琥珀色の戯言

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【読書感想】滅びの前のシャングリラ ☆☆☆

滅びの前のシャングリラ (単行本)

滅びの前のシャングリラ (単行本)


Kindle版もあります。

滅びの前のシャングリラ

滅びの前のシャングリラ

内容(「BOOK」データベースより)
「一ヶ月後、小惑星が衝突し、地球は滅びる」学校でいじめを受ける友樹、人を殺したヤクザの信士、恋人から逃げ出した静香。そして―荒廃していく世界の中で、四人は生きる意味を、いまわのきわまでに見つけられるのか。圧巻のラストに息を呑む。滅び行く運命の中で、幸せについて問う傑作。


「2021年ひとり本屋大賞」7作品め。
 著者の凪良ゆうさんは、『流浪の月』で、2020年の『本屋大賞』を受賞されています。


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 連覇なるか!という感じで読み始めたのですが、まあなんというか、「これで『本屋大賞』ノミネートなのか……書店員さんって、作品じゃなくて作者で投票しているのかねえ……」と、これまでの『本屋大賞』で何度も繰り返してきた呟きが、また僕の口から洩れることになりました。

 僕が凪良ゆうさんの作風が苦手、というのはあるのかもしれませんが、正直、「自分の被害者意識ばかりが強い主人公が、わかりやすい『敵』と対立し、ものすごい幸運に恵まれて生きていく話」なんですよ。しかも、舞台設定が「あと1か月で地球が滅亡するという状況』のため、殺人、窃盗、傷害など、やりたい放題。わかりやすい『北斗の拳』みたいな終末像が描かれていて、意味ありげな宗教団体なども登場してくるのですが、読んでいて、「長いな」とうんざりしていたのに、読み終えたときには、「えっ、これで終わり?」と拍子抜けしてしまったのです。
 
 「もうすぐ人類が滅亡する話」といえば、『本屋大賞』とは縁が深い伊坂幸太郎さんの『終末のフール』を思い出します。

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 おお、この『終末のフール』って、もう15年前の作品で、『本屋大賞』にノミネートもされていたのか。そして、僕が「読書感想」に、はじめて☆をつけることにしたのがこの回だったんですね。個人的に感慨深いものがあります。

 まあでも、読み返してみると、『終末のフール』は、「あと8年で人類が滅亡する」という微妙な期間に設定されていて、だからこそ、人々の希望と葛藤が経時的に描かれていたのです。
 この『滅びの前のシャングリラ』は、「その1か月前」にはじめてその事実が公表されることになり、人々がそれを鵜呑みにして、『北斗の拳』みたいな世界になってしまうんですよ。
 いまのネット社会で、そんな直前まで機密が守られるとは思えないし、引力があるとはいえ、広い宇宙で、そう簡単に小惑星が地球にジャストミートするわけもない。
 こんなドラマチックな舞台をわざわざ設定したわりには、そこで演じられるのが、あまりにもありきたりの家族愛だったり、「被害者意識にまみれた人が、『自分は傷ついたから』という理由で他人を踏みつけにするのを美化する話」だったりするのが、僕は苦手なのです。

 人間って、基本的に「自分さえ良ければいい」生きものだけれど(僕もそうです)、この作品を主人公たちに素直に感情移入して読むのは、僕には難しかった。むしろ、こいつらさっさと滅びろよ、くらいの気分で読んでいました。せめて、最後は少しは盛り上がるんじゃないかと期待していたんだけど。

 というか、何なんだろうこれ。
 作者の「世界観」とか「滅びの美学」みたいなものに共感できる人のための小説なんでしょうね、たぶん。
 というか、この小説には「世界観」だけで、中身がない。「本屋大賞受賞作家!」と書かれた豪華な折箱に入った、スカスカおせち。
「人類滅亡もの」が好物の僕もがっかり。

 もちろん、作者のファン向けとしての、そういう作品の存在そのものを否定はしないけれど、これを『本屋大賞』に推した書店員さんたちは、本当に「お客さんに薦めたい」と思ったのだろうか?

 だとしたら、「失礼ですが、書店員さんたちの目は節穴でございますか?」と問わずにはいられません(『謎解きはディナーのあとで』風に)。
 
 なんか、2021年の『本屋大賞』のノミネート作には、ひどい感想ばっかり書いているな……


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滅びの前のシャングリラ

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終末のフール (集英社文庫)

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霊長類 南へ (角川文庫)

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