琥珀色の戯言

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【読書感想】復活の日 ☆☆☆☆☆

復活の日 (角川文庫)

復活の日 (角川文庫)


Kindle版もあります。

復活の日 (角川文庫)

復活の日 (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
MM‐八八菌―実験では、摂氏五度で異常な増殖をみせ、感染後五時間で九十八%のハツカネズミが死滅!生物化学兵器として開発されたこの菌を搭載した小型機が冬のアルプス山中に墜落する。やがて春を迎え、爆発的な勢いで世界各地を襲い始めた菌の前に、人類はなすすべもなく滅亡する…南極に一万人たらずの人々を残して。人類滅亡の恐怖と、再生への模索という壮大なテーマを描き切る感動のドラマ。


 懐かしいなあ、『復活の日』。
 高校時代に書店で見かけて、「ああ、これ確か映画になったやつだよな」と軽い気持ちで読み始めたら止まらなくなってしまったことを思い出します。
 しかし、今の僕でもけっこう読んでいて難しい科学的な解説が多いこのSF小説を、よく読み終えて面白いと思えたな高校生の僕!けっこう感心したぞ。

 映画ものちに観たのですが、僕の記憶のなかでは、「生き残った人類のために草刈正雄さんが命がけで基地に潜入する話」だったんですよ。
 今回、30数年ぶりに読んでみておどろいたのは、この本のなかで、その「人類のための潜入作戦」に割かれたページがこんなに少なかったのか、ということでした。

 この『復活の日』は、1964年、今から半世紀前に上梓されたものなのですが、読んでいて「古さ」を感じないのです。
 「まあ、名作だから……」と自分に言い聞かせながらの読書になるかと思いきや、40代後半の僕も、ページをめくる手が止まらず、どっぷりとこの世界に没入してしまったのです。

 兵器として開発されたウイルスが、さまざまな経緯を経て世界に蔓延していくのですが、そのウイルスに関する描写がすごいんですよ本当に。
 世の中の多くの小説では、「ものすごく強力なウイルスで、どんな治療も効かず、ワクチンも開発できなかった」という感じで話が進んでいきます。
 ところが、この『復活の日』では、そのウイルスに対して、人類が、ウイルス学者や医者、政治家に市井の人々が、力を振り絞って闘いを挑み、なんとか生き延びよう、自分は死んでも、人類を未来に繋ごうとするのです。

 そして、ウイルスの側も、その「人間の必死の努力をかいくぐっていく根拠」を持っている。

 僕の知識レベルでは、ツッコミどころが思い浮かばないくらい理論武装された作品なのです。
(あえて言えば、人間がこれくらいいれば、ある程度は耐性を持っている人がいるのではないか、と思いたいところではあります)

 ミステリでも、作品を面白くするためには、犯人も、捜査側、探偵側もお互いにベストを尽くさないと面白くならない。偶然に頼ったり、ご都合主義になったりすると読者は興醒めする、と言われていますし。

 この「滅亡していく人類」の描写がすごいというか、ものすごく読んでいてヒリヒリするんですよ。
 主人公たちが、無線で、「ひとりで死んでいく人たち」の声を聴く場面など、どちらの立場にも感情移入してしまって……
 
 その一方で、人類が滅ぼうとしているときでも、これまでの憎悪から逃れられず、「自分たちだけが滅ぶのは許せない」という連中もいる。

 正直、平成生まれで、「ベルリンの壁」や、ロシアが「ソ連」と呼ばれていた頃を知らない人たちには、東西冷戦時代の「人類は核戦争で滅ぶのではないか」「『ノストラダムスの大予言』が的中して、1999年までしか自分は生きられないのではないか」という感覚は、想像しがたいと思うのです。

 僕と同世代のよゐこの濱口さんは、「どうせ1999年に人類滅亡するんだから、好きなことをやろうぜ!」と料理人志望だった、相方の有野さんを芸人の道に誘ったそうです。

 今となっては笑い話なのかもしれませんが、僕が子どもの頃、アメリカとソ連とそれぞれの同盟国が西側、東側に分かれて争っていた時代は、全面核戦争に十分なリアリティがあったのです。

 だから、僕はこの『復活の日』のラストがものすごく印象に残っているんですよ。
 ああ、小松左京さんは、これだけ緻密に「人類全滅のシナリオ」を描きながらも、心の底では「人間の良心」を信じようとしていたのだな、って。

 たかがインフルエンザじゃないか!……そのたかがが、どこか心の奥底の方で、まさかにかわりつつあった。人々が、まだ意識に上せていないはるか奥の方で、インフルエンザというシンボルのもつ意味は、徐々にその比重をかえようとしていた。
 まさか、インフルエンザなんかで!


 高校時代の僕は、『復活の日』を、こんなに切実に読む日が来るなんて、想像もしていませんでした。

 『復活の日』を読んでいると、自分が手塚治虫先生の「火の鳥」になって、人類滅亡を何もできずに見届けさせられているような気分になってくるのです。
 人はひとりで生き、ひとりで死んでいくものだ、と覚悟しているはずの僕でも、「ひとりで死ぬのは怖いな……」と思わずにはいられませんでした。
 
 ちゃんと「サイエンス」に基づいて書かれている”Science Fiction"なので、慣れてくるまで読むのがちょっと大変かもしれませんが、「古典的名作として」ではなく、「今、新型コロナウイルスと闘っているときだからこそ」読んでみていただきたい作品です。


 映画も面白いですよ!

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