- 作者: 小林敬幸
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/09/21
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Kindle版もあります。
- 作者: 小林敬幸
- 出版社/メーカー: 講談社
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内容紹介
総合商社。それはじつはバブル期以降の急成長業界であり、「ポストバブルの勝ち組」である。伊藤忠商事、住友商事、丸紅、三井物産、三菱商事。バブル崩壊以降、五大商社のすべてが、吸収合併もされず、会社名も変わらず、とりわけ2001年以降、利益もバブル発生前の約10倍に拡大させてきた。誰もが知っているけれど、実態はよく知らない総合商社。その本当の姿を知ると、ビジネスの本質も見えてくる!
僕自身は、なんとなく出身大学の医局に入ってしまったので、大学時代に会社訪問や説明会、入社試験などの就職活動を経験していないんですよね。
今は、医学部の学生も、研修を希望する病院へのマッチングがあるので、就職活動的なものと無縁ではいられないみたいですが。
就職活動って、大変そうだな、というのと同時に、未知の世界であるがゆえの、漠然とした憧れ、みたいなものもあったのです。
今から考えてみると、やる気も実力もない(あるいは、長続きしない)僕にとっては、間違って「自分を成長させてくれるはずの、厳しい会社」などに就職しなくてよかったのでしょう。
「総合商社」といえば、三井物産とか伊藤忠商事とか、ものすごくデキる、そして、気合の入った人たちが、身体を張って世界各地に出かけていって、さまざまな資源を確保したり、現地の手練れの人々と丁々発止のやりとりをして、商品を買い付けたり売り込んだりする、というイメージがあるのです。
しかしながら、そういう、深田祐介さんの『炎熱商人』や山崎豊子さんの『不毛地帯』で描かれていたような商社マンというのは、現在はもう、絶滅危惧種になっているようです。
「貿易・売買・口銭ビジネス」というのは、もはや商社の収益の柱ではなくなってしまった。
著者は、1980年代半ばから、30年間三井物産で働いた経験をもとに、「商社(総合商社)」が、時代に合わせて仕事を変えていくことで、生き残るどころか、大きな利益をあげるようになったことを紹介しています。
もともと、取り扱う商品・サービスが多岐にわたり、しかも本社が消費者と直接接することがほとんどないので、一般の消費者には、わかりにくかった。
それに加え、2001年以降、商社は、そのビジネスの形態を大きく変えてしまった。だから、知っていると思っている人の認識も、いまの実態とはかけ離れていることが多い。
商社は、バブル以後の急成長業界であり、知られざる「ポストバブルの勝ち組」である。バブル崩壊で衰退した業界・会社はあまたあるけれど、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅の商社のトップ5社は、吸収合併もされず、会社名も変わらず、利益もバブル発生前の数百億から数千億円へとざっと10倍くらい飛躍的に拡大した。
5商社平均の連結純利益(連結税後利益:税引後の最終利益)の、1986~2017年の30年間の推移を見てみよう。商社は、バブル発生まで、1社の年間純利益は、数百億円のレベルだった。その後バブル崩壊のダメージを手ひどく受け、1996~2000年では、5社5年の純利益平均がほぼゼロに近い赤字にあえぐ。ところが、2001年以降、収益が急成長し始め、05年から1社当たり純利益1000億円、07年からは2000億円を超え始める。
2001年からの7年の短期間で純利益が赤字から2000億円台に到達するというのは、グローバルで見ても一企業で見ても珍しい急成長ぶりである。しかも、同業界のトップ5社でそれができている。2007年には業界5位の丸紅も、純利益が1000億円を超えている。シリコンバレーでも、一つの業種・分野でこんなに急成長して大きな利益を出している企業群はないだろう。
これほどの高収益・高成長業界であるにもかかわらず、一般の人だけではなく、ベテランのビジネスパーソン、ビジネス系記者、経済・経営の学者でも、商社がどういうビジネスの仕方をしているのかよくわかっていない。
商社が、バブル崩壊のあと、こんなに「再発展」していたなんて、僕はまったく知りませんでした。
この新書を一冊読めば、「いまの商社は、どういう仕事をして、稼いでいるのか」の概略がわかるようになっているのです。
種明かしをすると、現在、商社の業績評価の基準は、本社単体の売上高ではなくて、連結決算の当期純利益(税後利益)になっている。つまり、営業部ごとに計算している連結当期純利益さえいい数字が出ていれば、売上高がゼロでもいい点数がついてボーナスもたくさんもらえる。
魚往昔評価の基準が、単体売上高から連結当期純利益に変わったのは、商社が利益を得る方法(業態)を変えたからだ。この30年ほどでモノを売って儲ける売買仲介型から事業投資型に劇的にビジネスモデルを変えてきた。モノを買ったり売ったりすることよりも、新しい事業を立ち上げたり、出資した事業会社の収益の持ち分を利益とすることのほうが大きくなってきた。
商社は、直接商品を輸入・輸出したり、代理店としてマージンを得たりするのではなく、さまざまな国で得てきた経験を活かして、新しい事業に投資をすることによって、利益を得るようになってきたのです。
ただし、投資会社とは違って、お金を出すだけではなく、直接優秀な社員をその会社に送り込んで、仕事がうまくいくように、実務面でのサポートを手厚く行っています。
子会社への出向というのは、「左遷」というイメージでみられがちなのですが、いまの商社では、子会社があげる利益が本社の「生命線」であり、優秀な社員ほど前線での陣頭指揮を託されるようになってきているそうです。
工業製品の単純な輸出をするビジネスが縮小していく中で、1980年代後半から商社は、日本の製造業に対して、輸出以外の別のグローバル対応のサポート機能を提案し始めた。
まず、輸出契約の売り手であった現地の販売会社に直接商社が出資した。現地資本や日本メーカーと、販売会社を合弁会社(ジョイントベンチャー)の形で設立した。製品の売り先である現地販売会社に出資して、上手に経営すれば、「商社外し」に遭わなくて済む。
さらに、最初から商社の資本主導で現地販売会社を立ち上げ、自分たちが人を出して、経営を始めた。現地で、販売員をたくさん雇って、消費者に対して売っていかなければならないので、よほど現地の文化、習慣、制度に通じていないとできない。制度、風習がわかりやすい欧米の先進国ならメーカーが自前でできても、アジア、アフリカ、中南米となると、長年現地で拠点を持ってビジネスをしてきた商社に一日の長があった。こうなると、商社にとっても、輸出仲介の損益よりも、その販売会社の損益のほうが大きくなってくる。こうして売買仲介型から地場に密着した事業投資型に移行していった。
これまでの「現地の人々とのネットワークと経験」を活かして、貿易だけを行う会社と投資会社の手が届かないところを商社が抑えているんですね。
ただ、これは「いいとこどり」である一方で、世界のグローバル化がすすんできたり、インターネットでの取引がさらに進化していくと、その役割は縮小してくる可能性はありそうです。
そういう変化への危機感を抱き、つねに新しい事業形態を受け入れてきたことが、いまの商社の隆盛の原因でもあるのですけど。
著者は、就職活動をしている学生に、こう呼びかけています。
貿易エージェントコミッションの収益が落ち、資源ビジネスの比率もそれほど高くないなら、一体、どうやって生き延びてきたのだろうか。
それは、いま振り返ると、事業の多様性と自分たちを変える力のおかげだったと思う。「何でもやっちゃう」「すっかり変わっちゃう」からこそ生き延びてこられたのだ。
ここで、就活生に率直に一つ言えるのは、何か本当にやりたい決まったことがあるなら、商社ではなく、専門の会社に行ったほうがいい。
資源ビジネスが本当にやりたいなら、BPか石油資源開発に就職すればいい。ひたすらネットビジネスの可能性を追求したいなら、ネット企業に勤める。社会貢献事業がしたいのなら、公務員かNPOの仕事に就くべきだと、私は、個人的には思う。
一方で、専門的にやりたい分野がこれといって決まっておらず、むしろ、様々なビジネス分野、様々なビジネスの業務を経験したい人には、商社は、向いているだろう。
多様性と変化が楽しめるかどうかが、商社に勤めるかどうかの決め手だと思う。
そうか、「なんでもやってみたい人」のほうが、商社向きなんですね。
まあ、5大商社となると、希望したからといって、簡単に就職できるような会社ではないのでしょうけど。
「そういえば、『商社』って、ものすごく有名だけれど、何をやっている会社なのか、よくわからないよなあ」
これを読んで、そのことに気づいた方は、手にとってみることをおすすめします。
あと、これから就職活動を控えていてる学生にとっても、けっこう役に立つ内容だと思いますよ。
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