琥珀色の戯言

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精神疾患の徴候のある青少年はインターネット中毒になりやすい

「Medical Tribune」の2009年11月19日号で、こんな論文が紹介されていました。
以下、「Medical Tribune」の記事より。

〔シカゴ〕高雄医科大学と同大学病院(台湾・高雄)精神科のChih-Hung Ko博士らは、精神疾患の徴候が認められる青少年はインターネット中毒になりやすい傾向があるとArchives of Pediatrics & Adolescent Medicine(2009; 163: 937-943)に発表した。

 インターネットは青少年にとって最も重要な情報源となっているが、熱中すると学業成績、家族関係、情緒面にマイナスの影響を及ぼす可能性がある。この現象は”インターネット中毒”または”問題のあるインターネット利用”などと呼ばれ、依存行動の1つに分類される。
 これまでの研究によると、西洋および東洋社会において1.4〜17.9%の青少年がインターネット中毒であるため、インターネットとゲーム中毒を精神疾患の分類と診断の手引き第5版(DSM-V)に加えようという提案がなされている。臨床面でインターネット中毒を予防し、早期介入を行うには、インターネット中毒の危険因子の同定が重要である。
 Ko博士らは、南台湾の中学生10校に通う2293人の中学1年生(男子1179人、女子1114人)について、注意欠陥多動性障害ADHD)、対人恐怖、敵意などの精神症状とインターネット中毒との関係を調査した。また、これらの精神症状の予測指標としての価値に男女間で差異があるかどうかも調査した。
 自己申告式の質問票により精神症状の評価を行った。インターネット中毒の評価は、ベースライン時、6、12、24か月後にChen Internet Addiction Scale(CIAS)によって行った。スコアの範囲は26〜104とし、スコアが64以上の生徒をインターネット中毒と定義した、全生徒のうち233人(10.8%)がインターネット中毒と判定された。
 2年間に及ぶフォローアップの結果、うつ、ADHA、対人恐怖、敵意はインターネット中毒発症を予測したが、うつと対人恐怖がインターネット中毒を最も有意に予測したのは女子に限られていた。男女ともにインターネット中毒を最も有意に予測したのは、それぞれ敵意とADHAだった。
 同博士らは「今回の研究結果によると、青少年のインターネット中毒を予防するためにはADHD、敵意、うつ、対人恐怖の早期診断、早期介入を行うべきである。また、インターネット中毒に対する予防・介入戦略を策定する際には、併発すう精神症状の性差を考慮に入れるべきである」と結論している。

 小児保健行動発達センター(ワシントン州シアトル)のDimitri A.Christakis博士らは、同誌の付随論評(2009; 163: 959-960)で「インターネットは過度に使用すると中毒に至る可能性が懸念される。リスク下の小児が中毒レベルにまで暴露されるのであれば、インターネット中毒の有病率は他国で報告されている2〜12%にすぐに到達するであろう。その結果、インターネット中毒は小児で最も一般的な慢性疾患となると考えられる。このような懸念を喚起するのは、世間を騒がせるためではなく、小児科医に対して、インターネット中毒が米国で今世紀最大の公衆衛生上の問題となりかねないことを警告するためだ」と付け加えている。

この論文、オンラインで全文読むことができますので(ただし英語)、興味のある方は、直接読んでいただいたほうが良いと思います。

Predictive Values of Psychiatric Symptoms for Internet Addiction in Adolescents
A 2-Year Prospective Study

Chih-Hung Ko, MD; Ju-Yu Yen, MD; Cheng-Sheng Chen, MD; Yi-Chun Yeh, MD; Cheng-Fang Yen, MD, PhD

Arch Pediatr Adolesc Med. 2009;163(10):937-943.


この記事の見出しをはじめて見たときには、「ああ、また『ゲーム脳』みたいな怪しげなのが採り上げられてるな」と思ったのです。
また、「ネットを理解できない大人たちが、ネット叩きのための研究をやってるねえ」と。
僕は小児の医学雑誌の業界内での序列みたいなものは全然わからないのですが(小児科の論文読む機会なんてありませんし)、このジャーナルも、怪しいやつなんだろうなあ、と思い、ちょっと調べてみたんですよ。
そうしたら、この”Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine”の2008年のインパクト・ファクターは「4.32」。少なくとも、「専門家からもそれなりの評価をされている、立派なジャーナル」みたいです。
いやまあ、”The New England Journal of Medicine”にだって、「トンデモ論文」が載ることはあったわけですけれども。

日本ではまだ「インターネット中毒」の認知度が低いようですが、お隣の韓国では、「ネットゲーム中毒」が深刻な社会問題となっているのも事実です。

この論文を読んでいて僕が驚いたのは、「インターネット中毒」が「うつ」や「対人恐怖」や「ADHD」の原因となる、というのではなくて、「うつ」や「対人恐怖」や「ADHD」が「インターネット中毒」の予測因子となる、というアプローチがされていることでした。
現在の小児精神医療の世界では、「うつ」や「対人恐怖」や「ADHD」と同じくらいに、「インターネット中毒」が、「深刻な疾患」として危険視されているようなのです。
「お酒が好きな人だからしょうがない」と周囲が思いこんでいるうちに陥ってしまう「アルコール依存」のように、「しょせんインターネット。そんなに身体に悪いものではないだろうし……」と親が考えているうちに、「とりかえしがつかないインターネット中毒」になってしまうケースも、これから増えていくのではないかと思われます。

いや、こういうことを書いている僕自身が「インターネット中毒者」なのだよねえ、実際のところ……
ただ、僕がインターネットの波にさらされたのは大人になってからだったので、まだなんとか「廃人」にならずに生きているのですが(今後はどうなるかわからないけど)……
その一方で、「うつ」とか「対人恐怖」の子どもたちが、「ネットでのコミュニケーションによって、救われている」という現実も、否定はできないでしょう。
「自殺するよりインターネット中毒のほうが、マシじゃないか!」と感じる子どもだっているはず。
いま、うつや敵意にさいなまれている子どもにとって、「ネット」という避難場所があるのに、「それでも現実と闘うこと」を誰が押しつけられるのだろう?
「ネット」という世界が誕生してしまった以上、大人の都合で「なかったこと」するのは、もう不可能なのかも……

こういう話を紹介すると、必ず、「ソースはお前の脳内」とか「そんなの信じられるか、バカ!」とか言われてしまうのですが、あえて御紹介しました。
子どものインターネット使用については今後、いっそうの注意が必要なのではないかと僕は思います。


参考リンク:『ネトゲ廃人』(琥珀色の戯言)

ネトゲ廃人

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