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琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】「進撃の巨人」と解剖学 ☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
「巨人」の異様かつ圧倒的迫力の造形が、多くの読者を惹きつけているコミック話題作『進撃の巨人』。社会現象となっている作品の魅力の根源とは何か? そしていまだ作中で謎につつまれている「巨人」とは何か?この二つの大きな「問い」に、「美術解剖学」という学問の知見をもって挑む。かつてない試みの新書が登場。
「超大型巨人の顔の白ひものようなものは筋肉なのか骨なのか。まるでエビやカニの殻のような外骨格が顔を作っている、はじめはそう考えられたのだが……」


マンガ・美術鑑賞にも、そして未来の漫画家・美術家・イラストレーター・デザイナーにも役立つ内容です。


 「解剖学」からみた、『進撃の巨人』。
 あの漫画の大きな魅力というか、初見でものすごくインパクトがあるのは、解剖学の教科書からそのまま出てきたような、筋肉を露出した「巨人」たちです。

 この超大型巨人の身体的特徴で、まず驚くのは「巨大」ということですが、同時に、その姿が「筋肉を剥き出しにしている」ことも印象的です。ボディビルダーやスポーツ選手のように、筋骨隆々という肉体ではない。皮膚がなく、筋肉そのものが直接にみえるのです。人間でいれば、皮を剥ぎ、その下にある筋肉が剥き出しになった状態の身体です。これまでマンガやアニメなどでもあまりみかけたことのない特徴的なキャラクターです。
 人体解剖教室で「エコルシェ」というのがあります。人体の筋肉を示す立体模型ですが、美術解剖学の研究所や博物館に、教育用として置かれていたりします。また解剖書のイラストに、筋肉を示すものがありますが、超大型巨人の姿は、それにも似ています。しかもエコルシェとちがって、超大型巨人は、筋肉剥き出しの姿で、生きて、動いている。死体ではない。「生きて」いるのです。びっくりするような身体ではありませんか。


 医療関係者や美術を専門的に学んでいる人でなければ、解剖学の教科書を見る機会はほとんど無いでしょうから、いきなり漫画であの巨人を見た人の多くは、僕よりもさらに面食らったのではないでしょうか。
 あそこまで「解剖学の教科書的にもみえるキャラクター」をそのまま登場させてきたことが、『進撃の巨人』の成功の理由のひとつだろうとは思うのですが、そんな思い切った冒険ができたのも、スタート時、作者に漫画家としてのキャリアがあまり無かったおかげなのかもしれません。


 この本、『進撃の巨人』を題材に、人体を描くための身体のつくりを研究する「美術解剖学」について書かれたものです。

 美術解剖学という科目では、何を学ぶか。その中心となるのは、人体の骨格と筋肉です。
 美術解剖学の目的は、人体のかたちを把握することにあります。そのために、人体の内部にあって、人体のかたちを作っている構造物を、解剖して明らかにし、それを学ぶことで、人体のかたちがどのようにできているのかをマスターするのです。その人体のかたちを作っている構造物が、骨格と筋肉です。
 つまり、美術解剖学で学ぶのは、骨格と筋肉です。もちろん、絵画や彫刻、イラストなどが目指すところは、たとえば人体をモチーフにしている場合でも、解剖学的に正確な、解剖模型のような人体像を造形することではありません。人体の解剖学をマスターした上で、自由な表現をする。絵画や彫刻、そしてイラストやマンガというものの描写表現も「そこ」を出発点にして、それぞれのスタイルで実現していくものでしょう。『進撃の巨人』は、それを現代において「実践」したもの、ということができます。


 この本の中には、筋肉や骨の名前や構造などがそれぞれ説明されていて、これを一冊読めば、ものすごく高い教科書を買わなくても、「おおまかな解剖学」を知ることができます。

 脛骨・腓骨ともに下端が膨らんでいて、それぞれが足首のところの、瘤のような膨らみを作っています。脛骨が内果(=うちくるぶし)で、腓骨が外果(=そとくるぶし)です。この足首のふくらみですが、外側にある「そとくるぶし」の位置のほうが、「うちくるぶし」よりも低いところにあります。もし足首の絵を描く時は、この二つのくるぶしを、同じ高さに描くと不自然でバランス悪くなります。もちろん、あえて実際とちがう仕方で描くのも、表現としては自由ですが、しかし自然のかたちにしたがって描けば、自然とバランスよく美しくもなるものでもあり、このくるぶしは、外側を低く、内側を高くして描けば、まちがいはないでしょう。


 我流でイラストとか絵を描く人も、解剖を意識すると、ちょっと違ったアプローチができるはずです。
 ただし、あくまでも「おおまかな」であり、これを読めば、医学部の解剖学のテストも安心、ということはありませんが。
 「解剖学」っていうのは、僕の記憶のなかでは、ホルマリンの臭気のなか、みんなで押し黙って淡々とピンセットを動かすような実習と、実習以外では、骨や筋肉の名前を覚える講義だったのです。
 こういう、「人気漫画を題材にして、解剖学に興味を持たせてくれる本」というのは、これから本格的に解剖を学ぼうという医学生や美術学生には、入門書として役立つのではないかと。
 まずは「興味を持つこと」って、大事なので。
 これで興味を持った人は、もっと奥のほうへ、進んでいけばいい。


 ただし、『進撃の巨人』の大ファンだから、という理由だけで読むには、ちょっとアカデミックすぎますし、「ここは○○筋です」みたいな話が続いてしまうのも事実なんですよね。
 あの漫画を分析した本、と思って読むと、がっかりするかも。