琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

「セクハラ・ゲーム」をやめられない「偉い人」


参考リンク:まさか自分が(はてな匿名ダイアリー)


これを読んで、いろいろ思い出した話もあるので、ここに書いておきます。


増田さん、あなたは「自分は30代前半女。容姿も良くなく、結婚も恋愛も諦めている」と冒頭に書かれています。
だから、「こんな性的ないやがらせには無縁だと考えていた」のですね。
僕は男ですが、「容姿も良くなく、恋愛も結婚も無縁だと諦めかけていた」ので、お気持ちはなんとなく想像できます。
「男は、もっと『いい女』にちょっかいを出すはずではないのか?」


あなたの疑問にお答えするために、僕の知りあいの劇画原作者から、聞いた話を書いておきます(あくまでも伝聞です。そういうことにしてください。彼の話の内容とは一部変えてあります)。

ある田舎の病院に、優秀な医者がいました。
その科はキツイことで知られており、新しく入ってくる医者は少ないのですが、必要不可欠の診療科であり、各病院では引く手あまたの存在です。
その優秀な医者は、診療面では腕が立ち、患者さんの評判も良いのですが、ある問題を抱えていました。
彼は「自分の部下の女性に、手を出すのが趣味」だったのです。
それは、移動中のボディタッチや、飲み会でのハラスメント、相手によっては、それ以上のこともありました。
でも、結局のところ、彼のその「困った行為」はさんざん問題になりながらも、彼自身が断罪されることはなかったのです。


もちろん、被害に遭った女性のなかには、医局の上司や病院の偉い人に訴えた人もいました。
彼には再三の「警告」が与えられましたが、クビはおろか、異動にさえなりませんでした。
「あいつの下に、女性を配属するな」ということには、なったみたいですが。


いまちょうど還暦くらいの世代には、口では「コンプライアンス」とか「セクハラの根絶」なんて言いながら、「日頃のストレスを職場の女性や飲み会のセクハラで晴らすのは仕方が無い(俺たちの時代はそうだったんだから)」という人が少なくないのは「男だけの酒席」での話を聞くとよくわかります。
「一昔前の某病院の宴会は、乱交パーティーみたいだった。ストレスの多い職場だからねえ」なんていう「武勇伝」も、よく聞きました。


彼がなぜその「警告」程度の処分で済んだのかというのは、上の世代の危機意識の欠如とともに、仕事においては、彼はまちがいなく「必要不可欠の存在」であったこともあるのです。
その病院で大きな収入源となっていた治療ができる専門医は数が少なく、引く手あまたなので、そんな田舎の病院にあえて行きたがるような医者は彼以外にはいません。
彼がいなくなれば、その医療行為そのものができなくなります。病院経営的には、大きなマイナスなのです。
結局のところ、経営側と医局の打算によって、彼の地位は守られていたのです。
「若い女のひとりやふたり、セクハラの犠牲になろうとも、病院のためには、あの人がいてくれたほうがプラスだ。代わりの専門医のアテもないし……」
「問題が表面化して、医局の評判が落ちては困る。あいつを動かすと、ほかにあの病院に行きたがるヤツなんて、いないしな」


「説得」「懐柔」されたのは、むしろ、被害者のほうでした。


「まあ、先輩でもあるし、事を荒立てたら、君のためにもならないから。仕事も教えてもらってるんだろ?」
「はっきりした態度をとらなかった君の側にも、責任がないとは言えないだろう?」


この医者は、たぶん、「わかっていた」のです。
「自分は、ここにいれば、いや、ここにいればこそ、守られる」ことを。
もし同じ治療ができる医者がたくさんいて、後がまを探すのが簡単な都会の病院であれば、切り捨てられたのは、彼の側だったかもしれません。
医局も、彼を異動させて、問題を拡散させるより、その田舎で飼い殺しにすることを選びました。


彼のターゲットになったのは、いわゆる「いい女」ではありませんでした。
ルックスではなく、自分が手を出したときに、拒絶しない、あるいは、拒絶したとしても、それを大声で周囲にいいふらしたりしない、おとなしいタイプや医局の後輩など、抵抗しづらい女性を選んでいたのです。


こういう人は、「相手がかわいいからやる、好きだからやる」のではありません。
「自分の権力を背景に、おとなしい女性に言うことをきかせるのが快感だからやっている」のです。
「この相手、いまの状況なら、自分が切り捨てられることはない」と計算しながら、「危険なゲーム」を楽しんでいるだけです。


以上が、知りあいの劇画原作者さんの話です。


僕には、増田さんのこのセクハラ上司も、まさにこの医者のようなタイプに見えるのです。
「なぜ、『容姿も良くなく、結婚も恋愛も諦めているような30代前半女』がターゲットに選ばれたのか?」
違うんだよ、それ。
「自分で自分に自信を持っていない、セクハラされても抵抗したり、出るところに出て反撃することがなさそうな人」だと見なされたからこそ、狙われたんだ。


「本当は好意を持っていて、アルコールの力を借りて近づこうとしたんじゃない?」
という(たぶん)男性からの反応がありましたが、そんなことは、おそらくありません。
この文章からうかがえる、周囲の人の態度も「今度のターゲットは、この女か、かわいそうにね」というのと「自分がターゲットじゃなくてよかった」って感じですし。
止めて自分が被害を受けるよりは、自分に矛先が向いていなければ、スルー。
「イジメ」と同じ構造ですよ、これ。


証拠調査士は見た! ~すぐ隣にいる悪辣非道な面々

証拠調査士は見た! ~すぐ隣にいる悪辣非道な面々

増田さんには、ぜひこの本を読んでいただきたい(この本への僕の感想も張っておきます)。


この本を読んでいて、いちばん怖かったのが「組織が個人を排除するためのさまざまな攻撃方法」でした。


取引先の男性をセクハラで訴えようとした女性が、その男性が所属する大手企業から「名誉毀損」で数千万円の損害賠償訴訟を起こされた話(多くの人は、裁判で戦うことと、その費用に疲弊して、和解せざるをえなくなる)、セクハラ被害者の女性を「精神病」にして、追い払おうとする会社と、それに協力する産業医の話、そして、欠陥マンションの修繕訴えてきた住人を、さまざまな手段の嫌がらせで黙らせようとする悪徳不動産屋と管理会社の話……


この「欠陥マンション」の話を読んでいて愕然としたのは、「悪徳不動産」「悪徳管理会社」はもちろんのこと、そういう連中に「協力」してしまう「普通の住民」が大勢いるのだ、ということです。

大手不動産会社から、最上階のマンションを買った鈴木さん(仮名)。
ところが、住んでみると屋上からの雨漏りがひどいことがわかりました。
それも、運悪く、「たまたま鈴木さんの部屋の天井だけに漏れた水が直撃した」のです。


 鈴木さんはマンションの管理会社に欠陥を訴えたが、対応した担当者は工事の瑕疵を全く認めず、「あなたの希望する屋上の改修工事を行うためには2千万円が必要。実施するなら管理組合理事会の決議を経たうえで申請してほしい。工事費は全住民の管理費に上乗せする形で徴収する」と言ってきた。


 盗人猛々しいとはこのことだが、たいていの不動産会社はこんな対応をしてくるものだ。


「冗談じゃない! 雨漏りの原因は工事の欠陥だ。その負担をなんで我々がしなければならないんだ!」


 毎日のように管理会社に赴いて抗議を続けた鈴木さんだが対応は変わらず。並行して、施行した大手不動産会社「A」にも直接抗議をしたが、帰ってくる回答は管理会社と全く同じものだった。管理会社が元締めの不動産会社から回答方法を指示されているのだろうから、当然といえば当然だ。


 それでも鈴木さんは抗議を続けた。不幸だったのは、直接の漏水被害を受けていたのが鈴木さんだけだったために、同調者が現れなかったこと。他の住民にしてみれば「うちは特に問題ないしね」ということなのだろう。

この「うちは特に問題ないから」ということで、鈴木さんの訴えに同じマンションの住民が協力しなかったということが、僕にはけっこうショックでした。


いや、管理費上がるのはイヤだというのはわかるし、揉め事を避けたいのも理解できるんだけど、こういうのって、「次は自分が被害者になるかも……」と思わないのだろうか……


結局、「自分さえよければいい」(というか、長い目でみれば、自分のクビを締めることになりかねないのだけど)人の多さが、日本という国での「個人の生きづらさ」につながっているような気がします。


「セクハラ」に対しても、大部分の傍観者たちは、この「他の住民」と同じような姿勢をとるのです。
いや、僕だって、「教授が研修医に飲み会でセクハラしている現場」を目の当たりにしたら、「やめてあげてください!」と言えるかどうか……そちらを見ていないふりをして、早くお開きになるのを待ち続けるだけ、かもしれません。
「そういう場合は、戦うべきだ」という気概を持っていても、実際にその現場にいて、傍観者として、ここで声を上げることによって自分が得るものと失うものとかを考えると、本当に「戦える」だろうか……


日本は「セクハラ」に甘い国だと言われています。
でも、最近ではそれなりに対応してもらえることがほとんどのようです。
ただし、セクハラしてくる相手が「会社や組織にとって、仕事上どうしても必要な人間」であったり、「セクハラの評判が、組織そのものを傷つけるような場合」は別です。
組織は、被害者を切り捨てて、自分たちを守ろうとします。


国とか大企業が本気になって立ち向かってくれば、一個人が戦っていくのは、あまりにも難しい。
ただ裁判を長引かせるだけで、個人の側は費用が足りなくなって、あるいは戦い続けることに耐えられなくなって、ギブアップしてしまう場合がほとんどです。


こちらの被害が大きくなり「全面戦争」となると、前述したように、個人が企業を相手に戦うのは、あまりにも困難でリスクが高いのです。有能な弁護士を雇い、企業相手に慰謝料をぶんどってやるというのは、そんなに簡単ではありません。
そういう裁判では、大概において、資金と人脈があるほうが有利なのです。


僕があなたにお勧めするのは、まずその会社の「セクハラ対策室」に、上司などを通さずに相談することです。
直属の上司に相談したりすると、まず「なあなあで済まそう」とされるはずです。
相談したことで、セクハラ上司に嫌われるかもしれませんが、いまの段階であれば、上司のほうも「警告」レベルで済む可能性が高いので、逆恨み度も低いだろうから。そして、こういう男は「計算」するので、「この女はセクハラすると危険だな」と認識すると、撤退する可能性が高い。
(他の人が次のターゲットになりそうですが)


中には自分のプライドを傷つけられたと執拗に絡んできたり、職場でイジメたりしてくる「セクハラゲーム上司」もいます。
その場合にも、「あらかじめ相談しておく」ことが重要になるのです。
「もともと付き合っていたのが、感情のもつれで恨むようになった」と言わせないために。


そして、「そのセクハラ上司とは、絶対に酒席に同席しないこと」「(ちょっと話だけでも、なんて言われても)プライベートで会ったりしないこと」。
理不尽な話なのですが、線引きしておかないと「お前に隙があった」なんて言う人が出てきます、必ず。


もしそれで、会社側からの対応に不満があるようなら、残念ですが、その会社は辞めることをおすすめします。
そういう会社は、もっと酷いことが起こっても、絶対にあなたを助けてはくれないから。
正社員の地位を失うのはつらいでしょうけど、そんな会社にしがみつけば、職以上にいろんなものを失うことは明らかだから。
それをガマンしてしまうことによって失われる、「人としてのプライド」は、絶対に取り戻せません。


しかし、こういう「セクハラゲーム上司」の大部分が「仕事はできるんだけど酒癖の悪い、ちょっと困った人」レベルの認識で放置されているのが現状、ではあるんですよね。
20年前に比べたら、かなりみんな注意するようになってはきているけれども、まだまだ「緩い」。


その一方で、僕も自分が若かったころ、20年前くらいのことを思い出すと「お酒の勢いで、気になっていた女の子と話ができた」ことに歓喜していたりもしたわけで、「酒席でもみんな正座して、丁寧語で1mずつ離れて静かに話しなさい」なんていうのもなんだかなあ、とも考えてしまうんですよ。


逆に「ある程度(セクハラやパワハラはもちろん無しで)ワイワイガヤガヤやるような飲み会が許容される社会」を維持するためにこそ、ちゃんとした「線引き」が必要なのだと思います。


増田さん、あなたは悪くない。
でも、ここで適切に対処しないと「あなたが悪いことにされてしまう」可能性があります。
そして、事態はどんどん、こじれてしまう。
それを伝えたくて、このエントリを書きました。
お節介で、ごめんなさい。

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