琥珀色の戯言

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【読書感想】逃北 つかれたときは北へ逃げます ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
たまの休暇も誕生日も、会社を辞めると決めた日も、北へ旅に出た。自らを探した「逃北」エッセイ。巻末に千葉雄大との特別対談収録。


 サブタイトルに「つかれたときは北に逃げます」とあるのですが、たぶん、世の中の人は、つかれたとき、気分転換したいときに「北」に向かう人と「南」に向かう人に分かれるのではないかと思うのです。
寒いところで、ひたすら自分の内面に潜ってみるのか、あたたかい(暑い)ところで、青い海に潜ってみるのか。


 僕の場合は、「南に行ったら、海に行って水着とか着なきゃいけないんだよね、めんどくさいなあ」というのが正直なところです。
暑くて脱ぐのは限界があるけれど、寒けりゃたくさん着ればいいし。
それで、さんざんどんよりしているうちに、落ち込んでいるのに疲れたら、日常に戻ってくる。
まあ、こういうのはまさに「人それぞれ」ですよね。


 能町さんは僕と同じ(というか、僕以上に)「北派」みたいです。
それも「とくに観光地に行くでもなく、街で人々の日常を追体験するのが好き」なのだとか。
僕はとりあえず観光地をまわってしまうので、「北派」にもさまざまな分派があるようです。


 能町さんが青森を旅したときの思い出。

 ところで、前章から続くこの旅をしていたときの私は社会人一年目でした。むしろ「会社人」一年目だったと言うべきでしょうか。会社が嫌で嫌でしかたがなかった。人生最大に鬱屈していた夏だったと言ってもよい。
 その気分を晴らしてくれたのは、青森の旅でした。「北」と「開放的な気分」は相性が悪そうですが、決してそんなことはない。北の夏の空気はスカッとつきぬけた気持ちよさなんだよ。
 そもそも大学卒業後にロクに就職する気がなかった私は、就職活動だけは両親へのアリバイ作りのような気持ちで、非常にやる気ない態度でチンタラやっていたのですが、どういう手違いか一社受かってしまったのでした。受かってしまったらどれを断るほどの気持ちはないので、もしかしたら何かおもしろいかもしれない……と思って入社するだけしてみたものの、1ヵ月もすると、毎朝登校拒否の小学生みたいな気持ちになっていました。


 能町さんは、この旅行での体験もひとつのきっかけとなり、結局この半年後に退社して、その後、一度も正社員にはなっていないそうです。
 僕は「旅で人生が変わる」ということはあまり無いと思っているのだけれど、こういうこともあるのか、と感じました。
 その後も、何かの折に、能町さんは「北」を訪れておられます。

 良くも悪くも、私をこんなにしたのは北です。


 「北朝鮮」じゃないですからね。
 これは、「北」にとっては風評被害かもしれません。
 ただ、寒い土地には「自分に向き合ってしまうような雰囲気」はあるような気がします。


 「日本の北の街の中でも群を抜いて寂しいところとして有名」な夕張を訪ねた章もあります。

 消防署がつぶれているという衝撃的な光景もあるし、つぶれた病院が「羽柴誠三秀吉」(やたらいろんなところの選挙に出る青森の人。夕張市長選にも出た)のポスターに蹂躙されているのもショックだった。
 でも、なんだかかわいい建物も多いよ。自分でむりやり建てたかのような、本とトタンでつぎはぎしたようなふるーい建物が多い。かつてはにぎわったであろうスナック通りには、「ディスコ」とかいてあるお店もありました(たぶん営業していない)。
 なぜかお寺は多いです。炭坑関係のものらしい。山の上にある寺院につづく、がけのような階段。これも絵になる風景です。
 なんとなく予想していた寂しさをこうして現実的に目の当たりにして、私はどう思ったか?
 夕張、いいなあって思ったよ!
 逃北の地としてもいいけれえど、むしろ観光地として、ね。特に散歩マニアにとっては、街は少し寂しくても人は温かいし、「北らしい散歩」にこれだけ適した街はなかなかない。
 いちいちお金をかけてどでかい施設を作る必要なんかないのだ。これだけ「さみしい街」「破綻した街」というマイナスイメージが浸透してしまったんだから、開き直ってそれを売りにしてほしいと私は本気で思っております。
 こういうタイプの場所としては長崎の軍艦島が有名だけど、あっちはもう誰も住んでいない。夕張のほうが気楽に行けるし、人々も温かいし、散歩にも適しているよ!


 たしかに、「廃墟好き」というのはけっこう多いので、そういうアピールの仕方もありなのかな、と。
 地元の人は、嫌がるかもしれないけれど……
 軍艦島、人は住んでないからなあ。


 能町さんは「北好き」が高じて、グリーンランドにまで行っておられます。
 何があるんだろう?と思いながら読んでいたのですが、本当に何もないところみたいです。
 でも、その「何もなさ」を楽しめる人もいるのです。
 いまの日本の街に住んでいたら、どこも同じような「何か」がありますものね。

 私はいつも感じるのは、北の人たちの、自分の街に対する愛憎半ばする気持ちである。こんなところ雪ばっかりで寒くてなんもよくない、とけなし、来てくれた人に対しては「よくもまあこんなところまで」というスタンスで歓待する。それでいて、北国の風土や精神性にはひそかに誇りがあるのです。南(特に沖縄)の人が、手放しで故郷を絶賛するのとは対照的です。


 個人的には、沖縄の人にも、内心、沖縄人としての「複雑な感情」(内地との関係、とかね)があると感じることが多いのですが、たしかに、「南」では、「こんなところまで、よく来たねえ」とは言われないような気がします。


 煮詰まったときには「北」という人は、「ああ、こんな感じだよね……」と静かに頷ける、そんな一冊だと思います。