
- 作者: パトリック・ハーラン
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2014/04/10
- メディア: 新書
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- 作者: パトリック・ハーラン
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2014/04/10
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内容紹介
パックンだから語れる「ハーバード流トーク術」!
練習すれば口下手は治る! ハーバード大卒のお笑い芸人であるパックンことパトリック・ハーランが、
相手の心を「ツカむ」話術を伝授! エトス・パトス・ロゴスといった『弁論術』の基礎的な理論や、
アメリカの歴代大統領のスピーチ術、芸人としての笑いの研究などの実践例を、軽妙な筆致で紹介!
合コンからグローバル交渉まで、あらゆる相手と場面で通用する話術と、その鍛え方を解説します!!
池上彰との「伝える力」対談も収録!!
まあ、芸能人だから、もともと「話す才能」がある人が書いた本だよね……などと思いながら読み始めたのですが、けっこう参考になりました。
僕は「知らない人と一緒にいて、話すことがない空気がイヤで、職場の忘年会にも出たくない」くらいなのですが、ネットをやっていると、そういう人って、少なくないということがわかります。
でも、そこで開き直って「僕も出ない!」と言えるかというと、どうしてもそれでは角が立つような状況というのもあるわけで。
だいたい、こっちが話しかけづらいのはイヤなんだけど、それ以上に、相手が話しかけづらそうにしているのが伝わってくるのも辛いんだよね。
それで、ついついお酒の力に頼ってしまうのだけれど、それでもなんだかうまくいかず……
「非コミュ」な自分って、ほんと、めんどくさい。
こういうとき、「要は、勇気がないんでしょ!」で済まされてしまいがちなのですが、この新書の著者の「パックン」こと、パトリック・ハーランさんは、こう仰っています。
でも、ちょっと待って!
話す力というのは、生まれつきのものじゃないんです。
アメリカでは小さい時から、人の話を聞いてそれにさっと反応することや、自分自身の考えをはっきり言うことを、徹底的に教え込まれます。だから、アメリカ人が話し上手、コミュニケーション上手に見えるとしたら、それは性格というより、教育と文化の中で話術トレーニングをみっちり積んでいるから。
もしかしたらそうした経験を幼少期のうちに受けなかったから、もう変えられないのかもと思う人もいるかもしれません。でももちろんそんなことはありません。今からトレーニングすれば誰でもちゃんとできるようになるんです。
日本の方たちは、うまく話せないことを自分の性格的なものと捉えすぎる傾向があります。だけど、トレーニングしてないのに、苦手だとか下手だとか決めつけるのはおかしいんです。
話術は磨くもの。生まれつき言葉をしゃべれる人間がいないように、生まれつき話がうまい人なんていません。
「話すこともスキルの集積」と考えましょう。どれだけたくさんのスキルを学んで、どれだけ自分でその技術を磨いてきたか。大事なのはそこなんです。
アメリカの社会では、話術のトレーニングをしていない人は、社会生活を営む上で明らかに不利になります。自分の性格がどうあれ、サバイバルのためには自分らしく話す技法を身につけるしかない。そう割り切って、スキルを磨くものなんです。
「話すこともスキルの集積」か……
プレゼンテーションの名手として知られたスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションの極意を解説した本を読んで僕が驚いたのは、ジョブズは、短い時間のプレゼンのためにスライドを徹底的に作り込み、リハーサルを何度もしていた、ということでした。
あのプレゼンは「才能」だけでやっているのではなくて、ジョブズが練習して身につけた「スキル」だったのです。
僕はそのことを知って以来、人前で話すときは、自分なりにしっかり準備をすることを心がけています。
もちろん、ジョブズのように上手くはいきませんが、それでも、だいぶマシにはなったと思うのです。
性格的に物怖じしない、誰の心にもスッと入っていけるような人というのも、たぶんいるんですよ。
でも、それを持っていない「普通の人間」でも、あらかじめ準備をすることによって、コミュニケーションをとりやすくすることは可能なんですよね。
たとえば、今日話をする相手の趣味とか好みをあらかじめ仕入れておくとか。
僕はこれを「吉田豪メソッド」と名づけています。
この新書を読んでいると、日本という国そのものが、「コミュニケーション教育後進国」ではないのか、と思えてくるのです。
「アメリカ人は陽気でオープンで誰とでもすぐ話せる」というイメージのとおり、そういう人が多いです。が、それは生まれついた性格ではありません。アメリカの教育の基本には、コミュニケーション能力を育てることがしっかり位置づけられています。
アメリカの子どもたちは幼稚園のころから、”show and tell”(見せて話す)ということをやります。「来週は”show and tell”をやるから何か持ってきて」と先生に言われ、家にあったおもちゃや雑貨、森で拾った蛇の抜け殻などを持っていくんです。そして、クラスメイトの前で「これは何か?」「どこで手に入れたのか?」「あなたにとってどういう意味があるものなのか?」という先生の質問に答えます。これが小学校二年生ぐらいからは、全部一人で話した後に、クラスメイトからの質問タイムがあります。つまり、アメリカの子どもたちは四、五歳くらいの段階から、プレゼンの練習を始めているんです。
ただし、パックンは「何でもアメリカが正しい」と主張しているわけではなくて、日本のような、国民の同質性が高く「言わなくてもわかる」という「ハイコンテクスト」の国と、アメリカのように、さまざまな人種がいて、自分から主張することが求められる「ローコンテクスト」の国があって、それぞれの場には、そこに向いたコミュニケーションの方法があるのだ、とも述べています。
大事なのは、「正しさを押し付けること」ではなく、「自分の考えを伝え、理解、賛同してもらうこと」だとも。
こういうのはまさに、「アメリカと日本、両方の文化をよく知っている」パックンだからこそ、なんだよなあ。
この新書のなかでは、「エトス」「パトス」「ロゴス」という「説得力を上げる三大ファクター」がキーワードとして設定されています。
まずは簡単に説明しましょう。
エトスとは人格的なものに働きかける説得要素。話している人を信用しようという気にさせるような表現を指します。人格が優れている、品格がある、人柄がよい、センスが良い、面白そう、価値観が自分と一緒などの、その人自身の信頼性・信憑性などがエトス度を上げます。
パトスは、感情に働きかける説得要素。怒り、喜び、愛国心など、聞いている人に特定の感情を抱かせるような表現が、説得する上で大きな役割を果たします。
ロゴスは、頭脳に働きかける説得要素。その人の言うことを頭で考えて理解し、納得するというようなものです。だから論理性がある、理論的であるといったことでロゴスが高まります。一般にロゴスは論理による弁論という意味で使われます。でも僕は、一見論理的に聞こえるけれど実際は論理に飛躍があるもの、それっぽく感じるというものも含め「言葉の力による説得要素」という意味で、ロゴスという言葉を使っています。
この三要素は、議論好きだった古代ギリシャ人が使っていた弁論術、説得術などの言語表現法を完全体系化した、アリストテレスの『弁論術』の中に書かれています。
さすがハーバード卒! アリストテレスか!
とか、思わず茶々を入れてしまうのですが、この「三大ファクター」の説明、実際にこの本を読んでみると、すごくわかりやすく書かれていて、なるほど、と唸らされます。
エトス・パトス・ロゴスは同等の力を持っているものではありません。エトス>パトス>ロゴスとなっています。どんなに綺麗な言葉づかいでどんなに論理的に正しいことを言っても、エトスの信憑性とパトスの感情力を伴わないと説得力がない。ロゴステクニックをぜひ覚えてほしいんですが、併せてその弱さも理解してください。
まず、「どんな人が話しているか」が一番で、次に「感情が揺り動かされたか」、そして最後が「内容の正しさ、論理性」なんですね。
「正しいことを言っているのだろうけれど、どうもこの人の言葉は信用できない」ということって、少なからずあります。
信頼している人の言葉であれば、多少内容に矛盾があっても、納得してしまうことも多い。
もちろん、「論理」は大切だけれども、それだけでは「伝わってくる人柄」や「情緒性」にかなわない。
パックンは、「エトスを高めるための技術」についても、この新書のなかで紹介しています。
それは、そんなに難しいことじゃないのです。
話しているときの姿勢とか声の大きさとか。
アメリカではいまだに絶大な人気を誇るレーガン元大統領。彼を「ザ・グレート・コミュニケーター」に仕立てたメディア顧問のマイク・ディーヴァ―は、こんな言葉を残しています。「テレビにおいて視聴者が注目しているのは、85パーセントが見た目、10パーセントが言葉の印象、そして5パーセントが話の内容だ」。
パックンは「だからこそ、エトスやパトスを駆使して、他者を騙そうとする人が少なからずいる」ということにも言及し、読者に警告もしています。
「そんなうまい話には騙されないぞ」と思っているはずなのに、「話の内容」よりも「見た目」に騙されてしまう。
この人が言うことなら、信用できるはず、と。
「騙す人」というのは、そういう人間の心を熟知しているのです。
この本は、「友人・知人との日常のコミュニケーション」よりも、「公の場での他人との付き合いかた」の参考になるところが大きいのではないかと思います。
僕がその両者を区別してしまうのは「日本人的なコミュニケーション」の世界しか知らないから、なのでしょうね。
たぶん、アメリカ人には、「どちらも同じ他者とのコミュニケーション」で、そこに線引きをする意味がわからない。
これ一冊ですべてが変わる、ということは無いでしょうけど、「コミュニケーションは精神論ではなく、スキルを磨くことによって上達できる」というメッセージが伝わってくる良書だと思います。
いくらハーバード卒の「秀才」だからといっても、「アメリカから日本に来て、日本語を駆使して芸人として食べていく」というほど高いハードルを越えるのは、簡単なことではないはず。
だからこそ、パックンの「言葉」には、すごく説得力があるのです。
ああ、これが「エトス」か!
コニュニケーションの技術書としては、こちらもオススメです。

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