琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】「胸キュン」で100億円 ☆☆☆


「胸キュン」で100億円

「胸キュン」で100億円


Kindle版もあります。

内容紹介
イマドキ若者、新卒が即戦力になる!
創業15年で、年商100億円企業に駆け上がった「ボルテージ」の徹底マニュアルを初公開。


平均年齢28歳、女性が6割という若い体制で上場企業に成長した強さの秘密は、「入社後の新人でも、いきなりそこそこ売れる恋愛ゲームを作れる“徹底的なマニュアル作り"」にあった。


若手社員のアイデアをロジカルに変換する「3行企画書」。女性社員のモチベーションを引き出す社内環境。「胸キュンポイント」、「時間とお金感覚」などの徹底した女心マーケティング。「ドラマ塾」、「恋・コンバイブル」などの社内教育制度など、新入社員を即戦力に育てる独自の仕組みとは?


すべての企業に通じるイマドキ若者を生かす経営理念を、日本屈指のビジネスブックライター上阪徹氏が書き下す。


 スマートフォンの「恋愛ゲーム」で遊んでいる若い女性を、上からのアングルで撮影した写真と『「胸キュン」で100億円』というタイトルの表紙をみて、「これは僕のようなオッサンには書店で買うにはキツいな、内容的には『ビジネス系書籍』なんだけど……」と尻込みしてしまいました。


 そもそも、この「ボルテージ」という会社のこと、ご存知でしょうか?
 僕はこの本を読むまで、全く知りませんでした。

 恋愛ゲームで年商100億円。しかも、東証一部上場。私はこのギャップに驚いてしまった。
 ゲーム市場が大きく拡大し、たくさんの会社が急成長を遂げているのは知っていた。だが、それらの会社が提供しているのは、多くの人たちが楽しめる、ごくごく普通のゲームだと思っていた。ところが、この会社が作っているのは、恋愛ゲーム。しかも、女性向けなのだ。それは極めてニッチなビジネスなのではないか。これで年商100億円、そして東証一部上場というのは……。しかも、上場は2011年。ソーシャルゲームブームがやってくる前なのである。
 聞けば、恋愛ゲームのユーザーは、ごくごく普通の女性たちだという。恋愛ゲームというと、ともすれば一部のオタク系の女性たちが楽しむものなのではないか、というイメージを当初持っていたのだが、まったく違った。本当にごくごく普通の女性たちが楽しんでいるというのだ。
 しかも、その人数はこの会社だけで累計2600万人にも及ぶという。恋愛ゲームをスタートさせてから8年ということを考えると、単純計算で年間300万人以上がゲームを楽しんでいるということになる。中には、恋人や配偶者がいる人もごく普通にいるらしい。その上、彼やご主人が「恋愛ゲームなんて」と眉をひそめるのかと思いきや、ゲームを楽しんでいる彼女や妻を、むしろ応援しているというのである。その理由は、ゲームのクオリティの高さにある。男性たちが「このゲームならいいだろう」というレベルのものだというのだ。

 「ボルテージ」が作っているコンテンツはテレビCMなどでよく見かけてはいるのですよね。
『誓いのキスは突然に』とか、『恋人は専属SP』とか、タイトルくらいは聞いたことないですか?
 「ゲーム」とはいえ、少女マンガに出てくるような「王子様」「オレ様」っぽいビジュアル系の男との不倫的なロマンスを推奨するような感じのCMがゴールデンタイムにいきなり流れてきて、「何これ?」という気分になった中年男性は、僕だけではないはずです。
 こんなの、誰がやるんだよ……実は、こんなに大勢の女性たちが、虜になっているんですね。
 知らぬは男ばかりなり、と。
 少女マンガとかテレビドラマだって、品行方正なものばかりじゃないし、男は男で「男性向けコンテンツ」を消費しているわけですから、「こういう世界」もある、ということなのでしょう。 
 妻帯者としては、「まあ、実際に不倫とかされるより、ゲームでそういう欲求を解消してもらっておいたほうが良いのかもしれないな」と思ったりもするわけで。
 しかし、「こんなCM料金が高そうな時間帯にたくさん宣伝して、えらく気合いが入っているなあ」と思いきや、もうすでにこんなに大きな企業になっていたのか……


 「ボルテージ」のアプリって、売れているっていうけど、ランキングとかであまり観たことがないんだけど、ということで調べてみたら、「ゲーム」のカテゴリーではなくて、「エンターテインメント」に属しているのです。
 普段は「ゲーム」「実用」しか観ないのですが、「エンターテインメント」のランキングをみると、近年のオリコン年間ランキングのAKB48のように「ボルテージ」の作品がずらっと並んでいます。
 

 こういう「女性向け恋愛ゲーム」をつくっている会社って、どんなところなんだ?と思いながら読み進めていきました。
 「ボルテージ」を創業した津谷夫妻は、もともと広告会社で働いていたのですが、ずっと興味があった映画作りのために会社を辞めてしまうのです。
 ところが、支援してくれるはずの映画会社が手を引いてしまい、そこに「映画制作のノウハウを活かして携帯コンテンツをつくりませんか?」という誘いがきた。
 それが「ボルテージ」ができたきっかけなのです。
 もともとゲームマニアでもなければ、「恋愛」に特化していたわけでもなく、「映画」というエンターテインメントから、それも、単なる映画好きではなく、映画の脚本づくりの「王道」「観客を喜ばせるためのロジック」を学んできたことが、「ボルテージ」の躍進につながりました。

 どうすれば売れる商品をつくれるか、というところにこそ、経営者は最もパワーを割かなければいけないということだ。
 だからこそ、恋愛ゲームを出してから津谷氏が決断したことがある。それまで、さまざまなコンテンツを提供していたボルテージだが、事業を女性向けに絞るだけではなく、なんと恋愛ゲームに絞り込んでしまったのである。2007年のことだ。
「ドラマやストーリー、映画といったボルテージの強みを活かすことができて、見る人たちの魂を揺さぶれる事業だ、と思ったからです。そもそも経営資源は限られます。売れる商品作りをするためにも、持っている力をひとつに集中させたほうがいいんです」

 恋愛コンテンツで世の中の女性たちを豊かにできる。それが、ボルテージの事業に向かう東氏(津谷さんの奥様で「ボルテージ」の共同創業者)の強烈なモチベーションになっていく。
「だからこそ、女をバカにしたような恋愛コンテンツは絶対に作りたくなかった。バーチャルに逃げるようなものではなく、リアルで、もっといえば人生哲学まで入ったもの。”女って、どう生きるべきか”というところまで踏み込んだ、恋愛コンテンツを作りたかった」
 ただ現実逃避のために、ありえない設定で、男性から「キレイだね、好きだよ」なんて言われても、ユーザーには絶対に物足りないと感じていた。なぜなら、自分自身がそうだったからだ。意味もなく「好きだ」などと言われても、女性は納得しないのだ。そうでなくて、ちゃんと意味のあるドラマを作りたかった。その思いから絶対に逃げてはいけない、と考えた。だから、例えば髪の毛は紫や青やオレンジはありえない、とした。いっても金髪まで。そこには厳しくこだわった。
 この東氏の恋愛コンテンツに対する厳しい視線と、映画の本場アメリカで学んだ津谷氏の映画のノウハウ、さらには若い女性たちの感性が三つ巴でぶつかりあって作られていったのが、ボルテージの恋愛ゲームだったのだ。


 率直に言うと、テレビCMなどで観た「ボルテージ」の恋愛ゲームの第一印象って、「これって、誰がやるの?」だったんですよ。
 でも、作り手のこういう「本気」と、実際に多くの女性たちに支持されているのを知ると、なんだか圧倒されてしまいます。
 この本によると、「ボルテージ」の恋愛ゲームというのは、ソーシャルゲームのようにガチャシステムで一部の「廃人」たちからすごい金額を吸い上げるのではなく、「一度にお金を使い過ぎないようにあえて調整している」そうですし。


 恋愛ゲームで遊んでいる女性たちも、みんな盲目的に熱狂しているわけではないようです。
 この本のなかで、こんなユーザーの声も紹介されています。

「少女漫画を読むのと同じ感覚なんですよ。漫画以外でも、若い頃に流行ったライトノベルや『ティーンズハート(講談社少女小説の文庫レーベル)』みたいな軽い小説の携帯版みたいなイメージですよね。そこにゲームというインタラクティブな選択肢があるから、恋愛小説にプラスアルファがあって、より楽しめる。タイトルだけ見たり、絵だけ見たら、ちょっと引いちゃう人もいるかもしれないですが、少女漫画を読んでいた人なら、まったく何の違和感もないと思います」(30代)


「主人公に共感できない、ということもよくあるんです。ちょっと、こんなことはしないでしょ、とか。もし、自分に完全に置き換えてやっていたら、シミュレーションって苦しくなっちゃうと思うんですが、自分が主人公と思っているときも、みんなけっこう第三者的ですよね。だから、自分が主人公なのに、ツッコミを入れながらゲームを進めたりします(笑)」(30代)


「え、こんなのあるわけないじゃん、というのは、たしかに思いつつも、それが逆に面白かったりするわけです。意外性があって、おお、そうきたか、みたいな。先が読めてしまったらそれはそれで面白くないので、違う方向でひん曲がった感じになるのも、純粋に、おっ、と楽しめますよね。それはそれで楽しんでいる自分がいます」(30代)


「どうせやるなら、もう思い切り非現実的なほうに行きたいです。セレブだったり、警察ものだったり、ファンタジーだったり。ゲームだったら、突飛なものをやりたいな、と思います」(20代)


 こんな不倫とか二股推奨ゲームみたいなのが流行ってもいいのか!
 なんてことを、僕としてはちょっと考えていたわけですが、遊んでいるユーザーのほとんどは、「熱中しながらも、少し引いている」のです。
 この「ツッコミを入れながら」というのは、僕が昔、大映ドラマ(『スチュワーデス物語』とか)を観ていたときと同じような感じなのかな、と。
 

 「ボルテージ」のゲーム作りは、かなり詳細なマニュアルを基準としており、それによって、2ヶ月に1作程度のコンスタントな作品のリリースと作品のクオリティの維持がなされています。
 また、「女性が仕事を続けること」への意識が高く(津谷さん御夫妻にも3人のお子さんがいらっしゃるそうです)、福利厚生も充実しています。
 それで高齢化が進んでいった場合に、恋愛ゲームの作り手としてはどうなのか、と心配になったりもするんですけどね。
 高齢化社会の日本にとっては「高齢者向け恋愛ゲーム」のニーズが高まっていく可能性もあるけれど。


 この「ボルテージ」という会社の勢いと、マニュアルに基づくゲーム作りをみていると、すごいな、こんな会社があったのか、と驚くのとともに、「しかしこれ、「恋愛ゲーム」に特化しつづけていると、『ケータイ小説』みたいに、一気に飽きられるリスクもあるのではないか」とも思うのです。
 「ライトノベル」のように、ジャンルとして一般化していくのだろうか。


 個人的には、あの「なんだかあやしげなレディコミみたいなCMの謎」がようやく解けて、ちょっとスッキリしました。
 まさか、これほどの規模のものになっているとは思わなかったけれど。


 僕のように「なんだあれ?」と思っている男性諸氏は、この本を一度読んでみると面白いですよ。
 僕たちには、世界の半分が、見えていない。

 
 

アクセスカウンター