- 作者: 貴志祐介
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川学芸出版
- 発売日: 2015/08/26
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
- 作者: 貴志祐介
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川学芸出版
- 発売日: 2015/08/25
- メディア: Kindle版
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内容(「BOOK」データベースより)
ホラー、ミステリ、SFのジャンルで文芸賞を受賞し、『黒い家』『青の炎』『悪の教典』と年代を超えてミリオンセラーを出し続ける著者は、どのようにしてアイデアを収集し、物語を紡いでいるのか。読者の心を鷲づかみにするストーリー展開の秘訣とは?影響を受けた作品、創作の裏に秘せられていた真の企みなどを一挙公開!!
僕も貴志祐介さんの作品は好きで、新刊が出ると読んでいます。
(いちばん好きなのは『新世界より』です)
この本、ホラー、ミステリ、SFと多彩なジャンルでベストセラーを生み出し続けている貴志祐介さんが、「創作のノウハウ」をレクチャーしてくれる本、だと思って購入しました。
これを読んだら、すごいアイディアが思い浮かぶんじゃないかな、とか、夢想しつつ。
実際に読んでみて痛感したのは「エンタテインメントに王道なし」もうこれに尽きます。
正直なところ、「なんか当たり前のことばっかり書いてあるな」という感じなのです。
ただ、逆に言えば、貴志祐介さんほどの高打率の作家でも、「裏技」を持っているわけではなくて、当たり前の「やるべきこと」をやっていくことを重視しているのですよね。
具体的な話をしよう。
アイデアの”種”を拾い上げるために私が日々やっていることは何か。
こまめにメモを取ることである。
意表を突くトリック、斬新な設定、個性的なキャラクター……とにかく小説の材料になりそうなこと、アイデアらしいものが脳裏をよぎったら、すかさずメモしてストックしておく。この”アイデアメモ”が、着想とわが掌中に引き込むための第一の役割を果たす。
だから、常にメモの携帯が欠かせない。
(中略)
アイデアは、一瞬のひらめきのようにやってくることが多い。浮かんだらそのつどメモしてつなぎとめることが重要で、あとでメモすればいいと悠長に構えていると、たいていつかまえ損ねる。忘却との戦いなのだ。
ほんと、これって、「当たり前のこと」ですよね。
でも、実際にメモしている人って、そんなにいないはず。
「良いアイディアが浮かばなくて……」という人は、「浮かばない」のではなく、「その種はちょくちょく見つけているのに、すぐに忘れてしまっているだけ」なのかもしれません。
たぶん、こういう「マメさ」みたいなところで、けっこう差がつくのではないかと感じました。
また「自分の武器を活かす」ということでは、貴志さんが働いていた生命保険業界の事情を盛り込んだことが、出世作『黒い家』の特長になったのです。
実際、ミステリの登竜門である「江戸川乱歩賞」では、”他の人が知り得ない業界の情報を取り入れること”が必勝法のように言われていた時期があった。情報小説と呼ばれるジャンルがあるが、フィクションであっても、一般的にあまり知られていない世界をリアルに描写することは、それだけでひとつのエンタテインメントになり得るということだ。
その点、職業というのは遍く、一般的には知られていない情報の宝庫である。
生命保険業界で一例を挙げれば、「死因コード」というものが設定されている。死亡保険金の申請時に社内で用いる書類のなかに、「死因」を記す欄があり、それぞれのケースに相当するコードを記入するのだ。新人時代、そのコード一覧を見て驚いたことがあった。
生命保険会社では、病気や事故、自殺などありとあらゆる死因を想定しているが、そのなかには「原子力事故」や「宇宙船事故」、さらには「核戦争」といったものにまでコードが割り振られていた。現実世界でこうした単語との接点を得ることは、非常に新鮮な体験だった。
生命保険にかぎらず、どの業界にもその世界ならでのルール、約束事などがある。それは基本的にその現場にいる人間にしか知り得ないことだから、一般の人にとって物珍しい情報がたくさん存在することだ。
情報面を意識するあまり説明過剰になってはいけないが、他人があまり知らない専門分野を持っていることは、小説家としての大きな強みとなる。これは作品に”売り”を設ける手っ取り早い方法とも言える。
貴志さんは、「その意味では、エンタテインメント作家を目指すのであれば、社会との接点を持つころは不可欠だと私は思っている」と仰っています。
西村京太郎さんは、作家になる前、ものすごい種類のアルバイトをしていたことが知られていますし、海堂尊さんは、医師、それも病理の知識を作品に活かし、医療界の内幕を描写しています。
この貴志さんの「死因コード」の話を読むだけでも、「原子力事故」まではわかるような気がするけれど、「宇宙船事故」とか「核戦争」とかは、どこまで本気でコードを割り振ったのだろう?とか考えてしまいます。
そもそも、核戦争が起こるような世界情勢下で、生命保険というのが機能しうるのか?
僕としては、「ノウハウ」の部分だけではなく、貴志さんが自作とか、これまでの読書体験について語っているところに、かなり惹かれながら読みました。
貴志さんの筒井康隆さんへのリスペクトは、僕も筒井さんの大ファンなので、嬉しかった。
ああ、貴志さんのような人気作家になる人も、同じ作品を読んで、圧倒されていたのだな、と。
『悪の教典』のラストを読んで、「これは続編があるのか……? でも、このシチュエーションから『続き』に繋げるのは、それこそ、『夢オチ』にでもしないとムリなのでは……」と思っていたんですよね。
ちなみに、貴志さんによると「作品世界はこの後も続いていく、ということで、続編があることを示唆したわけではない」そうです。
後半部分では、けっこう実践的な話も出てきます。
エンタテインメントにおいて重要なのは、やはり面白くて疾走感のあるストーリーだ。ストーリーが描ければ、自ずと読み手はついてくるもの。そして、そんなストーリーを生み出すために必要なのはアイデアである。
しかし、新人賞の選評などを見ていると、「アイデアは悪くないが、面白みに欠ける」と評される作品が少なくない。本当にアイデアに問題がないのだとすれば、なぜ評価が得られなかったのか? たいていの場合、その原因は「読み手が感情移入できない」ことにある。つまり、物語の世界観に引き込まれないのだ。
数年前に、こんなアメリカ映画を観たことがある。登場するのは、ヒッチハイカーを乗せては殺すことを繰り返しているシリアルキラーと、運転手を殺しまくっているヒッチハイカー。その両者が同じ車に乗り合わせるという内容のホラーだった。
この設定だけを見れば、いかにも何かが起こりそうな気配が漂い、なかなか面白そうに見えるかもしれない。ところが、私はこの映画をあまり楽しむことができなかった。なぜなら、主要キャラクターのふたりがいずれもシリアルキラーであるため、まったく共感できなかったからだ。
どちらの人物にも感情移入できないから、どちらかがピンチに陥って殺されそうになってもハラハラすることはないし、優勢になってもワクワクしないのである。結果、最後まで淡々と展開を追うだけで、心を揺り動かされることはほとんどなかった。まさに「アイデアは悪くないのに……」といった状態だ。
僕はこのアメリカ映画のあらすじまで読んで、けっこう面白そうだな、と思ったんですよ。
作った人も、そういう「超人というか、非現実的な人間どうしの闘い」を描けば、面白くなるはずだと考えていたのではないでしょうか。
ところが、観客というのは、なんのかんの言っても、「共感」できない人しか出てこないドラマには、魅力を感じないみたいです。
貴志さんは「読者の感情移入を促すためには、読者に近い立場のキャラクターを設定するのが有効である」と述べています。
役に立たない「とっぴな裏技」ではなく、ひたすら、実行できれば、高い確率で結果につながる「王道」を教えてくれる、そんな本です。
「全然書けない」という人よりも、「とりあえず一つの作品をつくるところまでは到達したのだけれど、他人に読んでもらうためには、『何か』が足りない」、そんな人にオススメです。
- 作者: 貴志祐介
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/01/14
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- 作者: 貴志祐介
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