琥珀色の戯言

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その街の今は ☆☆☆


その街の今は (新潮文庫)

その街の今は (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
ここが昔どんなんやったか、知りたいねん―。28歳の歌ちゃんは、勤めていた会社が倒産し、カフェでバイトをしている。初めて参加したのに最低最悪だった合コンの帰り道、年下の良太郎と出くわした。二人は時々会って、大阪の古い写真を一緒に見たりするようになり―。過ぎ去った時間やささやかな日常を包みこみ、姿を変えていく大阪の街。今を生きる若者の日々を描く、温かな物語。芸術選奨文部科学大臣新人賞、織田作之助賞大賞、咲くやこの花賞の三賞受賞。

この本を読みながら考えたのは、「僕はやっぱり、『ストーリー重視の本好き』なのだなあ」ということでした。
『その街の今は』は、ある意味実験小説的というか、「街」というものをどれだけ文章でリアルに描写できるか、ということに挑戦しているように思われる作品です。

 四ツ橋筋を渡って堀江を回り、四軒のカフェと三軒の雑貨屋にフライヤーを持っていき、そのうち四軒からフライヤーやフリーペーパーをもらった。立花通りは相変わらず、四ツ橋筋からなにわ筋まで歩いてきた人が、今度は来た道を逆に向いて紙袋を持って帰る規則正しい流れができていた。立花通りも、五、六年前まではぽつぽつと家具屋があった程度だったのが、ほんの一年ほどでお買い物の街になり、いつもどこかが工事中だったのが最近はやっと落ち着いてきた。A.P.C.やアメリカン・ラグ・シーのウインドウに飾られている洋服は、もうすっかり次の季節になっていて、見に行ったらまたなにかほしくなってしまうんだろう。雲を透けてくる日差しはじゅうぶん熱を持っていて、帽子を被ってくればよかったと後悔した。

こういう描写がたくさん出てきて、大阪の地理に詳しい人にとっては、「ああ、あそこのことだな」と理解できると思うのですが、正直、大阪には縁のない僕にとっては、「柴崎さんが挑戦していること」はわかるのですが、この小説そのものが面白いかと問われたら、「うーん、結局いつもの『ほとんど何も起こらない日常の話』だしねえ……」と答えざるをえません。大阪の地理に興味があるわけじゃないし。
まあ、この長さ(文庫本で150ページくらい)だから、最後まで読むのはそんなに苦痛ではないのですが、それでもやっぱり、僕は、この「地図小説」には魅かれるところがあまりないんですよね。
「何もない日常の凹凸」を丁寧に描こうという姿勢は伝わってきますし、保坂和志さんが「描写ができる作家」と柴崎さんのことを評価されているのも、なんとなくわかるのですが……

「文章を味わうために本をじっくり読む」という人にはオススメしていいと思うんですよ。
実際の大阪の地図を並べて読んでみると、面白いかもしれない。
でも、僕みたいに、「ストーリーを追って、どんどん読み進めたい」あるいは、「新しい知識を得たい」というタイプの本読みには、「で、これ何の意味があるの?」と言いたくなる作品。
いや、最近『1Q84』を読んでいるのですが、あの村上春樹さんの小説でも「細かい描写を読み飛ばして先に進みたくなる衝動」に駆られて困るんですよ。久々の新作だから、もっとじっくり読むべきだと自分に言い聞かせてはいるんだけれど。

こういう作品を書く人がいるのは貴重なことだし、好きな人はたまらなく好きな作品だと思います。
でも、僕にはちょっと退屈でした。
同じ「何も起こらない系」でも、柴崎さんの『きょうのできごと』はよかったんだけどなあ。

きょうのできごと (河出文庫)

きょうのできごと (河出文庫)

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