琥珀色の戯言

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【読書感想】エンジェル投資家とは何か ☆☆☆☆


あけましておめでとうございます。本年もよろしくおねがいいたします。


エンジェル投資家とは何か (新潮新書)

エンジェル投資家とは何か (新潮新書)

  • 作者:小川 悠介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/12/13
  • メディア: 新書


Kindle版もあります。

エンジェル投資家とは何か(新潮新書)

エンジェル投資家とは何か(新潮新書)

  • 作者:小川悠介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/12/27
  • メディア: Kindle

内容(「BOOK」データベースより)
創業間もないスタートアップ企業にお金を投じる「エンジェル投資」がいま、空前のブームとなっている。成功して大金を手に入れた若き起業家たちだけでなく、本田圭佑、田村淳、為末大など有名人も続々と参入し、サラリーマン投資家も増えている。スタートアップ企業を取り巻く「エコシステム」の急速な進化は、日本の産業界をどのように変えていくのだろうか。当事者たちの証言で描く。


 「いまの日本に、こんなに『起業』をめざす人がたくさんいるのか」と、この新書を読んで驚いたのです。
 日本は、アメリカや中国などに比べて、「起業」と言うものに対して消極的というか、世間の目が冷たい国だというイメージがあったんですよ。僕自身も「そんな博打みたいなことをしないで、組織の中で働いたほうが無難なのでは……」と考えてしまう人間です。
 一昔前は、「成功した人には争って出資するけれど、まだ形になっていない起業家には見向きもしない」とされていた日本という国は、大きく変化を遂げているのです。
マネーの虎』っていう番組がありましたよね。「自分の夢をプレゼンテーションする人たちを、成功者である『虎』たちが厳しい態度で打ちのめすのをみて、視聴者が快哉を叫ぶ番組だったのですが、今の起業家は、あんな目に遭ってまでお金を集めなくてもよくなっているのです。

 エンジェル投資家とは、スタートアップ企業を支援する個人の投資家を指し、その成り手は過去に起業して成功した富裕層が多い。彼らはビジネスで培った目利き力を生かし、銀行などに代わって、会社の評価が定まらない成長初期の企業に自己資金を提供する。具体的には創業期の「シード」や、事業化期の「アーリー」の段階に区分される企業が大半で、まだ製品やサービスを公開する前だったり、ビジネスモデルをまとめたプレゼン資料だけしかなかったりする場合もある。
 投資する金額は数百万円から1000万円前後が大半で、自身の判断でリスクを負って投資する。単に資金を提供するだけではあく、起業経験を基に経営を助けるコンサルタントとしての役割を担うのもエンジェル投資家ならではの特徴だ。外部から集めた資金を会社として運用するベンチャーキャピタルとは異なり、資金を返還する期限もないので、じっくりと腰を据えて投資できるのも強みとされる。
 資金提供の見返りとして、株式などを受け取る。投資後に会社の事業が順調に成長すれば、保有する持ち株の評価も上昇する。例えば、時価総額が1億円の企業の株式を10%保有していた場合、その単価は1000万円だが、時価総額が1000億円の「ユニコーン企業(未上場で時価総額10億ドルを超す企業)」に成長すれば、たちまち手元の株式価値は100億円に跳ね上がる。そして、会社が新規株式公開(IPO)したり、ほかの企業に買収されたりした場合に株式を売却することによって現金化する。これらの手段を通じて投資資金を無事に回収することを「イグジット(出口戦略の達成)」と呼ぶ。


 「起業家にお金を出し、また、スタートアップに関するアドバイスもしてあげたい」という人が、日本にも大勢あらわれ、「可能性のある新しい事業に早くから投資して、大きなリターンを得たい」という投資家も増えてきています。
 「エンジェル」とは言うけれど、タダでお金をあげるわけではないのです。
 それでも、起業家たちにとっては、事業が軌道に乗るまでの時期が金銭的にも精神的にもキツイので、その時期にサポートしてくれる人は、まさに「エンジェル」なのでしょう。

 数百万から1000万円くらいって、ものすごい大金というわけでもないんだな、と僕は思ったのです。
 でも、このエンジェル投資というのは、そんなに甘いものではありません。

 もっとも、エンジェル投資は極めてリスクの高い投資でもある。約280万社が活動する日本では毎年10万社が開業し、約1500社が投資家からの出資を受ける。IPOまで辿り着けるのは約90社。会社の新設件数を母数として単純計算すると、約0.09%の確率となる。M&A(合併・買収)による第三者への売却の道もあるとはいえ、スタートアップ企業への投資は「千三つ」の世界と言われる所以だ。
 新設された会社の大半は途中で厳しい現実に直面し、倒産に追い込まれる。中小企業庁の調査によれば、新たに設立された会社のうち1年以内に約2割が廃業する。株主の地位は債権者に劣後するため、大抵は保有する株式はただの「紙切れ」となって出資金は回収できない。倒産という最悪の事態は避けられたとしても、スタートアップ企業は「ピボット」と呼ばれる事業転換が日常的に起きがちだ。出資した時は「ネット求人サイト」が本業だったはずが、いつのまにか「スマホゲーム」に代わっている可能性も十分にあり、投資判断の難度を高めている。


 エンジェル投資というのは、うまくいったときのリターンはかなり大きいのですが、成功する確率は低く、投資する側にとっては、「ハイリスク・ハイリターン」なのです。
 1件が数百万から1000万円といっても、何十社にも投資していたら、数億円になってしまいます。
 そうなると、かなりの資金力がないと、エンジェル投資家であり続けるのは難しい。
 エンジェル投資家には、自らも起業経験があり、それで資産をつくって、今度は次世代の若者の起業を支援しよう、という人や、スポーツ界やマスメディア、芸能界で活躍しながら「起業」に興味をもって、サポートしようという人などがいます。
 本田圭佑さんや田村淳さんは、エンジェル投資家としての顔を持っていて、本田さんは、実際に起業家と面談して事業についての相談やアドバイスをすることも多いのだとか。
 本田さんも田村淳さんも、自らの意思で、本気で起業家をサポートしている、というのがわかるエピソードが、この本のなかで紹介されています。
 あの本田さんが打ち合わせに現れたら、舞い上がってしまって、プレゼンどころじゃなくなりそう。


 ちなみに、エンジェル投資家たちは、業務内容よりも、起業家の人柄を重視する人が多いそうです。

 米国を代表するベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(A16Z)の共同創設者ベン・ホロウィッツ(53)は「起業家が成功するには頭の良さと勇気を兼ね備えている必要る。つまり、一流大学を中退した若者がふさわしい」との持論を常々展開する。投資家と聞くと緻密に将来の業績を分析する姿が思い浮かぶが、ことスタートアップ投資では日米ともにロジックよりも人間に対する洞察力や優れた勘が求められる場面が多いようだ。

 「中退」しなきゃダメなんだ……という感じではあるのですが、東京大学京都大学慶應大学などでは、学生たちが起業を意識して活動しており、大学や投資家たちがそれを在学中からサポートしているのです。
 アメリカや中国に比べたら「遅い」のかもしれませんが、日本でも、ここまで「起業熱」が高まっているのか、と驚くばかりです。

 この新書のなかでは、「起業ブーム」と「投資先を探す投資家たち」のおかげで、起業しやすくなった、という良い面とともに、「投資する側の競争が激しくなったため、事業計画が甘かったり、技術的に未成熟だったりする段階で「青田買い」され、大金が投入された失敗例」についても触れられています。

 スタートアップブームの危うさがあぶり出された事例はまだある。工作機械大手のファナックは2018年に15年ぶりの企業買収案件として、ロボット開発のスタートアップ企業ライフロボティクスを傘下に収めたが、わずか3ヵ月で生産を中止し、製品の回収を決めた。工場内で人と一緒に働く「協働ロボット」を開発するライフロボティクスは、トヨタ自動車などから受注を獲得するなど注目の新興企業だったが、買収した矢先に品質問題が発覚したという。
 ほかにも、衣類の自動折り畳みロボット「ランドロイド」を開発するセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズが2019年4月に経営破綻し、スタートアップ業界内で大きな波紋を呼んだ。同社は衣類を入れると画像解析でシャツやズボンといった種類を判別し、アームで小さく折りたたむロボットを開発していた。家電見本市で試作品を公開し、国内外の投資家の期待を集めたが、莫大な先行投資がかかる一方、想定以上に開発が難航し、道半ばで力尽きた格好だ。これまでにパナソニック大和ハウス工業などが総額110億円もの資金を提供していたが、すべて水の泡となった。


 110億円か……そういうリスクは承知の上で投資しているものだとは思いますが、これもひとつの現実なのです。
 起業が増えると、こういう失敗例も増えていく。
 お金って、あるところにはあるのだなあ、という月並みな感想を抱いてしまうのですが、日本も「有名企業への就職よりも起業」という社会になりつつあることを感じた本でした。


僕は君たちに武器を配りたい

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生涯投資家 (文春文庫)

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