
- 作者: 薮崎真哉
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2015/01/29
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。

- 作者: 薮崎真哉
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- 発売日: 2015/01/29
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内容(「BOOK」データベースより)
「過去の失敗が今ごろ再燃、店舗展開がストップ」「根も葉もない噂のせいで、お店の売上が激減」…急増する「ネット風評被害」。いまや、誰の身に降りかかってきてもおかしくない状況になっている。誹謗中傷やデマが知らないうちに拡散して、手の施しようがなくなる前に会社・お店でできることは?炎上しそうな書き込みを見つけたとき、やるべきこととやってはいけないことは?ネット風評被害対策コンサルティングのプロが教える最低限のポイント。
ネットでは、さまざまな「風評」が飛び交っています。
事実もあれば、デマもある。
この新書には、そういう「ネット風評被害」の現状と、その予防策、風評被害が出てしまった場合の対策などの「最低限の知識」が書かれています。
ただし、この本は個人に対する風評被害について書かれているというよりは、企業や有名人などを対象にしており、「個人ブログのコメント欄での誹謗中傷に悩んでいる人」には、実践するのは難しいかもしれません。
おそらく、いちばん良いのは「リスクのある発信を事前にチェックし、被害が生じそうなときには、プロに任せる」ことだと思うのです。
でも、個人ブログでそれをやるには、コストの割にはメリットが少ない。
「ネットでの誹謗中傷」というのは、やる側のリスクや手間と比較して、それが「うまくいった」場合、被害者が受けるダメージがあまりにも大きい、というのが最大の問題点なんですよね。
しかも、当事者に悪意がなくても、被害が広がってしまうこともある。
きっかけは一通のメールでした。年も押しつまったクリスマスイブのこと。あるメーリングリストにとんでもない情報が流れました。
「ある友人の情報によると、A銀行が26日につぶれるって。
お金を預けている人は、明日中に全額下ろすことを勧めます。信じるか信じないかは自由です」
このたった一通のメールでクリスマス気分は吹っ飛びました。銀行がつぶれるというのはただ事ではありません。その銀行にお金を預けている人はもちろんのこと、取引をしている会社にとっても死活問題になります。
当然のことながら、翌25日の朝早くからA銀行の本店はもちろんのこと、支店にも問い合わせが殺到しました。
「A銀行が危ないというのは本当ですか?」
これは全くのデマだったのですが、A銀行では預金を下ろそうという人が殺到し、大混乱となりました。
もし経営に問題がない銀行だったとしても、多くの預金者が一度にお金を引きあげてしまえば、それが原因で経営危機に陥る可能性だってあります。
ようやく事態が収拾され、警察は「メールテロ」の可能性も考えて、発信者を特定したそうです。
ところが、捜査の結果、最初にこの情報を書き込んだ人物が意外にもすぐに特定できたのです。驚いたことに、それは20代のごく普通の女性でした。
しかも、彼女にはまったく悪意はなかったのです。ただ知人からA銀行がつぶれるらしいと聞いただけだと言います。
彼女は、たまたま聞いた情報を、良かれと思って仲間たちに送ったらしいのですが、それがチェーンメールのように流れ、さらには口から口へと伝えられて、預金流出金額数百億円もの取り付け騒ぎまでなってしまったのでした。
この新書のなかには、事件を起こしてクビになった人が逆恨みして、勤めていた企業を匿名で「ブラック企業」として紹介し、それがGoogleで上位に検索上位に表示されたために、内定辞退者が続出したという話も出てきます。
悪意がなくてもとんでもないことになる場合もあり、ほんのひとにぎりの悪意でも、大きな影響を与えることもある。
Googleの検索結果の影響は、いまの世の中では、本当に大きな影響力があるのです。
多くの人は、銀行がつぶれるかもしれない、と聞けば「もし預金を下ろさなければ、一文無しになってしまう。デマかもしれなけれど、下しておいたほうが無難だ」と判断しますし、ちょっとおかしいな、と思っても、Googleの検索ページに「ブラック企業」という言葉が並んでいる会社に就職したいとは思わないのです。
それは、気持ちとして、すごくよくわかる。
大事なことほど、極力リスクは避けたい。
だからこそ、こういう「風評被害」というのは、「効く」のです。
そして、その被害を取り戻すのは、非常に難しい。
今度は、風評被害で大きな経済的損害をこうむったとして裁判を起こし、相手に損害賠償を請求する場合です。会社によっては、風評による被害総額は、それこそ億単位になるかもしれません。できればそれに近い額を請求したいところですが、ここにまた大きな壁が存在します。
それには、裁判所に風評被害があったということを認めてもらわなければならないのです。それがまた至難の業です。そして、会社がこうむった損失はネット上の書き込みのためだということを立証しなければなりません。
これが実にやっかいですし、損害額を特定するのも簡単ではありません。そのため、専門の弁護士に依頼して裁判に臨むことになりますが、会社側が要求する金額がもらえることはまず無理といえるでしょう。
これは、名誉毀損による損害賠償を求める場合も同じです。日本ではアメリカのように懲罰的慰謝料は認められていませんから、要求する金額よりはかなり少なくなることがほとんどです。
ネット風評被害に関する訴訟としては、ネット広告会社が、ネット上に誹謗中傷記事を書いていた元社員に損害賠償請求を起こした例があります。
この裁判では、被告には同社が請求する金額を支払う能力はないということで、和解という形で終わっています。
そういう誹謗中傷行為をする人に、莫大な賠償金を支払う能力があるケースは、少ないのも事実なんですよね。
ただし、2014年11月には、東京地裁で「自分の名前の検索結果が、いかにも犯罪にかかわっているようなものになる」ということで、グーグルに検索結果の削除を求めた男性が勝訴しています。
男性が求めた237件の検索結果のうち、約半数の122件について、検索結果それぞれの「表題」と「内容の抜粋」の削除が命じられたそうです。
「検索結果」の重要性が大きくなるにつれて、このような訴訟も増えてくると思われます。
検索の結果って、ある程度「客観的なもの」だと思われがちですし、グーグルにも「そういうものにしたい」という意識はあるのでしょうけど、実際は「検索対策で稼ごうとしている人々」とのいたちごっこになっているのですよね。
検索結果を鵜呑みにするのも考えものではあるのです。
この新書、ある程度ネットに慣れている人にとっては「常識」の範疇のことが書いてあって、あらためて読む必要もないのですが、ネットの知識に乏しかったり、つい「自分の意見」をブログで述べたくなってしまう人は、一度これを読んで「おさらい」しておいたほうが良いかもしれません。
ネットでは「間違っていること」だけではなくて、「自分の価値観を押しつけること」も嫌われ、叩かれるリスクがあるのです。
企業などでなければ、「目立たないこと」「発信しないこと」が最大のリスク回避策だということは、わかっているんですけどねえ……
でも、知らないところで、何を言われているかわからない時代、ではあるからなあ。
自分の本名を「検索」できますか?
僕は怖くてできません……