琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】ドラッグストア拡大史 ☆☆☆☆

ドラッグストア拡大史 (イースト新書)

ドラッグストア拡大史 (イースト新書)


Kindle版もあります。

なぜドラッグストアは一人勝ちできたのか!?

小売業が大激変に見舞われた平成時代に、急成長を遂げたドラッグストア――。薬局・薬店にしかすぎなかった個人商店から、いかにしてチェーン化を成功させていったのか。アメリカ小売業からの模倣と別様な業態への進化、食品やペットフードまで取り扱う品揃えの拡充、美容・健康ニーズという時代の追い風、そしてデジタルシフトへの取り組み。「マツモトキヨシ」「ツルハ」「ウエルシア」「コスモス薬品」……街のインフラとしての地位が確立され、スーパーもコンビニも脅かす存在となったドラッグストア、その躍進の歴史と展望に迫る


 「薬局よりも大きくて、薬と一緒にいろんな生活用品も買える店」というイメージだった「ドラッグストア」なのですが、最近は「生鮮食品を除けば、ほとんどのものが安く売られている、コンビニとスーパーマーケットの隙間を埋めるような店」になっています。
 

 日本のドラッグストア(以下、Dg.Sと表記)の市場規模は約7兆6859億円(2019年度。日本チェーンドラッグストア協会調べ)。株式を上場している14社のDg.Sの2020年決算の総売上高は約5兆9000億円で、Dg.S市場の約76%を占めている。Dg.Sの店舗数は全国2万店を突破し、コンビニの5万8000店(2018年)に次いで店舗数の多い業態である。
 Dg.Sが急成長した時期は、総合スーパー、スーパーマーケット、ホームセンター、コンビニよりも遅く、日本社会の右肩上がりの高度経済成長時代が終わった1990年代の前期から中期にかけて、成長が始まっている。
 とくに平成後期の10年間の成長率はすさまじく、10年間で市場規模が2倍強も拡大している。現在の売上高トップ3の「ウエルシアHD」は4.3倍、「ツルハHD」は3.3倍、「コスモス薬品」は3.9倍も、2009年から2020年の11年間で売上高を増やしている。
 Dg.Sよりも前に成長した総合スーパー、スーパーマーケット、ホームセンター、コンビニの業態としての売上成長率が、この10年間は横ばいもしくは減少しているのとは対照的である。Dg.Sは、日本でもっとも遅れて登場し、平成時代の後期に大成長した「総合業態」であるといっていい。

 ドラッグストアって、いつのまにかこんなに増えたような感じがするのです。
 僕も最初は、ドラッグストアには薬を買いに行き、ついでに他の買い物をするくらいで、あまり利用していなかったのです。
 でも、コンビニよりも安くて、スーパーマーケットほどレジが大混雑していないドラッグストアは、そこで売られているものを買うのであれば、けっこう便利なんですよね。
 そして、ドラッグストアで売られているものの種類も、どんどん増えていっています。

 「隙間」って書きましたが、最初は中途半端な存在のようにみえたドラッグストアが狙った「コンビニとスーパーマーケットのあいだ」には、大きな商機があったのです。

 Dg.Sの勃興・急成長は、平成時代になってからだが、現在のDg.S企業の前身である「薬局・薬店」の歴史は実は古い。現在の「ツルハHD」の前身である「鶴羽薬師堂」は、1929年(昭和4年)に北海道旭川市で創業。「マツモトキヨシ」の前身「松本薬舗」も、1932年(昭和7年)に創業。現在は駅ターミナル立地に多く店舗展開している「コクミン」も、1935年(昭和10年)と戦前の創業だ。
 「クスリのアオキ」の前身である「青木二階堂薬局」の創業にいたっては、1869年(明治2年)である。薬局・薬店の中には、江戸時代から続く創業100年を超える歴史のある企業も数多く存在している。


 これらの「町の薬局・薬店」が、どのようにして、現在の「ドラッグストア」になっていったのか。
 著者は、その経緯を丁寧に説明してくれているのです。
 僕にとっては、子どものころにあった「小さな薬局」が、いつのまにか現在の中~大規模の「ドラッグストア」になっていた、という印象なのですが、これを読むことによって、その進化の歴史を知ることができました。

 マツモトキヨシは、薬局・薬店の殻を破り、医薬品だけでなく、化粧品を中心としたビューティケア商品、バラエティ雑貨を幅広く品揃えした。上野アメ横店は、都心の狭い店舗で、売場は二層であった(1階14坪、2階12坪)。マツモトキヨシは、1階から2階に上がる階段の壁面に衝動買いしそうなバラエティ雑貨を並べて、二階に来店客を誘導する画期的な陳列方法を行い、都市型Dg.Sの売り方のお手本になった。
 当時の薬局・薬店は、病気になったときしか行かない店であり、入口は閉鎖的な雰囲気で、店内は暗く、目的がなければ入る気にすらなれないような店だった。しかも、覚悟を決めて引き戸を引き、入店すると、正面の医薬品カウンターの中にいる白衣を着たおじさんと目が合ってしまい、「なにか買わない限り店の外には出られないな」と恐怖を感じる。それほど閉鎖的な店舗であるというのが、当時の薬局・薬店の常識だった。
 しかし、マツモトキヨシ上野アメ横店は、出入口を開放し、自由に店に入ることのできる店舗だった。医薬品だけでなく、化粧品の売り場面積を確保し、セルフ化粧品の棚には「テスター(自由に試せるサンプル)」を設置。来店客は気ままに商品を試して、選ぶことができた。
 しかも、かつての薄暗い薬局・薬店のイメージを払しょくするために、「店内照明」を思い切り明るくした。マツモトキヨシ上野アメ横店は、夜間には店舗の照明が屋外にもこぼれて光り輝いていた。明るい照明に虫が集まるかのように、来店客を集める店舗は、当時の薬局・薬店の常識を大きく覆すものだった。現在もDg.Sの照明が他の業態と比較して明るいのは、マツモトキヨシが先鞭をつけたといっていいだろう。


 そうそう、昔の「薬局」って、小さな店のカウンターに薬剤師さんがひとりいて、一度入ると手ぶらでは帰りづらい雰囲気だったよなあ、と、これを読みながら思い出していたのです。

 日本のドラッグストアは、アメリカのドラッグストアを参考にしてつくられたのですが、その発展のなかで、日本とアメリカには大きな違いが出てきたそうです。
 
 コンビニやスーパーマーケットと同じように、アメリカの同業態をまねて創業したあと、日本人のニーズや生活習慣に合わせて、日本独自の進化を遂げていったのです。

 では、日米のドラッグストアの最も大きな違いとは何なのか。

 結論からいうと、「業態」としての役割が、現在では日米で大きく異なっている。最大の違いは、現代のアメリカにおけるDg.Sの売上構成比の70%超が、医療用医薬品の「調剤薬(以下、調剤)」であることだ。日本のDg.Sの中で、もっとも調剤構成比の高いスギHDでも、調剤の売上構成比は22.0%。ウエルシアHDは17.9%、ココカラファインは17.7%である(2020年の決算数値より)。また、コスモス薬品のように、調剤をほとんど取り扱っていないDg.Sも存在している。
 つまり、日本におけるDg.Sの売上高の80%以上は、調剤以外の「一般用医薬品」「化粧品」「雑貨」「食品」などで構成されている。
 一方、アメリカのDg.Sは、医師が書いた処方箋による調剤薬による調剤薬を提供する「地域でもっとも身近な医療機関」と位置付けられる。売上高に占める医療用医薬品の調剤比率が70%というのは、純粋な小売業というより、「医療機関が物品販売も行っている業態」と表現してもいいくらいだ。
 全米にそれぞれ8000店以上の店舗数を展開する「ウォルグリーン(Walgreen)」や「CVS」のようなアメリカのDg.Sは、アメリカ人の健康を支えるインフラである。病院の診療費がべらぼうに高く、健康保険に未加入の低所得者層も多いアメリカでは、気軽に病院にかかることができない国民も多い。そのため、自宅の近くにあるDg.Sで働く「薬剤師」が、アメリカではもっとも身近な医療関係者だ。


 現在の日本の場合は、病院を受診して処方された薬を、併設された薬局で受け取る、ということが多いのです。
 ドラッグストアの側も、これからは「調剤」を伸ばしていきたい、と考えているチェーンが多いようですが、それがうまくいくかどうか。
 逆にいえば、いまのドラッグストアは、やれることをほとんどやり尽くしてしまった中で、伸びしろがありそうなのが原点ともいえる「調剤」だということなのかもしれません。

 著者は、「郊外型ドラッグストア」には、「食品強化型」と「バランス型」の2種類がある、と述べています。
 「ゲンキー」「コスモス薬品」などでは、食品の打ち上げ構成比が50%を超えているのに対して、「クリエイトSD」「サツドラHD」「ウエルシアHD」などの食品と非食品を総合的にそろえる「バランス型」のドラッグストアがあるのです。
 「都市型ドラッグストア」の「ココカラファイン」や「マツモトキヨシ」では食品の売り上げ構成比は低くなり、マツモトキヨシでは9.1%に過ぎないのです。

 このように、「ドラッグストア」という同じ業態名を名乗っていても、Dg.Sの売上構成比は企業ごとに大きく異なっている。口述するが、「粗利益率」や「販管費率」などの小売企業にとっての重要な経営指標も、同じ業態とは思えないほど大きく異なる。
 これがコンビニやスーパーマーケットのような完成された業態の場合だと、企業名・チェーン名は違えども、部門別の売上構成比や経営指標はほとんど同じだ。
 Dg.Sは品揃えの特徴や経営指標が企業によって大きく異なる。それが「全国どこに行ってもDg.Sを見かけるが、店によって品揃えが随分違うなぁ」とDg.Sに詳しくないメーカーの営業マンなどが素朴に感じる疑問の原因である。ひとくくりに「ドラッグストア」として説明できないいことが、Dg.Sという業態の特徴としてある。

 ひとくくりに「ドラッグストア」として説明できないのが、ドラッグストアの特徴だというのは、確かにその通りだなあ、と納得させられます。
 だからこそ、新書のボリュームで「通史」を書くというのは難しかったと思うのですが、それをうまく成し遂げている良書だと思います。


fujipon.hatenadiary.com

アクセスカウンター