琥珀色の戯言

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【読書感想】愛しのインチキ・ガチャガチャ大全ーコスモスのすべて ☆☆☆☆


愛しのインチキ・ガチャガチャ大全ーコスモスのすべてー

愛しのインチキ・ガチャガチャ大全ーコスモスのすべてー


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
ロッチのシールなど、著作権無視、パクリにコピー、雑なつくりのガチャガチャ製品を粗製乱造してきたメーカー、コスモス。70~80年代の子どもの心に突き刺さった、約1000点に及ぶインチキガチャガチャをここに開陳。ボクが欲しかったのはコレじゃなかった…。


コスモス』を覚えていますか?
いろんな店の前に置いてあった、真っ赤で四角くて、白い文字で「コスモス」と書いてあった大きな機械。
さまざまな流行ものが「当たる」らしいのですが、実際に当たったことも、当たった人を見たこともなく、出てくるのは、低品質で腰砕けの「コスモス・クオリティ」の景品たち。


……でも、ハズレだとわかっていても、なんだかやってみたくなる魅力に溢れていたんですよね、当時のガチャガチャ、そして、『コスモス』って。


 この品は、そのコスモスに魅せられた著者が、その景品を、集めも集めたり、約10万点!
 そのうちの1000点をカラーで公開したものです。
 僕はこの本を隅々まで懐かしく読んだのですが、いまから考えると(そしてたぶん当時も)、「これ欲しい!」っていう景品、ひとつも無いです。
 にもかかわらず、僕は何度も「コスモス」にお金を投じていました。
 もしかしたら、「またこんなしょうもない景品かよ!」って、ごくわずかな期待を裏切られてガッカリするのは、けっこう楽しかったのかもしれませんね。
 それにしても、子供の頃から、その場で捨てるか、いつのまにかどこかへ行ってしまったものばかりの『コスモス』の景品たちを、よくこんなに集めたものだなあ。

 みんなは、はずれを捨てていました。安価だからこその悲劇ですよね。高価な本物はとっておくから今でも手に入るけど、コスモスのような偽物は逆に今、入手困難です。例えば、ロッテのビックリマンシールより、コスモスの「ロッチ」の方が今では高かったり。


 いま、この本をめくって、当時の「コスモス」の景品たちをみると、その厚かましさに噴き出しそうになってしまいます。
 真似された企業のほうはたまったものじゃないのかもしれませんが、あまりにも似ていないのだけれど、そう言われればそうも見える芸能人やアニメのキャラクターの数々。
 『コスモス』の全盛期は、1970年代後半から80年代と、まさに僕の子供時代と重なっているのですが、今から30〜40年前の日本というのは、まだまだ、著作権に関しては、かなりアバウトな国だったのです。
 ネットで「中国のテーマパークの偽ドラえもん」のクオリティの低さを嘲笑してしまうのですが、あれはまさに、一昔前に『コスモス』が日本でやっていたことが、今、中国で行われているだけ、なんですよね。
 

 コスモスの消しゴムは実際のキャラクターに似ていない。他社製品から型を起こしたり、単に技術が低いのが理由だが、それはそれでコスモス首脳陣にとってOK。著作権を問われたとき「え、ちがいますよ」ととぼけられるからだ。「これウルトラマンの怪獣かな……」みたいな地点で寸止めされている。

 コスモスは、とてつもなく怠惰であった。ジグソーパズルを作る、となれば少しぐらい「いい風景」を探したり、ルノワールの名画などを持ってくるものである。それが面倒くさい。手近にあるのでいいや、となり、「寄せ鍋」になる。製作者サイドが一歩目でさぼってしまったため、遊ぶ気がさして起きないし、完成してもお部屋のインテリアにならない。つまり無価値である。と結論づけようとしたとき、逆転現象が起こる。徹底的な無価値とは、想像もしえなかったほどの衝撃を生む。

 「寄せ鍋」のジグソーパズルを見ていると、なんだかとても不思議な気分になってくるのです。これは、ある意味「シュール」な感じがする。でも、狙ってやったのか、本当に「そのへんにあるものを、適当にパズルにした」のか、意図がサッパリ分からない。
 『コスモス』の景品のすごさって、「これが景品として成り立つと思うって、いったいどんな人が作っているんだろう?」と考え込まずにはいられないところなんですよね。
 子供心に、「当たり」以上に、「大ハズレ」を見たかったのかもしれません。


 ほんと、これほど、「眺めているだけで、思わずニヤニヤしてしまう写真たち」って、滅多に無いと思う。


 この本のもうひとつの「読みどころ」は、全盛期の『コスモス』関係者へのインタビューです。
 けっこう赤裸々に、当時の事情を話してくれています。


 元コスモス社員の阿部茂さんの話より。

「ガチャガチャの機械って、もともとはアメリカから輸入したもの。中に入ってる商品だけ日本に合わせて作ってました。コスモスという会社はガチャガチャの中にハズレを入れるようになった。普通のガチャガチャはそんな概念ありません。当たりを10個入れたら、原価2円のはずれを100個入れる。儲かるときはすごかった。昭和56年のなめ猫、昭和58年のキン肉マン消しゴムは、朝1軒目、売り切れたところに補充すると、夕方にはもう空っぽになってる。ボックス機の投入直後も売れましたね」

 子供向けのガチャガチャに「ハズレ」を投入したのが『コスモス」だったのです。
 そういうことは、それまで「ハズレ」は無かったんですね。
 子供相手に、思いきったことをやるなあ、という感じではあったのですが、当時の子供としては「ギャンブルって、怖いなあ」と、いうことをガチャガチャで学んだような気がします。


 また、コスモスの中心人物のひとりだった鈴木暁治さんは、当時をこんなふうに振り返っています。

ビックリマンシール? 長野のタケシって奴が俺をだまして、ださせたんですよ。あいつ、変なとこで頭いいんだよな。「ロッテじゃなくてロッチなら引っかからないよ」とかいって。あいつが海賊品の企画ばっかり勝手にもってくるんだもん。いつも罪かぶるのはコスモス
 ビックリマンみたいな印刷もんのほうが早いんですよ。型もん(消しゴム等)は時間かかるやん。金型起こしてごちょごちょやってたら1年ぐらいかかって、流行終わっちゃう。印刷もんは、写真ばっと撮っちゃえば量産できる。なめ猫とかさ、あれも印刷もんだから、近所で猫つかまえて写真撮って。簡単なんですよ。

 近所の猫、だったのか……さすがにそれは、簡単すぎ!
 でも、なんだかこの『コスモス』関連のどこまでが本当だかわからないようなエピソードを読んでいると、僕が子供だった頃は、案外面白い時代だったような気がしてくるんですよね。
 

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