- 作者: 村瀬秀信
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2019/09/20
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
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内容紹介
球界の片隅にあった、驚き、苦悩、思いがけない栄光――。ある年に、最後に名前を呼ばれた男たちを追って――。
球界の片隅にあった驚き、苦悩、思いがけない栄光を描く。公式戦登板なしでプロ入りした男 高橋顕法/再生された男 田畑一也/最下位から千葉の誇りになった男 福浦和也/最下位を拒否した男 高瀬逸夫/球団幹部に出世した男 大木勝年/日米野球でやってきた男 鈴木弘/隠しダマの男 清水清人/9並びの男 吉川勝成/ゼロ契約の男 橋本泰由/勘違いしない男 松下圭太/2年連続最下位指名を受けた男 由田慎太郎/ありえなかった男 三輪正義/ポテンシャルが眠る男 鈴木駿也/怪物だった男 伊藤拓郎/1と99の男 今野龍太/育成の星になった男 長谷川潤
プロ野球のドラフト会議で、その年、最後に名前を呼ばれた選手たちの物語。
近年、ドラフト会議は、当日の夕方に生中継されているのですが、その番組は、だいたい1位が出そろったくらいで終わってしまいます。
その後も指名は続き、19時くらいからはじまる「お母さんありがとう!」というドラフト特番の冒頭で、「まだ指名が続いていますが……」というのが恒例となっているのです。
ドラフトの仕組みからすると、各球団のスカウトが有望と判断した選手から指名されていくわけですから、さまざまなチーム事情があるとはいえ、最後に名前を呼ばれる選手というのは、「その年に指名されたなかでは、もっとも期待されていない選手」とも言えるわけです。
プロ野球選手に”なった人”と”なれなかった人”。その境界線を引くものは何なのか。
境界線上の人。それは、その年のドラフト会議で最後に名前を呼ばれた”最下位指名選手”である。彼らはその年の目玉になるような1位指名のエリート街道を歩いてきた選手ではない。テレビ中継の放送中に名前が呼ばれることはなく、ドラフト特集の雑誌でもベタ記事に息を潜めながら、それでもプロ野球の世界への切符を手にした選手たちだ。
この本を読むと、2000本安打を達成した千葉ロッテマリーンズのレジェンド・福浦選手をはじめ、けっこう名前を知っている人がいるなあ、と思ったのです。
このくらいの順位となると、獲得するほうも、イチかバチか、というか、「可能性は低いかもしれないけれど、大化けするかもしれない選手」を狙うのかもしれませんね。
1992年に広島カープの入団テストに合格し、同年、ドラフト8位(契約金なし)で入団した高橋顕法選手の話。
その旅立ちは、寂しいものだった。
1月。全国各地でドラフト指名を受けた選手たちが、地元と母校の期待を背負って華々しく送り出されていく中、この6年間公式戦登板のない異色のプロ野球選手は、見送りのない出立にも、やっと自分の野球ができる歓びに震えながら広島の地へと旅立った。
「この世界に入ってしまえば、あとはドラフトの上位も下位もない。頑張るだけです」
入団会見で最後にマイクが回ってきた高橋は、そんな言葉を残すのだが、ドラフト順位の格差を本当の意味で知るのはプロの世界に合流してからだった。
(中略)
「ドラフト下位は結果を残さなければ即クビという厳しさがありますけど、それ以前に雑用や上下関係がまいりましたね。その年の高卒ルーキーは2位に菊地原毅(相武台)、5位の井上浩司(専大北上)がいて、あとは6位で多田昌弘(拓大紅陵)、7位池田郁夫(花咲徳栄)に僕と5人いたんですが、高校時代に実績を残していた菊地原なんかと違って、下位指名の僕と多田は扱いが選手というよりも雑用係という感じです。1年目は野球をやった感覚がありません。しかも、当時のカープは先輩に『元〇〇連合』みたいな人もいて、おっかない人ばかりでしたから、生きた心地がしなかったですよ。一番キツかったのが洗濯です。当時のカープはクリーニング業者にださず若手が二槽式の洗濯機で30人分を洗っていたんですが、乾燥機が1台しかないからいつも喧嘩です。「俺は〇時までに持ってこいと△△先輩と××コーチに言われたんだ」とか言ってね。いつも深夜まで作業に追われ、洗濯場にあったソファーに倒れて1、2時間寝る程度。起きても『乾いてねぇ! 起床時間まであと30分しかねぇからドライヤーで乾かせ!』と、てんやわんや。その後、練習中に多田がバタンと倒れてくれたおかげで、洗濯は業者に出すことになったから助かった。今のカープの若い選手も多田に感謝しないとね」
なんという、ドラフト下位惨酷物語……
カープファンとしては、せめて、今はこんな慣習はなくなっていてほしい、と願うばかりです。
何千万円もの契約金を使って獲得した選手を(高橋さんは契約金ゼロだったそうですが)、こんなふうにまともに練習もできない環境に置くというのは、もったいない話ではありますね。ドラフト上位に比べると、結果が出るのを待ってもらえないのが、下位指名選手なのだし。
こういう話を読むと、「プロの世界に入ってしまえば、指名順位は関係ない」というのは嘘だと感じます。
上位指名のほうが、結果を出しやすいのは間違いない。
ただし、選手として大成してしまえば、もう指名順位は関係ない世界であるのも事実です。
イチローは、オリックスのドラフト4位。全体では41番目に指名された選手なのですから。
「ドラフトで最後に指名された選手」でありながら、千葉ロッテのレジェンドとなった福浦和也選手。
千葉ロッテのことをよく知らない僕は、2019年のシーズンの大詰め、ロッテのCS進出がかかった試合が、福浦選手の引退試合となり、今シーズンはじめてのフル出場を果たしたことに違和感があったのです。
真剣勝負のはずなのに、これじゃ自チームも相手もやりにくいだろう、と。
しかしながら、福浦選手のプロ野球選手としての歩みや他の選手に与えた影響を知ると、「そこまでして見送らなけばならない選手」だったのだな、と納得できました。
むしろ、福浦選手を起用することで、あの試合に勝とうとしたのではないか、とも思いました。
福浦選手は、千葉の習志野高校から投手として入団したのですが、打撃のセンスが評価され、バッターへの転向を指示されます。
「ワンバウンド送球の練習もしましたけど、一番大きかったのは暴投王だった大塚明の悪送球。あれを拾っているうちに自然と上手くなりました。あの時代、同年代の奴らはみんな練習をやっていました。やっぱり、やらなければ上手くならない。それが当たり前と言えば当たり前だったということです」
その中でも福浦の練習量は誰よりも凄まじく、転向を勧めた山本功児も舌を巻いた。
「福浦はバッティングに関しては天才的なセンスの持ち主でした。あの天性のバットコントロールと、どんなボールにも決して右肩を開かず、形も崩されない芯の強さ。僕がバッティングに関して彼に教えた記憶はほとんどありません。むしろ僕の方が福浦に指導者として大事なことを教わりましたよ。
福浦は毎日、一番最初にグラウンドに来て、最後まで残っていました。彼が凄かったのは、それをずっと休まずに続けたこと。2軍時代だけでなく、1軍に上がってからも福浦は決して驕ることなく続けていましたからね。”努力を続けていたら何とかなる”。そんなことを福浦は教えてくれました。1年年下のサブローたちも、福浦の練習姿勢にはかなりの影響を受けたと思いますよ」
福浦選手は、自らが活躍しただけではなく、野球に取り組む姿勢で、チームに大きな影響を与えてきたのです。
「恩師」にここまで称賛される選手というのも、珍しいのではないでしょうか。
福浦選手のおかげで、他球団でも、「ドラフト下位入団でも、努力すれば名球会に入れるくらいまで成功できる」と希望を持てるようになりました。
ドラフト最下位入団の選手って、さまざまな入団の経緯や「その後の人生」もあって、読んでいて「ギリギリですごい世界に飛び込んでしまった人の生きざま」を考えさせられました。
それでも、ほとんどの選手は「プロの世界を経験できたこと」をプラスにとらえているのです。
「やらずに後悔する人生」よりは、「挑戦してダメだった人生」のほうが、やっぱり良いのだろうか。
それとも、思い出したくもない人は、この取材を受けなかったのか。
プロ野球ファンには、こたえられない一冊だと思います。
ドラフト最下位は、厳しい。
それでも、可能性も希望もあるのです。
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