- 作者: 渡部陽一
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2016/03/17
- メディア: 新書
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- 作者: 渡部陽一
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2016/04/08
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内容(「BOOK」データベースより)
イスラム過激派の勢力拡大で戦場取材は一層危険を増す中でも、現場へ入ることをやめない戦場カメラマン・渡部陽一。さらに自らも父として家族を養う立場となり、かつてのような取材スタイルを維持することは難しくなった。環境の変化や葛藤を抱えながら、それでも苦しむ人々の姿を世界に伝える責務を負い続ける彼は今、どんな手順を踏んで仕事を遂行しているのか?「撮ったものは必ず持ち帰って発表する」という任務を全うするため、いかに万が一を回避する危機管理を行っているのか?信頼の置けるガイドを探り当て、安全に目標に辿り着き、スムーズに取材を行うための百戦錬磨のスキルと考え方を本書の第一部で紹介。続く第二部は、彼が駆け出しのカメラマンの頃に出会い、取材のやり方と心構えを手取り足取り教わった恩師である日本人ジャーナリストとの対談集。異業種のビジネスパーソンにも響く、様々なキーワードが登場する。
そうか、渡部陽一さんって、「本物」の戦場カメラマンだったんだな……
この新書を読んで、僕はそのことをようやく実感しました。
写真家としての前に、タレント的な活動で渡部陽一さんのことを知ってしまったがために(渡部さんが撮った写真はそれまでに何度も見てきたはずですが)、「名義上の戦場カメラマン」みたいなものではないか、と思っていたんですよね。
僕の「戦場カメラマン」のイメージは、ロバート・キャパや一ノ瀬泰造さんといった「戦場で自らの身を危険にさらしながら写真を撮る、ギラギラした人たち」だったのです。
渡部さんのあの喋り方を聞くと、あんなに穏やかで、戦場でやっていけるのだろうか? もしかしたら、ハンドルを握ると「どけ、コラー!」とか人格が変わる人みたいに、戦場に行くと別人になってしまうのだろうか、などと考えずにはいられません。
渡部さんは、なぜ、「戦場カメラマン」という危険な仕事を選ぶことになったのか。
そのきっかけについて、こう仰っています。
大学1年生のとき、生物学の授業でいまだ狩りをして生活しているムブティ族を知り、彼らをこの目で見たくなってパスポートを取り、アルバイトで旅費を貯め、アフリカに向かいました。そして少年ゲリラに捕まり殺されかけました。銃を持った少年たちに取り囲まれ、銃で殴りつけられ、カメラや荷物、現金などを奪われたのです。命を奪われなかっただけでも幸運だったといえるでしょう。
さらには初めて人が殺される瞬間を目の当たりにし、その場で失禁してしまいました。
こんな体験をしたら、もう二度と危険な目に遭いたくないと思うのが普通の感覚でしょう。でも、僕はそう思えなかったのです。その後、なんとか帰国できましたが、日本にいてもそのときの恐怖と怒りがフラッシュバックのように蘇ってきました、辛い記憶でもありましたが、それ以上に辛かったのはこのときの体験を家族や友人に話してもわかってもらえなかったことです。僕は次第に自分が体験した恐ろしい出来事をどうやって伝えるべきかと考えるようになりました。
そして写真を使って伝えることができないかと思い至ったのです。
「一旗あげてやる!」という野心からではなく、自らが深く傷ついた場所に引き寄せられるようにして、渡部さんは戦場カメラマンの道を進んでいったのです。
率直に言うと、これを読んでも、僕は「なんで?」という気持ちをぬぐい去ることはできないのですが、世の中には、そういう「きっかけ」もあるのだ、ということなのでしょう。
戦場での取材について、渡部さんは、段取りやチーム編成の重要性を繰り返し語っています。
現地ガイド、通訳、セキュリティ+取材者(渡部さん)の最低4人でのチームを組むことにしており、納得がいくチームが組めないときには、取材先には入らない、と決めているとのことでした。
また、「戦場ではその地域の宗派や民族の構成比率というものを、自分のチームにも反映させなければならない」とも仰っています。
チームのなかに同じ宗派の「仲間」がいるのといないのとでは、数多ある検問を通過できるかどうかが、大きく違ってくるのだとか。
そして、戦場カメラマンとして生きていくための大切な条件は「マメであること」だというのもわかります。
豪快に飲んで、動いて、写真を撮って、みたいなイメージがある仕事なのだけれど、それだけでは、生き延びてフィルムを持ち帰ることができないのです。
僕は信頼関係を構築するためには、小マメな連絡が武器になると思います。とにかくマメであるというのは強い。好きな人にマメに連絡することでお付き合いできたりしますよね。そういうマメさというのは武器です。なぜなら、外国では一日に10回、20回と用もなく連絡してきたり、いきなりうちに来たり、うちでずっとお茶を飲んでいたり、という習慣が普通だからです。
ある人に会うために1週間張り込んだけどダメだった。それなら1か月、そこでテントを張って寝泊まりする。いざとなったら野宿してでも張り込む。そういう精神は、実際に効果があります。人は意外とアナログなんだということは、取材をすればするほど感じました。
粘り強く待つこと、繰り返すこと、耐えること。まさに剣道の訓練のように、粘り強く待ち続ける、張り込む、病気してでも粘るということで得られるものはある。もちろん、僕がフリーで、自分自身で覚悟を決められたからこそできたというのはあると思いますけど、マメであることはどんな仕事にも重要なことだと思います。
渡部さんは、現地の人との関係においてだけではなく、戦場カメラマンとしての仕事でも、さまざまなメディアにマメに連絡をとって売り込みをしてきたそうです。
あの喋り方で、おっとりしているようにみえるのだけれど、ものすごくマメな人なんですね。
そうやって、人脈を広げ、仕事の幅も広げて、ようやく、肉体労働のアルバイトをしなくても、取材費を稼げるようになってきたのです。
この本のなかで、渡部さんは、日本と欧米のメディアの写真の好みについて、こんな話をされています。
そこで学んだのは欧米のメディアが好む写真は、限りなく露出がアンダー(暗いトーン)のものだということです。日本では、色合いが華やかできれいな、記念撮影のような写真が好まれますが、欧米ではちょっと暗めの写真のほうが好まれます。
たしかに、「ピューリッツァー賞」を受賞した写真って、けっこう「暗め」だよなあ、と。
僕は写真に詳しくないですし、題材も明るい話ではないので、そういうものだと思いこんでいたのですが、技術的な面でも「暗めの写真」なんですね。
この新書の後半には、渡部さんがお世話になってきた人たちとの対談が収録されています。
フォトジャーナリストの山本皓一さんとのやりとりから。
渡部陽一:僕は自分で思い立ってこの世界に入って、ひとりのフリーランスでしたから、写真の撮り方もよくわかりませんでした。それも山本先生に学ぼうと思いました。
山本皓一:でもね、写真のうまい下手なんていうのは、本当は問題じゃないんだよ。どう被写体に接して、どう自分の思いを写真っていうメディアを通じて訴えられるか。それが大事だから。
極端に言うと、写真の専門学校出のカメラマンよりも、歴史や美学、自然科学や哲学をやったりした人間のほうが伸びるケースが多い。
それともうひとつ大事なのがデジタル化。これは写真界では産業革命に匹敵する大変革で、誰でも自由に撮れるというメリットはあるけど、その一方で撮った写真データをメディアに保存して、そのままクライアントに渡して自分の撮った写真なのによく見ないという風潮になってきている。それがデジタルになってからの最大のマイナス点だよね。自分が撮った写真を一所懸命、徹底的に見るっていうことがどれだけ勉強になるかがわからないカメラマンが増えている。
技術がないとまともな写真が撮れないけれど、技術だけでは破れない壁みたいなものもあるのです。
そして、「戦場カメラマン」という仕事も、いまや「斜陽産業」なのだと、共同通信社カメラマンの原田浩司さんは仰っています。
原田浩司:ジャーナリストの安田純平君も、「戦闘シーンはいらない」とテレビ局から言われてショックを受けていたね。テレビ局にしてみれば、ユーチューブに戦闘シーンはいくらでもあるので、それを拾えば十分というわけ。その映像が本物であるかどうかという話は別として、生命のリスクを冒してまで無理することはないみたいな言われ方をするらしい。戦場カメラマン、ますます仕事にならず、ヤバいんだよ、これから。
たしかに、「この戦闘シーンが本物か?」なんていうのは、一般視聴者には、ほとんどわからないはずです。いまの世の中だと、あまりに違うものは、ミリタリーマニアがネットで検証しそうな気もしますが。
とりあえず、「そのためにカメラマンが命を危険にさらすことはない」というスタンスに対しては、反論しがたいところはありますよね。
もしそこでカメラマンが命を落としたり、捕らえられて身代金を政府に要求されたりしたら、テレビ局にも責任問題が出てくる、というのも大きいのでしょう。
戦場カメラマンが、ドローンに取って代わられて「昔は存在した職業」になってしまうのは、もう、そんなに遠い話ではないのかもしれませんね。
- 作者: 渡部陽一
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