琥珀色の戯言

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【読書感想】珈琲の世界史 ☆☆☆☆

珈琲の世界史 (講談社現代新書)

珈琲の世界史 (講談社現代新書)


Kindle版もあります。

珈琲の世界史 (講談社現代新書)

珈琲の世界史 (講談社現代新書)

内容紹介
カップ一杯のコーヒーの中には、芳醇なロマンに満ちた「物語」の数々が溶け込んでいます。その液体を口にするとき、私たちはその中の「物語」も同時に味わっているのです。コーヒーの歴史を知ることは、その「物語」を読み解くことに他なりません。歴史のロマンを玩味するにせよ、知識欲の渇きを潤すにせよ、深く知れば知るほどに、その味わいもまた深まるというもの。一杯のコーヒーに潜んだその歴史を、一緒に辿ってみましょう。


 スターバックスドトールコンビニコーヒーの隆盛もあって、僕もほぼ毎日のように、コーヒーを飲んでいるのです。極上の一杯じゃないと、というようなこだわりはないんですけどね。

 我々が普段何気なく飲んでいるコーヒー。それは、コーヒーノキというアカネ科の植物の種子(コーヒー豆)から作られる飲み物です。お茶やココアと同様にカフェインを含み、単においしい飲み物としてだけでなく、仕事や勉強の合間の気分転換や、眠気覚まし、ストレスの緩和などの効果――専門的な言い方をすれば、精神薬理的作用――を持つ嗜好品としても、世界中の人々に親しまれています。
 現在、その総消費量は単純計算で1日あたり、なんと約25億杯。水、お茶(1日約68億杯)に次ぐ世界第3位の飲み物です。ただし、1杯あたりに使う分量が、茶葉は約2gなのに対し、コーヒー豆は約10gのため、原料の総消費量では茶を上回っています。
 国別て見ると北欧諸国の消費が最も多く、第1位のフィンランドは1人あたりの平均で1日3.3杯。アメリカは1.2杯で、日本は1.0杯……つまり、平均すると日本人全員が毎日1杯ずつ飲んでいる計算になります。


 僕自身、そして、周囲の人たちをみていると、けっこうコーヒーを飲んでいるのですが、この3倍以上の消費量のフィンランドの人々って、一日中コーヒーを飲み続けているのではないか、と思えてきます。

 子どもの頃、はじめて飲んだときのことを思い出してみると、なんでこんな苦いものを大人は好んで飲むんだろう、しかも、ブラック?なんて感じでしたから、これを最初に飲んで、広めていった人たちは、いきなり「美味しい」と思ったのだろうか?なんて疑問にもなるのです。
 この新書では、さまざまな資料をもとに、コーヒーの歴史について書かれているのですが、歴史的な事件や偉い人の言動については記録に残されても、人々の日常生活に関連したものの資料というものは、なかなか記録されていないものだということを痛感させられます。
 コーヒーそのものについて書かれている史料はほとんどなく、さまざま史料から断片的に出てくる情報を拾い集めて推測される「コーヒーの歴史」は、まるで謎解きのようでした。

 コーヒーの原料となるコーヒーノキは、アフリカ大陸原産の常緑樹です。熱帯産で寒さに弱く、通称「コーヒーベルト」と呼ばれる南北回帰線の間の、熱帯から亜熱帯にかけての国々で栽培されています。ただし「熱帯産」とは言っても、もともと標高が高い産地の森の中で、背の高い樹々の陰に生える植物のため、強い日差しや暑さにも割と弱く、年間を通じて気温が15~25℃になる標高1000~2000mの高地が、良質なコーヒー作りにはもっとも適しています。
 世界のコーヒー豆の総生産量は、現在、年間900万トン(60㎏入り麻袋で取引され、それで換算すると約1億5000万袋)。最大生産国であるブラジルが世界の約3分の1を占め、以下、ベトナム、コロンビア、インドネシア……と続きます。その大部分はアメリカ、ヨーロッパ、日本などの消費国への輸出品です。輸出総額は多い年で200億ドルにも上り、熱帯地方産の一次産品の中では石油に次いで第2位の、重要な取引商品だと言われています。なお、近年では生産国の国内消費も増えつつあります。
 コーヒーノキの仲間(アカネ科コフェア属)は、現在125の植物種が知られていますが、主に栽培されているのは、アラビカ種とロブスタ種(植物学上の正式名称はカネフォーラ種)で、これにリベリカ種を加えた3種類を「コーヒーの三原種」と呼んでいます。
 このうちアラビカ種は、エチオピア西南部のエチオピア(アビニシア)高原が原産です。優れた香りと適度な酸味で、もっとも高く評価病虫害に弱いのが玉にキズ。これが現在、世界の生産量の6~7割を占めています。
 残りの3~4割を占めるのがロブスタ種。中央アフリカの西部が原産で、香味の面ではアラビカ種に比べて低評価ですが、病虫害に強くて収量も多く、比較的低地でも栽培できることから、耐病品種として広まりました。酸味が乏しく、きつい苦みと独特の土臭さ(ロブスタ臭)があり、通常は深煎りにしてブレンドの材料などに用いられます。またカフェイン含量が多いため、インスタントコーヒーなどの加工原料にも利用されています。
 残りの一つ、リベリカ種も中央アフリカ西部が原産です。ただし、品質面ではアラビカに劣り、耐病性ではロブスタに劣るため、現在はアジアやアフリカの一部でわずかに栽培されているにすぎません。


 コーヒー好きにとっては「常識」なのでしょうけど、コーヒーノキは125種もあるのに、飲むコーヒーの原料として栽培されているのは、わずか3種類だけなんですね。
 そのなかでも、アラビカ種とロブスタ種が大部分を占めているのです。
 ちなみに、コーヒーの原産地については、化石が出土していないため、正確なところは不明だそうですが、近縁種の花粉の化石が出土した地域と地層の年代、「分子進化時計」を解析した結果からは、起源は中新世(約2300年前~530万年前)まで遡り、約1440万年前のカメルーン付近(中央アフリカ)で、近縁植物との共通祖先から原始的なコーヒーノキの仲間(コーヒーノキ属)が生まれて、アフリカ大陸熱帯林に広がったと考えられているそうです。

 改めて考えてみると、お茶には5000年、カカオには4000年の歴史があると言いますが、それらの植物との出会いは、人類がユーラシア大陸やアメリカ大陸にそれぞれ移住した後のこと。人類誕生のときまで遡るコーヒーノキとの出会いのほうが、お茶やカカオよりも、はるかに早かった可能性は高いと言えます。
 ただし、コーヒーノキが自生する中央アフリカエチオピア西南部では、大きな文明が発達しませんでした。これに対して、茶やカカオは幸いにも出会ったその地に文明が発展し、遺された文献や遺跡から利用の記録を辿れるため、古い歴史が知られているのです。


 歴史があっても、それが記録されていなければ、後世には伝わらないものなのですよね。


 「紅茶の国」というイメージが強いイギリスなのですが、ヨーロッパで最初にコーヒーハウスが流行し、そこでの市民の政治談議がイギリスの近代市民社会を生んだ、とも言われています。

 イギリスのコーヒーハウスは、イスラーム圏のカフェハネがモデルの、(少なくとも流行初期は)酒を出さない店でした。じつはイギリスの人々にとって、はじめての「素面で語り合える」飲食店だったのです。それまで人々が集まる場所といえば居酒屋(エールハウスやタヴァン)、宿屋(イン)など酒を飲ませる店ばかりで、真面目な議論をしていても最後にはみんな酔っぱらって潰れてしまうのがオチでした。
 ところがコーヒーハウスの出現で、人々は素面どころか、飲めば飲むほど(?)カフェインで頭をはっきりさせながら、語り合えるようになったのです。当時のイギリスでは、味よりも薬理作用がコーヒーを飲む大きな理由だったようです。


 コーヒーは、長い間、「味」よりも「薬理作用」を求めて飲まれていたようです。
 三大品種についても、もちろん「飲んでおいしい」というのもあるのですが、それ以上に「病気に強かった」というのが、生き残った理由なのです。
 

(1970年代からの日本での)喫茶店数の急増は激しい競争を生み、一部の喫茶店主は「コーヒーのおいしさ」で他店と差別化しようと考えました。彼らが最初に力を入れたのは抽出です。ペーパードリップネルドリップ、サイフォンなど、それぞれ自分の店に合った抽出技術に磨きをかけ、たくさんの銘柄のコーヒー豆を常備して、注文を受けるたびに1杯分ずつ抽出して提供する、いわゆる「一杯淹て」が常態化していきました。
 意外に思われるかもしれませんが、このような「コーヒー自体のおいしさを売りにする専門店」が流行するのは、じつは歴史的に見て、とても珍しいことでした。ヨーロッパのコーヒーハウスやカフェはあくまで人の交流が中心で、コーヒーは「エスプレッソを除けば)出来るだけまとめて淹れるのが一般的。おいしさの追求は好事家たちが個人で行うものでしたし、アメリカでも「一杯淹て」を売りにする店が増えたのは21世紀に入ってから。おそらく、この当時の日本が初めてだったと言っていいのではないでしょうか。


 コーヒーの歴史は長いけれど、みんなでコーヒーを飲む店で、「おいしさ」にこだわるようになったのは、そんなに昔の話ではなかったのです。
 以前、アメリカに留学していた先輩が、「アメリカでスターバックスがあんなに流行っているのは、アメリカではマシなほうの味のコーヒーだから」と言っていたのを思い出します。
 

 今、わかっていることと、まだわからないことがちゃんと書かれている、「こんなに身近なものなのに、意識したことがなかったコーヒーの歴史」の本でした。
 
 

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