- 作者: 田中圭一
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/01/19
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (7件) を見る
Kindle版もあります。
うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち 【電子書籍限定 フルカラーバージョン】<うつヌケ> (角川書店単行本)
- 作者: 田中圭一
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2017/01/19
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (2件) を見る
内容紹介
パロディマンガの巨星がマジに描いた、明日は我が身のうつ病脱出コミック!著者自身のうつ病脱出体験をベースにうつ病からの脱出に成功した人たちをレポート。うつ病について実体験から知識を学べ、かつ悩みを分かち合い勇気付けられる、画期的なドキュメンタリーコミック!
ネットでよく使われる言い回しに「(ここに書いたものを)プリントアウトして病院へ」というのがあるのですが、僕はそれを見るたびに、精神科医って大変だよなあ、と思うのです。
それは病気というより、性格的な問題だろう、というようなものまで「病院へ」って言われても、「治療」の対象にはなりにくいだろうし。
まあ、そのあたりを判断するのも精神科医の仕事、ではあるんでしょうけど。
同じ医師免許を持っていても、僕には精神科の患者さんは「よくわからない」のですよね、率直なところ。
うつ病とアルコール依存症は「完治した」とか「自力でよくなった」という人は、あんまりアテにならないよなあ、というくらいの実感はあるんですが。
で、これも「精神科医療には詳しくない人の感想」として読んでいただければ幸いです。
ちなみに、この本のなかにも、こんな注意書きがあります。
※本作品はうつ病を脱出した人を取材し、その体験談をドキュメンタリーコミックとしてまとめたものです。描かれている内容は、あくまで個人の体験に基づいた感触、感想で、治療法ではありません。(編集部)
僕自身、「うつ気質」みたいなところもあって(それもすごく誤解されそうな言葉ではあるけれど)、読みながら、「ああ、こういうのって、あるよなあ」と何度も頷いてしまいました。
この本に出てくる証言者の多くは、著者の田中圭一さんをはじめとして、「それなりに仕事ができていた、真面目で有能だったはずの人たち」なのです。
大槻ケンヂさんや内田樹さんのような「うつであったことを、すでに告白している有名人たち」もいれば、編集者や外資系のOLもいます。
作家の宮内悠介さんも「うつ経験者」だったのか……
最初に著者が自身の事例で、
アフォーメーション(肯定的自己暗示)
やり方は簡単、朝目覚めた時「自分をほめる言葉」を唱えるだけでいいんです
と書いているのを読んで、「これ、ヤバいやつなのでは……」と思ったのですが、この本の長所って、「とにかくいろんな人が、自分なりの言葉で『うつとの付き合い』を語っていること」なのです。
正直「えっ?」と思うような体験談もありますし、「うつじゃなくて「双極性障害」だった、なんていうエピソードも出てきます。
ひとことで「うつ」と言っても、その症状や治療法には、けっこう幅があるのです。
どれかが「唯一の正解」というわけではない。
仕事が病勢を悪化させることは少なくないけれど、仕事が支えになることもある。
精神科医・ゆうきゆう先生が、「医師からみた、うつ病になりがちな人の共通項」として、「認知が歪んでいる人が多い」と答えておられます。
例えば、買ったばかりのパソコンがなぜかクラッシュ。
それが二度くり返されたとしたら……
「きっとオレはコンピューターとは縁がない。デジタルとは向き合わないで生きていこう」
——そう思い込んでしまう。
パソコンはたまたま2台連続で壊れただけで、3台4台と壊れるわけじゃないんです。
なのに、いつもいつも同じことが起こると考えちゃう。
カウンセリングでは、そういう「思考のクセ」を見つけ出して、その「歪み」に気づいてもらうのも目的のひとつなんです。
著者の田中さんも「クラスのたった数人に嫌われただけなのに、クラス全員に嫌われていると思い込んでしまう」とか、ありますよね、と頷いておられました。
人間って(もちろん僕自身も)、自分に起こったことは、何か「特別」なのではないか、と思い込んでしまいがち、なんですよね。
長年運転していれば、全く同じ色のフォルクスワーゲンと2台続けてすれ違うことがあってもおかしくない。
電気製品が立て続けに壊れるのは、引っ越しのときに新調したものが、ちょうど劣化してくる時期だったから。
こういうのって、「他人事」だと客観的に判断できるのに、自分に関連してくると、そこに意味、とくにネガティブな理由を見いだしてしまいがちなのです。
重度のうつで、ベッドから起き上がることもできない、もう死ぬしかない、という状況の人には、精神科の医療や薬の力でなんとかするしかない。
しかしながら、「うつの入り口」あたりを彷徨っている人にとっては、「いろんな人の、いろんな体験」に接するというのは、「自分が特別なわけじゃない」ということを知ることができるだけでも、貴重な体験だと思います。
著者が取材したことを、著者の目線で「そのまま」描いてあるものは、意外と少ないのです。なかには「えっ?」と疑問になるような話もあるのですが、そういったものも、多くの体験談のなかのひとつとして「意味」がある。
短時間で読める、たくさんの事例が並記されていることが、この本の最大の長所なんですよね。
特定の治療法の宣伝のために、とか、個人の体験を万人に効果があると信じて広めようとしている、とか、そういう「うつ」の本って、けっこうあるから。
この本の登場人物のひとりが、「今も苦しんでいる人たちに伝えたいこと」として、こんな話をされています。
医者から処方される薬や治療法を信じてほしい。
その治療法は多くの人を治してきた——だからこそ、使われているんです。
その薬が合わずに治らなかったわずか数パーセントの人が、民間療法や代替医療に走るわけです。
にもかかわらず、「薬を使わない方が正しい」——という声の方が大きく聞こえてきますよね。
なので、ボクはまず西洋医学の力を信じることを奨めたいです。
世の中「満足している人」よりも、「不満な人」のほうが「あえて自分の意見を表明する」ことが多いんですよね。
確率でいえば、「医者から処方される薬や治療法を『まず』信じること」が、いちばん勝ちやすい賭けだと思います。
それでうまくいかないようなら他の手段を試してみる、それで良いのだから。