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【読書感想】世界「倒産」図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由 ☆☆☆☆

世界「倒産」図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由

世界「倒産」図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由


Kindle版もあります。

世界「倒産」図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由

世界「倒産」図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由

内容紹介
■「倒産」は教訓と知恵の宝庫である

リーマン・ブラザーズエンロンコダック、トイザラス、MGローバー、山一證券、そごう、タカタ……日米欧の25事例を徹底分析!


■なぜ一時代を築いた企業は破綻に至ったのか

良い会社かどうかを判断する時、我々は過去の実績や経営指標などのデータを重視します。しかし、数字だけでは見えないこともあります。
経営者も一人の人間であり、例えば急成長の後の油断や甘え、変化に対する焦り、恐れなどによって迷い、時には不正に手を染めてしまうことも……。
倒産に至る過程を、人間ゆえの弱さを軸に見ていくと、また新たな発見と気づきがあります。


■教訓満載!『世界「倒産」図鑑』25事例のラインナップ


 隆盛を極めた企業が、なぜ「倒産」していったのか。
 最初から事業がうまくいかなければ、倒産することがニュースにはならないのです。

 この書籍では、それぞれ倒産した事例について「どういう企業だったのか」「なぜ倒産したのか」「どこで間違えたのか」「私たちは何を学ぶべきなのか」といった項目に分けて考察を深めていきます。先ほどご説明した通り、本書の大事なポイントは、「この事例から私たちは何を学ぶべきなのか」ということ。このような失敗事例を、先人たちから私たちへのメッセージと捉え、今日を生きる私たちの意味合いをまとめています。
 そして、倒産企業のカテゴリーは、その倒産原因別に分け、「戦略に問題があったケース」と「マネジメントに問題があったケース」に区分しました。
 戦略上の問題は、「過去の亡霊」型と「脆弱シナリオ」型に分けています。

 
 ここで採りあげられている「倒産」してしまった企業には、大成功していた時期があった。
 ところが、ひとつのやり方で「成功」してしまったがゆえに、その成功体験にとらわれてしまって、時代の変化に気づかずに、同じことを続けて、結果的にダメになってしまう、ということが多かったのです。


 この本で最初に出てくるのは「そごう」です。
 僕が子どもの頃には、「そごう」の大型店が大勢の人でにぎわっていたのを思い出します。
 あの「そごう」は、なぜ倒産してしまったのか?

 そごうがここまで急激に拡大できた背景には、「地価」という要素がありました。そごうは出店予定地周辺をあらかじめ買い占め、出店で地価を上げることで資産を増やします。こうして担保力をつけて黒字化した独立法人が、新しい店舗(独立法人)の債務保証をしながら銀行から資金調達し、そしてまた新たな店舗を作っていく、というサイクルを作っていきました。
 例えば、千葉そごうが軌道に乗ると、今度は千葉そごうが出資して、柏そごうを設立。さらに柏そごうと千葉が共同で札幌そごうなどに出資するという形です。地価が上がっていれば、担保によって銀行から新たな資金を調達することができ、そうして新しい店舗を広げていったのです。

 しかし、このサイクルはいくつかの重大な問題を孕んでいます。
 1つ目は、そごうの独立法人同士が支え合う複雑な形になっていたため、経営の内情がブラックボックスになること。これに水島社長のカリスマ性が合わさって、誰もグループ全体の経営状況を把握できない状況になりました。資金の貸し手である銀行も、そして当の水島社長ですら、正確な全体像を把握していなかったと言われています。各社ともに独立法人であったために、人的交流もなく、数字の基準もバラバラな状態が放置されていました。恐ろしい規模のどんぶり勘定が許されてしまっていたのです。
 そしてもう1つは言うまでもなく、地価が下がった時は全てが逆回転する、ということです。担保価値が低下して銀行が資金提供を止め、資金回収に回る時、この拡大サイクルは一気に「崩壊サイクル」へと転じます。
 地価が上がっていた1989年までは拡大サイクルが回っていましたが、バブルが崩壊してからは全てが逆回転し始めたのです。土地を担保にしていた過去の負債がバブル崩壊以降のそごうに重くのしかかり、金融機関からの圧力も高まります。


 僕は「バブル崩壊後の日本経済の長年の停滞」を知っていますから、「土地がずっと上がり続けることを前提にした経営なんて、無謀にも程がある」と思うのです。
 でも、あの頃の記憶をたどってみると、ほとんどの人は、日本の地価も株価もこのまま上昇し続けるものだと信じていたんですよね。あるいは、いつか下がることもあるかもしれないけれど、それはまだ先のことだろう、と。
 そして、バブルが終わり、地価が下がっても、「これは一時的なもので、いずれはまた上がってくるだろうから、それまで我慢すればなんとかなる」と、多くの人が考えていたのです。
 もちろん、何十年単位でいえば、それは正解なのかもしれないけれど、大概の個人や企業は、長期の低迷に耐え続けるのは難しい。
 「答え」を知っている立場であれば「無謀な経営」と責めることができるけれど、当時「正解」を知っていた人は誰もいなかったのです。
 この本を読んでいると、企業を一気に大きく成長させる、ということには、ある種のギャンブルみたいなところがあって、地道に積み重ねるだけでは大きな成功を掴むのは難しい、ということもよくわかります。

 
 一度ものすごくうまくいったことが、ずっとうまくいくとは限らない。
 でも、思い切って他のことをやっても、それが成功する保証はない。
 成功するのは大変だけれど、良い状態を維持するというのは、それ以上に難しいことのようにも思われます。


 「NOVAうさぎ」のキャラクターで知られていた、英会話教室『NOVA』は、低価格と「好きな時間に受講できる」という手軽さで成功し、一時は受講者数が25万人をこえていました。業界最大手となり、1996年にはジャスダックには英会話教室として初めての株式公開も果たしています。ところが、成長が急激すぎたために、教室が乱立し、講義のレベルが下がっていったのです。
 さらに、2~3年の長期契約を前提としたレッスンの大量購入制度は、うまくいっているときには潤沢な資金供給につながっていたのですが、解約者の増加が問題になっていきました。

 このNOVAの事例の失敗の背景は、「前金ビジネス」の要諦を完全に外したことにあります。サービス提供側に顧客から支払いをしてもらう前金ビジネスは、支払いが後になるその他多くのビジネスと異なり、キャッシュフローの面でかなり楽になります。
 しかし、この手のビジネスには「堕落」という大きな落とし穴があります。つまり、「契約を取るまでは全て」であり、その後の顧客満足度に興味が向きにくい、ということです。さらに、未消費レッスンを残したままフェードアウトする顧客が増えるほど、少ない講師数で教室を運営することができるようになるため、NOVAの利益率は高くなる、というメカニズムがあります。極めて堕落の引力が強いビジネスと言えます。
 したがって、このような前金ビジネスほど、マネジメントサイクルに「規律のメカニズム」を入れなくてはなりません。具体的には、顧客からの満足度を何らかの経営指標として掲げ、満足度が低い講師や教室については経営が目を光らせて、早め段階で手を打つ仕組みを導入することです。
 しかし、残念ながらNOVAはこの「規律」が効いていませんでした。それよりも、「キャッシュイン」につながる生徒数、そしてそれにつながるCM作りや教室展開を何より優先していたのでしょう。そうなれば、現場はキャッシュにつながる「新規顧客の獲得」にしか目がいかなくなり、自ずと既に契約した人からのリクエストや苦情に対する優先度は落ちることになります。このような「サービス業としての堕落」が、結果的には時限爆弾のように時間差を置いてNOVAを直撃したのです。


 まさに、絵にかいたような転落劇、だったわけです。
 前金で講義の内容を充実させて、既存の会員を満足させることよりも、CMで新会員を獲得していくという、自転車操業に陥ってしまったNOVA。会員は途中でやめてくれたほうが、先にお金は払ってくれているので利益率は上がる、って、ひどい話ですよね。
 こんなビジネスが長く続くわけがないのだけれど、運営側にとっては、とりあえず今、お金が回っていればいいや、という感じになってしまうようです。
 
 紹介されている25社、それぞれ「倒産の背景」には共通点もあり、違いもあるのですが、企業の経営というのは、うまくいっているからと、少しでも油断するとそこで終わってしまうものなのだな、と思い知らされました。
 

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