琥珀色の戯言

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【読書感想】社長業のオキテ ☆☆☆☆


内容紹介
仕事の醍醐味を味わいたかったら、社長になりなさい!


『ザ・タワー』『シーマン』『大玉』などのゲーム製作者として知られるクリエーター・斎藤由多加氏が、20年に亘る社長業を通じて体得した「社長の仕事」の全貌を、時にユーモラスに、時に愚直に綴る一冊。
会社組織におけるトップ・社長は、その言葉自体は誰でも知っているが、「社長はどんな仕事をしているのか」「どんな苦しみを味わっているのか」など、具体的なことは意外に知られていない。
本書では、リクルートを退職し独立して以来、20年の歳月を社長として過ごしてきた斎藤由多加氏が「独立する際に最も必要なものとは何か?」「独立するとどんな出来事が待っているのか?」「株式公開していい企業、いけない企業とは?」「社長が味わう孤独とは?」「創業者にはどんな権利があるのか?」「契約書締結の際に気をつけることとは?」「新ビジネスにおける着眼点とは?」「マーケティングデータに潜む魔物とは」などのテーマに関して、実体験を交えながら綴る。ソフトバンク株式会社の代表取締役社長の孫正義さん絶賛のビジネスエッセイ!

ゲームでは『シーマン』『タワー』、著書は『「ハンバーガーを待つ3分間」の値段』『林檎の樹の下で』と、斎藤由多加さんの作品は、独自の視点で描かれた面白いものばかりなので、今回の『社長業のオキテ』も、かなり期待していました。
正直、社長になったこともなく、これからそうなる予定もない僕にとっては、いまひとつ引っかからないところもあるのですが、「自分は社員として、こういうふうに見られているのか……」と、参考になるところもたくさんありました。
「中小企業の社長になること、そこに勤めること、そして、中小企業の存在意義」も、少しわかったような気がします。

 かつて僕は、日本という国がほとほと嫌になって、会社を人に任せてカリフォルニアに移住し、そこで開発スタジオをやっていたことがあります。この時に借りていたオフィスビルのオーナーが日本人のおばさんのOさんでした。彼女はかつては米国の有名なソフト会社の社長の秘書をしていた人で、この時はパソコンのパッケージソフトを日本に輸出する貿易会社を営んでました。この女性がUCバークレーの近くだったためか、とにかく創業時の孫正義氏のことをよく知っていて、会社経営に挫折し、傷心で渡米した僕に、「社長なんだから好きなことをやらなきゃだめよ。孫さんを見てごらんなさい。あれだけ好きなことをやってるじゃないの」と、願望を見失った僕に、口癖のように言ってくれた。
 渡米を決断するきっかけになったのは、その直前に、社員から「社長は会社を私物化している」と指摘されたことです。
「自分の会社っているのは私物じゃないのか? 公共物じゃないだろ」とかなり悩んだ僕がいました。今思えば、彼が言いたかったことは、「社長の願望をもっと上手に自分たちの願望にすげかえてくれよ」ということだったと思う。しかし、そうと悟ったのはそれから何年も経過してからのことでした。
 このすげかえが下手クソだと、社員たちは「会社が私物化されているような違和感」を抱く、ということを学んだのでした。

 僕は、中小企業が優位な点というのは、その体制が独裁国家に近いことではないかと思っているわけです。マーケティングなどしない。そこに理屈を求めない、ただ直感や願望で何かを作ってゆける特権が許されている、あたかもそれはタイタニック号と違い、氷山を察知してから舵を切っても回避できる、ちょうどモーターボートの俊敏性と表裏一体の特性です。

 だいたい、中小企業なんて、会社を私物化したワンマン社長がいて……
 そういうイメージを持ってしまうのですが、この本を読んでいると、「会社をワンマン社長が好きに動かすことができる、社長個人や少数の上層部の想いを迅速に反映させることができるのが、中小企業の存在意義」ということがわかります。
 大企業と同じことを、スケールダウンしてやるのでは、最初から勝負にならないわけで。


 もっとも、現実はそんなに甘いものではなくて、会社をやっているうちに、「お金を稼ぐためだけの非創造的な仕事」をこなすだけになってしまう場合が多いようですが……
 それに、会社って、うまくいくと、どうしても「大きくなろうとする力」がはたらきます。
 それは「成功」ではあるのだけれど、「中小企業の優位性」を失うことでもあるのです。
 ソフトバンク孫社長のように、あれだけの大企業になっても、自分の好きに動かせる経営者というのは、稀有な存在です。


 斎藤さんの考えでは、「社長が会社を私物化している」のが悪いのではなく、「社長がやりたいことをやっていても、社員も社長とやりたいことを共有できればいいのだ」ということなのだと思います。
 スティーブ・ジョブズ時代のアップルは、大企業でしたが、まさに「そういう会社」でした。
 もっとも、ジョブズという人と、長期間いろんなものを「共有」するのは、なかなか大変だったみたいですけど。


 斎藤さんは、社員の採用の基準として、こういう話をされています。

 二十年にわたる中小企業の社長としての失敗経験を重ねるうちに、自分なりのチェックポイントを三つ持つようになりました。これにひっかかった人の採用は難しい、という判断のポイントです。それは、


(1)質問した内容と答えが微妙にズレている人

(2)「知らない」と言えない人

(3)携帯電話で自分の今いる場所を上手に伝えられない人


 です。
 それ以外の判断は現場の長に任せるようにしているので、僕はここだけを見極めるようにしているわけですが、この三つのポイントに至った僕の経験談などを紹介します。

 以下、この三つのチェックポイントについての詳しい説明が書かれています。
 学歴や技術や知識や礼儀作法ではなく、この三つというのはとても興味深いのですが、この本を読んでいくと、その理由がよくわかります。
 逆に言えば、「この三つができる人は、社会に出て行くための最低限の能力を備えている」ということでもあるのです。


 この本、斎藤さんのサラリーマン時代の話とか、ゲーム開発の苦労とか、「読ませる」ところがたくさんありすぎて紹介するのに困るくらいです。
 そして、「社長になりたいとか、お金が欲しいとかいう理由で起業しても、うまくやっていくことは難しい」というのもわかります。
 斎藤さんは、こんなふうに仰っています。

 成功している起業家には、どう考えても一般のサラリーマンとは異なる、独特の濃いオーラを放つ人がたくさんいるものです。そういう人々は、会って話を聞く分には実に面白い人ばかり。が、同時に「創業して自分が中心になる以外には、生きる手立てがなかったんだろうな……」と感じさせるところも多い。というのも彼らは共通して、自分以外の人のために働く、などという発想があり得ないような、自己中心的な人たちばかりだからです。失業するか起業するか、そのすれすれのところで生きているこの手の人種の生きざまは、端から見ている分には確かにドラマティックで面白い。しかし本人たちは孤独に違いない、とも同時に感じるわけです。
 夜や週末には、どういうわけか経営者は気の合う経営者同士で行動をともにする習性があるようです。たぶんこれもスター俳優特有の孤独感と似て、敵でありながら同志という、いわば「不安」への共犯意識のようなものが彼らの間に芽生えているからではないか、いやむしろ、この孤独を楽しめる人種でないとできない仕事ではないかとすら思えてならないのです。


 起業して成功するためには、もちろん「優れた能力」が必要なのでしょうが、それと同じくらい、「起業しないと生きる手立てがないくらいの(組織の歯車として働く才能に欠けた)人間であること」が求められるのです。
 そのくらいの切実さがないと、起業は、成功するものではありません。
 大部分の人にとっては、歯車になっているほうがラクなのですから。


 「起業して社長になるなんて、カッコイイ!」って思うけれども、「そういうふうにしか生きられない人たち」なのだと考えれば、けっして羨ましいばかりではありません。
 むしろ、「そういう人生って、大変だろうなあ」とも思うのです。
 大変だからこそ、面白い、というのもあるのだろうけれど。


 会社をつくりたい人、会社ではたらきたい人、どちらにとっても、「ちょっと変わった角度から、仕事や会社を見ることができる本」だと思います。


林檎の樹の下で ~アップルはいかにして日本に上陸したのか~

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