琥珀色の戯言

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【読書感想】ルポ教育虐待 毒親と追いつめられる⼦どもたち ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
「教育虐待」とは、「あなたのため」という大義名分のもとに親が子に行ういきすぎた「しつけ」や「教育」のこと。どこまでの厳しさは許されてどこからが教育虐待なのか、教育虐待を受けて育つとどうなるのか…。気鋭の教育ジャーナリストが壮絶な現場に迫りその闇を照らす「救済の書」。


 最近、「教育虐待」が、あらためて話題になっています。
 自分の子どもに対して、「あなたの将来のため」と、勉強をさせようとする……のだけれど、大半の子どもは、親の思い通りに勉強してはくれませんよね。うちもそうです。
 そこで、大部分の親は、なだめすかしたり、モノで釣ったり、懇々と諭したり、諦めたりするわけですが、なかには、歯止めがきかなくなってしまう親も出てくるのです。

 生きている実感がない。職場でも恋愛でも、どうしても人間関係がうまくいかない。原因は自分でもわからないけれど、いつもイライラしていて怒りっぽい。そんな満たされない感覚が常にあるのだとしたら……。
 もしかしたらあなたも、「教育虐待」の被害者なのかもしれない。
 「教育虐待」とは、「あなたのため」という大義名分のもとに親が子に行ういきすぎた「しつけ」や「教育」のことである。2012年8月23日付の毎日新聞に掲載された記事によれば、「子どもの受忍限度を超えて勉強させるのは『教育虐待』」とのこと。
「教育虐待」という言葉は、ここ数年でメディアでもたびたび見られるようになった。では教育虐待自体がいま増えているのだ。

 子どもの成績のことでつい叱りすぎてしまったり、勉強を教えてもなかなか理解できない子どもををつい叩いてしまったりという経験なら、実は多くの親にあるはずだ。もしくは自分がそうされて育ったという大人も多いだろう。
 それも教育虐待なのか、違うのか。どこまでの厳しさは許されてどこからが教育虐待なのか。教育虐待を受けると子どもにどんな影響が出るのか。教育虐待を受けて育った大人はどんな人生を歩むことになるのか……。
 教育虐待の闇を照らす、これが本書の目的だ。


 家庭のなかで起こっていることというのは、他者からは、なかなかうかがい知ることはできないのです。
 子どもに勉強をさせようとして、暴力をふるってしまったり、極端な例では刃物で刺してしまったりした親の話はニュースになり、多くの人が「そんなの親じゃない」とか「自分の子どもにそんなことをするなんて信じられない」「子どもはもっとのびのび育てるべきだ。ムリに勉強させてはいけない」とコメントをつけています。
 でも、僕はそういう「正しい意見」をみながら、考え込まずにはいられないのです。
 本当に子どもが「やりたいようにさせてあげる」としたら、たぶん、学校には行かないし、家でずっとテレビゲームをやり続けているのではないか、と。
 僕の子ども時代を思い返すと、そうだったから。
 小学校高学年くらいになった時点では、自分は顔も良くないし、スポーツもできないから、勉強で生きていくしかない、という覚悟みたいなものはできていた記憶があるのですが。

「子どもの受忍限度を超えて勉強させるのは『教育虐待』」という概念にしても、「受忍限度」というのは、人それぞれなわけです。
 イチロー選手の子ども時代の練習などは、イチロー選手があれだけの成功を収めたから美化されているのであって、失敗していれば「教育虐待」と呼ばれるはずです。
 そもそも、「受忍限度」というのは、限界にぶち当たってみないとわからないし、東大に入れて大成功、と思いきや、その後の人生で何をやってもうまくいかず、何度も自殺しようとしている人の話も紹介されています。
 
 完璧な人間ではない「親」が、同じく完璧ではない「子ども」を育てるのは、本当に難しい。
 多くの人が口にしている「毒親」というのも、親になってみると、まったく「毒親成分」がない親というのがこの世界に存在するのだろうか、と疑問になるのです。

 まあしかし、誰がみても、これはおかしい、というレベルの「教育虐待」はあるのです。

 夜中まで椅子に縛り付けて勉強させるとか、なんでも親が決めるべきと考え、子どもがどこで何をしているか常に把握していないと気が済まず、望み通りにならないとヒステリーを起こす、など。
 そして、そういうふうに育てられた子どもは、親の「呪い」を自覚しながらも、「親を捨てるなんて『親不孝』なことはできない」という、その親に植え付けられた常識に縛られつづけてしまうのです。


 読んでいてあらためて感じたのは、親というのは、子どもにとってはかけがえのないものであり、それだからこそ、親は子どもから見えている世界の狭さに配慮しなければならない、ということなんですよ。


 子どもシェルター「カリヨン子どもセンター」の創設者のひとりである坪井弁護士の話より。

 カリヨンを始めたばかりのころ、実際にそういうこと(ある子どもが、複数のスタッフそれぞれに別のスタッフの悪口を言い、スタッフの人間関係にひびを入れて、大人をコントロールしようとしたこと)があった。最初はどうしていいかわからず、スタッフは翻弄され続けた。そこで坪井さんはその子に直談判した。「もうやめて。このままではスタッフみんながダメになってしまう。カリヨンを存続できなくなる。そんなことをしなくても、みんなあなたのことを見ているから大丈夫だよ。誰もあなたを見捨てないから」と伝えた。
 するとその子は「なんで出て行けって言わないの?」と坪井さんに突っかかってきた。
 坪井さんは目を見開いて言い返した。「あなたさ、どっこも行くところがなくなって、カリヨンにたどり着いたんだよね。そのあなたに『出て行け』って言ったら、それは『死ね』って言ってるってことじゃない。私たちはね、子どもの命が守りたくてこのシェルターをつくったんだよ。口が裂けても『出て行け』とは言わないからね!」。
 子どもは、「うわー!」と大声をあげて泣き出した。そして「『出て行け』って言われなかったの、初めてだよ」と言った。
 小さなころから「言うことを聞かないのなら出て行きなさい!」と言われて育ってきた。子どもが家を追い出されたら、それはすなわち死を意味する。つまりその子それまでずっと「言うことを聞かないのなら死になさい!」というメッセージを受けとり、脅されながら育ったのだ。
「私はずっと、『死ね!』『死ね!』と言われて育ったの。『出て行け!』って言われなかったのは初めてだよ」とその子は語った。それから彼女は本当の意味でカリヨンのスタッフに心を開くようになった。
「その子がどれだけ辛い人生を歩んできたことか。子どもに『出て行きなさい』は絶対に言ってはいけないのです。そう思うのなら親が家から出ていくべきです。親は家を出ても死にませんから。でもこれは氷山の一角だと思います。世の中には同じくらい辛い思い、もしかしたらもっとつらい思いをしている子どもがたくさんいます。その現実をみなさんに知ってほしい。だから私はこうやって話します。それが知ってしまったひとの使命だと思っています」


 子どもに「出て行け」と言うのは、「死ね」と言うのと同じ。出て行けないことを知っていながら、いや、知っているからこそ、親は苛立ったときに、そういう言葉を発してしまうのです。
 その「重さ」を顧みることなく。
 これを読んで、自分が子どもだったときのことと、親としての至らなさを同時に思い出して、僕はしばらく身動きがとれませんでした。
 

 教育虐待に陥らないために、親は自分自身に次のように問いかけてほしいと坪井さんは訴える。


(1)子どもは自分とは別の人間だと思えていますか?
(2)子どもの人生は子どもが選択するものだと認められていますか?
(3)子どもの人生を自分の人生と重ね合わせていないですか?
(4)子どものこと以外の自分の人生をもっていますか?


 これができていないということは、親が子どもの人生に依存しているということ。「共依存から虐待は始まる」と坪井さんは指摘する。


 このシンプルな4つの問いすべてに、自信をもって「はい」と答えられる親は、どのくらいいるのだろうか?
 何のためらいもなく、「はい」と即答できるのも、それはそれで不穏な気もするのですが。

 あるイギリス人が、笑いながら私に話してくれた。「私の家は代々、名門校を卒業して、オックスフォード大学かケンブリッジ大学へ行くのが伝統でした。私も高校までは名門校に進学しました。でも、わが家系の200年の歴史の中で初めて私が、オックスフォードにもケンブリッジにも合格できませんでした」。
 相当なプレッシャーだったはずだ。しかし父親は「そういう人生もある」と認めてくれたそうだ。彼はいま、日本で音楽関係の仕事に就いている。素晴らしい人生を送っていると語ってくれた。
 わが子がそのルートから離脱するのに際しては、父親にだって葛藤はあったはずだ。しかしこの父親は、恐怖を息子に引き継がず、自分の代で断ち切ったのだ。これこそ本当にわが子を守ることではないかと私は思う。


 「そういう人生もある」。
 何気ない言葉だけれど、それを受け入れるのは、その立場になってみると、想像しているよりもずっと難しい。
 この部分を電車のなかで読んでいて、涙が出てきて困ってしまいました。


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