活ですから。
まあ、そう言いながらも、「『人気女子アナ』という日本でのステータスを捨てて、30歳前という年齢で思い切って留学した雨宮さんの「心意気」には、けっこう感心してしまうのですけどね。「実際に生活してみてのフランスという国」に関して、けっこう赤裸々にも書いてありますし。
マイケル・ムーアは、『シッコ』で、「高負担だけれど、社会保障が充実した国」としてフランスを例示していましたが、雨宮さんは、その裏側にある、「お役所のアバウトさ」や「サービス業の人たちのおおらかさ」もしっかりと体験されています。「ワーキングプアの国」からみれば、「こんなに働かない人たちが、こんなに幸福に暮らしていてもいいのか?」と疑問になってしまうくらいです。日本で「お湯が出ない」というトラブルに見舞われたとき、「修理業者が来るのが1週間後」なんてありえないですよね。台風のなかでも懸命に復旧作業をする日本人のほうが異常なのかもしれませんけど。
ところで、雨宮塔子さんがフランス在住のパティシエと結婚した、というニュースを最初に耳にしたときには、「格差婚」なんて言葉が頭に浮かんできたのですけど、この本を読んでみると、そこに「格差」なんて存在しなかったということがよくわかります。お互いに日本にいたら出会わなかったカップルではあるかもしれませんが。
最後に、僕が気になったところをひとつ引用して終わりにします。
子供をもったことで、これからも本当にフランスで根を張っていくのだという現実を今さらながら噛みしめている。以前から日本依存症気味の私は、妊娠中、耳に入ってくるさまざまな情報に戸惑うと、いつも日本の情報に救いを求めた。私は日本人なのだから、生活習慣も体格も異なる欧米型のものより、自国のものに従うのがいいだろうと。これではいつまでたってもフランスで母親としてやってはゆけないと思ったのか、ついに彼は、私が日本の情報を引き合いに出すのを禁じた。
「日本では……というのは通用しない。俺たちはここに住んで、ここで生きていくんだから、ここのルールでやっていくしかないんだよ」と。
ここまでの「覚悟」が必要なのだろうか……こうして世界中の情報が入手できる時代だし、無理にフランス人になろうとするのは、「歪み」を生み出すだけではないのかな、などと僕は思ったのですけど……雨宮さん夫妻の将来が、ちょっと心配。