琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

僕がアップルで学んだこと ☆☆☆☆


出版社/著者からの内容紹介
スティーブ・ジョブズがアップルに戻ってきて行った仕事。
それは、働く"環境"を徹底的に変えたことです」(本文より)
一時はその存続が危ぶまれたアップルという会社が、回復に向けて
どのような環境を構築し、人材を集め、優れた製品やサービスを生み出すに至ったのか。
本書は、その一部始終を経験した元・米国本社シニアマネージャーが語る指南書です。
スティーブ・ジョブズの着眼点と彼が用いた手法、
そしてそこから著者が学んだノウハウには、
これからの社会を生きていくうえでのヒントが数多く含まれています。


内容(「BOOK」データベースより)
一時はその存続が危ぶまれたアップルという会社が、回復に向けてどのような環境を構築し、人材を集め、優れた製品やサービスを生み出すに至ったのか。本書は、その一部始終を経験した著者が語る指南書。スティーブ・ジョブズが用いた手法とそこから著者が学んだノウハウには、これからの社会を生きていくうえでのヒントが数多く含まれている。

アップルは、なぜ、すごい会社なのか?
スティーブ・ジョブズの復帰後、アップルは劇的な躍進をみせたのですが、実際にスティーブ・ジョブズがやったのは、どんなことだったのか?
ジョブズの死後、多数世に出た「アップル本」の多くは、ジョブズの「カリスマ性」に注目するあまり、「ジョブズがそこにいるだけで、すべてがうまくいった」ように書かれています。
そんなはず、あるわけないのに。


この著者は、実際にアップルの内部でその「改革」を体験しています。
アップルは、それまでも「天才たちが集まる会社」でした。
でも、そんな「よそではちょっと見られないような天才たちの集団」でも、誰かがうまく目標を設定しないと、迷走するばかり。

1990年代半ばのアップルは、本当に酷い状況だったようです。

 さらに社内のコミュニケーションの質は本当に笑えるレベルにまで低下しました。社内にどんなプロジェクトが走っているのかも定かではないのです。それでいて会社の機密事項は常に漏れっぱなしで、自分が関わっていない別のプロジェクトを知ろうと思ったらマック専門誌を買って読んだ方が正しい情報が得られるくらいでした。そんなわけでマック専門誌はまるで社内報のように重宝がられていました。私も欠かさず目を通していたものです。
 社員のモラルは落ちるところまで落ちていました。職場も散らかっている部署は本当に散らかっていました。試作機がなくなってしまうなどということさえしばしばあったほどです。
昼まで会社に来ない人が少なからずいたり、朝から来ている人がいるかと思えばひどい二日酔いだったり……。会社の中に何も生産していない人が多数いて、残りの真面目な人たちが一生懸命働いてそれらの人を養っているような状態でした。本社では社内にペットを持ち込むことも容認されており、中には犬と遊んでいるのか仕事をしているのか分からない人もいましたし、鳥を連れてくる人までいました。毎週金曜日にBeer Bashと称して社内でパーティーがあり、みんな早くからビールを飲んでいてあまり仕事になりませんでした。さらに5年間働くと1ヵ月の休暇がもらえたので、これに有給を付け足して2ヵ月ぐらい休みを取り、その間に就職活動をして会社を辞めてしまう人がたくさんいました。そのため自分が担当しているプロジェクトのコンタクト先が、何の前触れもなく引き継ぎもせずに辞めてしまうことがしばしばありました。そして次の担当者が決まるまで何日も空白期間ができてしまうのです。会社への忠誠心など誰も持っておらず、会社をうまく利用することばかり考えており、最低限の義務さえ果たしていない人が大勢いました。

よくこんな状態で、企業として成り立っていたなあ、と逆に感心してしまいます。
「アメリカの、いや、世界の中でもとびっきりの才能を持った人」たちの集まりであるはずのアップルも、『秩序』が失われれば、ここまで堕落してしまうんですね……
そして、著者は、アップルの「改革」を行った人物として、スティーブ・ジョブズの前にCEOを務めた、ひとりの人物の名前を挙げています。

(1993年にCEOに就任していたマイケル・)スピンドラーはやがて職を追われ、1996年2月にギルバート・アメリオが鳴り物入りでCEOに就任しました。現在のアップルの成功は何から何までスティーブ・ジョブズの功績にされてしまっていますが、本当の意味で改革をスタートさせたのはアメリオでした。もしもアメリオが就任しなかったら今日のアップルの成功はないばかりか、スティーブの復帰を待たずに倒産したのではないかと思います。

無駄な事業を整理し、リストラを行うなどのアメリオの「改革」がなければ、アップルはジョブズ復帰前に沈没してしまったかもしれません。ジョブズを呼び寄せたのも、アメリオの功績です。
結局、自ら呼び寄せたスティーブ・ジョブズにアメリオは「追放」されてしまうんですけどね。


著者は、ジョブズの復帰による「変化」を、アップル内部でリアルタイムに体験しています。
そして、「ジョブズは何を変えたのか?」という問いに、こう答えておられます。

 第1章でお話したように、スティーブが復帰する前のアップルは何の責任も問われない、悪い意味で「自由」な会社でした。当時もいまと同様に創造性溢れる面白い製品がどんどん生まれていました。ところがいまほど練れていない製品ばかりなのです。売れない製品を出したところで別に責任を問われませんから、ちょっと面白そうなら文化祭の出し物ぐらいの雰囲気で製品化してしまいます。ロクに責任を問われないため誰もキチンと最後までフォローしません。結局出す製品はどれもこれも問題だらけでした。あまりに自由すぎるので誰も責任感を持たず、みんな会社をうまく利用することばかりを考えていて、普通に仕事を回してゆくことさえできていませんでした。
 スティーブはこのアナーキーとも呼べる状態に「責任」を持ち込んだのです。私はちょうどそのことに東京で管理職に抜擢されたのですが、来日した上司に「いいか、お前は選挙で選ばれたんじゃないんだ。お前はこのグループの独裁者になるんだぞ」と言われたのをよく覚えています。私は部署の独裁者になれる代わりに東京発の失敗に対して責任を取らされる立場になりました。つまり独裁という自由の代償は重大な責任というわけです。
 スティーブ復帰以前は、自分の仕事は会社のためになっているのだろうか? 世の中のためになっているのだろうか? などと大企業に勤めている人にありがちな悩みを抱くことも多くありました。しかし彼の復帰後は各々の焼く役割と責任が明確に定義され、悩みを持たずに仕事に集中できる環境が生まれました。いつ責任を問い詰められるか分からない、という緊張感は仕事への集中と、常に前年度を上回るための絶え間ない工夫と努力を各人から引き出しました。こうした経験から、私は個人が責任を問われる環境というのは個人の力を最大限に引き出すうえで欠かせないものだと感じています。

アップルは、外からは「カッコイイ、スマートな企業」であるのと同時に、そこで働いている人間にとっては、「残業が多く、ノルマも厳しい会社」であると著者は述べています。
成功報酬は大きいけれど、その分の責任も負わされ、結果が残せなければ、すぐにクビにされてしまう。
「ある意味、アップルは、『ブラック企業』なのだ」とも。


この新書のなかでは、アップルの意外な面も紹介されています。

 多くの人がアップル製品を手にした際、アップルはきっと途方もない金額を開発に投じているに違いないと考えるでしょう。ところが実際にはアップルは開発に最もお金をかけていない会社のひとつなのです。<図2>は2009年の数字ですが、アップルは売り上げのわずか2.3%しか研究開発に投じていません。金額ベースでもマイクロソフトのわずか8分の1程度で、グーグルと比べても3分の1程度です。なお、この表にはありませんが、アップルの研究開発費はパナソニック、シャープ、ソニーなどの日本の大手と比べてもまだ低いのです。
 明快な開発コンセプト、優れたデザインを開発工程の上流で生み出したうえで、そこから先の開発や製造はケチケチとシビアにやっていく。これがアップルの実像です。

 アップルは「開発力」の会社だというイメージがあったのですが、けっして「開発費を湯水のように投じている」わけでもないし、「過剰品質を求めない」のです。
 それは、アップルという会社が、「個人の能力やアイディアを極限にまで引き出すこと」によって、お金をかけずに他の会社と勝負しているということでもあります。

 
 著者の「仕事術」は、読み流してしまいそうになるほど、基本的なものばかりです。
「身の回りの整理整頓」「早起きしてメールの処理などは終わらせよう」「通勤時間を短くするために、職場の近くに住んだほうがいい」
 でも、こんな当たり前のことを、実行できている人は、ほとんどいないんですよね。
 「職場の近くに住む」だけで、何年、何十年かのトータルで考えれば、かなりの通勤時間を「自分の時間」にできるはずなのに。


 著者はいま、アップルで学んだことを活かして、「保育園経営」に取り組んでいるそうです。
 大人でさえ、環境でこんなに変わるのだから、子どもの頃の環境は、すごく大切なはず。
「環境で、人は変わる」
「そして、人は、自分で環境を(ある程度は)変えることができる」
 僕も、自分のこと、自分の息子のことを、考えずにはいられませんでした。

 
 まあ、アップルでのジョブズの改革は「劇薬」みたいなもので、こんな緊張感に、長い間耐えられる人は少ないとも思いますし、僕は「日本的な馴れ合いの職場」も、長い目でみれば、そんなに悪いものじゃないという気もするんですけどね。
 ジョブズの後継者たちが、どんなふうに今後アップルの舵取りをしていくのか、すごく興味深いなあ。

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