琥珀色の戯言

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【読書感想】春の庭 ☆☆☆


春の庭

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Kindle版もあります。

春の庭

春の庭

内容紹介
第151回芥川賞受賞作。
行定勲監督によって映画化された『きょうのできごと』をはじめ、なにげない日常生活の中に、同時代の気分をあざやかに切り取ってきた、実力派・柴崎友香がさらにその手法を深化させた最新作。
離婚したばかりの元美容師・太郎は、世田谷にある取り壊し寸前の古いアパートに引っ越してきた。あるとき、同じアパートに住む女が、塀を乗り越え、隣の家の敷地に侵入しようとしているのを目撃する。注意しようと呼び止めたところ、太郎は女から意外な動機を聞かされる……
「街、路地、そして人々の暮らしが匂いをもって立体的に浮かび上がってくる」(宮本輝氏)など、選考委員の絶賛を浴びたみずみずしい感覚をお楽しみください。


第151回芥川賞受賞作。
柴崎さん、これまで3度ノミネートされ、かなり有力視されていたのに受賞できず、それなりにメジャーな作家になられました。
もう芥川賞枠から外れたのだな、と思っていたのですが、今回はこの『春の庭』でノミネートされ、ようやく受賞。
そんなに素晴らしい作品なのだろうか、と期待しつつ読み始めました。
古いアパートのちょっと奇妙な住人たちと、隣の「気になる豪邸」。
いかにも「何かが起こりそうな」雰囲気に満ちています。
さて、何が起こるのだろう……
うーむ、けっこうじらされるな……
あれ? これでおしまい?

「そのー、確かめたいことがありまして、あの、そこのお家を、見たいんですね」
 辰さんは、蔦に覆われた塀の向こう、水色の洋館を指さした。太郎は黙って、示された方向に視線を移した。
「できたらこちらのベランダの柵に、上がらせていただけないかなと、考えているんですね。ほんとはこの真上の部屋からがいちばんよく見えると思うんですけど、ほら、もう引っ越されちゃったんで。決して強盗の下見とか盗撮とか、そういったことではございませんので。ただちょっと、あのー、あの家が好きなだけなんです」
 家。
 太郎は、斜め裏の家を見た。水色の壁、赤茶色の瓦屋根。どこかで鳥が鳴いているが、姿は見えない。

この作品、風景や建物の描写、「なんだか他人のことや他人のものが気になってしょうがない心理」みたいなものが、かなりきっちり書かれている小説なんですよ。
でもなあ、作家の上手さは伝わってくるんだけれど、「で、これで何が言いたいの?」と思ってしまうんですよね。


この『春の庭』を読むと、僕は小説に対して「文章の上手さとか文体的な冒険」よりも、「ストーリーの面白さ」を重視するタイプなのだな、と痛感します。
そういう僕にとっては、正直、「まだこれ、終わらないのかな……なんだか読んでいると、まだるっこしくてちょっとイライラする……」という小説でした。
突然視点が入れ替わったりするのって、なんか読みにくいし……


けっして「駄作」ではないのでしょうけど、僕には向いていない小説でした。

 太郎はなにをするにも、「面倒」という気持ちが先に立つ質だった。好奇心は持っているのだが、その先にある幸運やおもしろみのあるできごとを無理して得るよりも、できるだけ「面倒」の少ない生活がよいと考えていた。それでも、「面倒」はそれなりにやってきた。

これとか、本当によくわかるんだけどねえ。
でも、これに頷いてしまうような人は、この小説の良い読者にはなれないんじゃないかな。
だって、「面倒」だから。

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