琥珀色の戯言

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【読書感想】人を見抜く、人を口説く、人を活かす プロ野球スカウトの着眼点 ☆☆☆



こちらはKindle版です。

内容紹介
ダイヤの原石を発見し、口説き落とし、育て上げる。プロ野球チームを陰で支えるスカウトたちの眼力と技術力と人間力は、どんな組織にも通用する知恵の宝庫だった!


内容(「BOOK」データベースより)
知られざるスター選手たちのドラフトエピソード。名スカウトが教えてくれた組織を強くする方法。


 プロ野球のスカウトといえば、「人材発掘のエキスパート」です。
 彼らが、どのように選手の能力を評価し、そして、自分のチームに入団させるのか。

 現在巨人で育成部ディレクターを努めている大森剛は、慶應義塾大学時代、東京六大学随一のスラッガーとして鳴らし、巨人にドラフト1位で入団した。しかし巨人の選手層の暑さに阻まれてレギュラーになることができず、平成12年からスカウトになった。彼が大事にしている言葉は「一球一瞬」「三球一振」である。打者であれば、一振りで技量を見抜き、投手であれば三球で実力を判断する、という喩えだ。
「打者はファウルでもいいから、一振りしてくれたら、打てるか打てないかがわかる。投手は三球投げれば、その中に変化球もあるし、フォームもスピードもわかる」
 青森県で行われた秋季大会だった。
 新チームになって間もないときなので、光星学院青森山田高校などの強豪校にいい選手がいないかな、という程度で見に行った。
 光星学院に1年生でショートを守っている選手がいた。打順は1番。身体は180センチを超え、体もできている。ゴロの捌き方など身のこなしもいい。それが15歳の坂本勇人だった。大森には守っている姿のシルエットが美しく映った。
 大森は言う。
「僕らは、ぱっと見て第一印象で判断するのですが、プレースタイルがカッコいいなと感じました。カッコいいというのは、野球センスがあるということです。とくに本塁打を打ったわけではないですが、魅力的に見えたのですね」
 そこから大森は坂本を追いかけるようになった。

 結果的に、坂本勇人選手は、「外れ1位」で巨人に入団することになるのですが、「巨人にしては、小粒というか地味な選手を1位で指名したなあ」と思った記憶があります。
 ところが、その坂本選手が、プロ入りしてから、ホームランを量産し、日本代表の主力になったのですから、すごい眼力だったとしか言いようがありません。
 大森選手といえば、「巨人にしか入らない」とドラフト時に強く主張して、鳴り物入りで入団した割にはあまり活躍できなかった印象しかないのですが、結果的にはこういう形で巨人に貢献することになったのだなあ、と、ちょっと感慨深い。

 
 もちろん、スカウトによって見るポイントというのは違っているようです。

 スカウトに、「選手を見るとき、どこを重視しますか」と聞いても、意外にも、球が何キロで出た、何秒で走った、どこまで打球を飛ばしたという技術的なものは出てこない。
 横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)でスカウト部長を努めた高松延次は言う。
「僕はこれがよかった、と言って獲ったことはないですね。直感でもないですよ。例えば、”いい選手がおるんですよ。いっぺん来てください”と連絡を貰ったとします。僕は”足は速いですか、目はいいですか”とは聞きません。まず”身長はどのくらいある?”右か?左か?”です。プロとアマの違いはそこなのです」

 アマチュアでどんなに活躍していても、そのままの力でプロとして通用するのは、ごくごく一握りの選手だけです。
 そんななかで、「伸びしろ」を見極めるための方法も、人それぞれ。
 「ユニフォームの着こなし」を重視するというスカウトもいれば、練習の姿勢とか、プロ向きの性格かどうかを重視する人もいる。
「人を見抜く」のに、絶対的な正解というのは無いのです。
 
 
 その一方で、最近のスカウトというのは、ひとりの名スカウトの「眼力」だけでは、やっていけなくなっているのも事実です。
 これだけ情報網が伝達手段が発達してくると「隠密行動」は難しくなりますし。

 昔から、どのスカウトもスカウト手帳を持っている。かつてはおおざっぱな印象を自分で書き込むものだったのが、今では球団の方針で評価報告書に近い手帳が一律支給される。打者であれば「ミート力」「パンチ力」「タイミングの取り方」「変化球対応」「スイング」などの項目が並んでいる。ここに「S」「A」「B」「C」とランクを書き込む。これらを家に帰ってパソコンに打ち込み、総合評定を作成する。あるベテランスカウトが「もう情報屋。今のスカウトはサラリーマンですよ」と揶揄する。

 情報を共有し、客観視できるように、こういう「定型化」が進んでいくのは仕方が無い面はありますよね。
 北海道日本ハムファイターズなどは、データ化を突き詰めていくことと、情報をスタッフが共有することにより「常勝球団」をつくりあげていますし。
 それでも、ドラフト下位指名にもかかわらず、大活躍する選手が出てくるのが、プロ野球の面白さでもあり、難しさでもあります。
 どんなに「合理化」してみても、人間のことは、わからない面がある。

 近鉄河西俊雄が選手の家に電話すると、親父さんにこう言われた。
近鉄タクシーなんか頼んでねえぞ」
 家族によっては、阪神が応接間で、近鉄は玄関先で会うという違いもあったようだ。

 この新書を読んでいると、プロ野球の世界というのは、格差社会だよなあ、と考えてしまいます。
 同じプロ野球のチームでも、巨人や阪神のような人気球団と、そうでないチームとでは、選手を獲得するための難易度が全然違うのだから。
 著者の人脈が偶然そうだったから、なのかもしれませんが、名スカウトというのは、やっぱり、「弱小球団」(って言葉は使いたくないんだけど、僕もその「弱小」のファンなので許してください)のほうが多いように思われます。


それにしても、「人間相手の仕事」というのは難しい。 
 阪神江夏豊投手をドラフト1位で指名したとき、江夏投手は大学進学を希望していて、なかなか入団交渉が進展しなかったそうです。

 さて佐川は、江夏を大阪駅前の「ベーカリー」という喫茶店に呼び出した。大人が入るような高級な店で、クラシック音楽が流れていた。そこにレインコートを羽織った刑事のような目つきの悪い男が坐っていた。これが佐川だった。
 佐川は江夏が入って来ると、挨拶も交わさず強い口調で言った。
「わしは個人的にお前を欲しいと思わん。戦力にもならんと思うとるわ。球団がお前を欲しいというから、仕方なくわしがここに来ただけや」
 この言葉に江夏は激怒した。
「何だ、この馬鹿野郎。それじゃプロでやってやろうやないか」
 このとき江夏は阪神に行くことを決めた。高校生で有望な選手となれば、周囲もちやほやするから天狗になるのは当然だ。そこに正攻法で行っても、突っ張ってしまい反抗的になることも多い。佐川はそのプライドの高い心理の逆を突いた。
 後に江夏は佐川の手腕にしてやられたことを知る。佐川は江夏に言った。
「あれがわしの話術や。他のスカウトが誠意をもって交渉してもうんと言わないお前を落とすのは、あれが一番やったんや」
 老練、手練手管を弄するスカウトのほうが、人間学については一回り上だった。

 ひとつ間違えれば、「もうお前のところになんか行かない!」となりそうで、これをやるのには勇気が要ったと思うのですけどね。
 これを確信を持ってやったのだとすれば、本当に「老練」だとしか言いようがありません。


 なんでも「ビジネスに役立つ話」としてまとめようとしているのが、ちょっと気にはなるのですが、さまざまなスカウトたちの「人たらしの術」を知ることができる、野球ファンには興味深く読める一冊だと思います。

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