琥珀色の戯言

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【読書感想】 少年ジャンプが1000円になる日~出版不況とWeb漫画の台頭~ ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
この新書は「出版不況」と「Web漫画の台頭」をテーマにした一冊です。出版不況と呼ばれて久しいですが、その一方で売り上げを伸ばしているのがWeb漫画。紙の漫画とはまったく違う形で利益を生み出しているのです。本書はWeb漫画のヒットの秘密を明かすとともに、出版不況の内実も暴露。紙とWebの狭間に揺れる出版業界を、キーマンへの取材によって解き明かします。


 本が売れない、とくに雑誌の凋落がひどい、という話は、本好きで、出版業界に興味をもっている人なら、耳にしたことがあるはずです。
 そんななかで、これからの出版業界(とくに漫画)はどうなっていくのか、について関係者への取材をまじえながら検証・考察されています。

 毎年出版業界のデータをリリースしている出版科学研究所によると、出版市場の2016年の売上額は1兆4709億円、これは前年比3.4%減。その内訳は書籍が7370億円(同0.7%減)、雑誌が7339億円(同5.9%減)で減少幅自体は前年の5.3%より下がっている。その結果にひと安心、と思いたいところだが、販売額は12年連続の減少ともはや下降線は止まらない。
 

 そんな2016年の出版界に起きた大きなトピックがある。それは1979年から売上額は雑誌>書籍だったのが、2016年に売上額が逆転したことだ。37年ぶりの「書高雑低」。出版界の売上額は1996年まで伸び続け、そこから減少を続けているが、特に雑誌の下落が著しい。
 さらに最新の報道によれば、2017年の書籍と雑誌を合わせた紙の出版物推定販売金額は約1兆3700億円とさらに低下。しかも減少額は過去最大の7%減。出版界の市場規模は1996年の約52%まで縮小する見通しだという。
 普段通勤通学で電車を使う人なら、電車の中でサラリーマンやOLが雑誌を見る光景がめっきり減り、皆スマホを見るようになったな……と思うだろう。その光景と、この「書高雑低」のデータは無縁ではない。


 また最盛期である1996年の雑誌売上を100とした場合、定期誌(月刊誌・季刊誌)は43%、週刊誌は37%まで落ち込んでいる。


 僕自身も、雑誌を手にとることは少なくなった、というか、ほとんど無くなってしまったんですよね。
 ネットのリアルタイム性や無料で情報を得られることに慣れてしまうと、雑誌は情報が遅いし高いし、かさばるし……
 
 それでも、漫画というジャンルに関しては、大きな誌面で絵を楽しむ、という点や読者にネットでものを買うのが難しい子供の割合が多いということもあり、紙の雑誌や単行本が、もっとも生き残っていくジャンルではないか、と最初は想像していたんですよ。
 スマートフォンの小さな画面で読む漫画は、迫力に欠けるような気がするし。
 ところが、いまの電子書籍市場を牽引しているのは、漫画なんですよね。

 ここまで書いた紙媒体の落ち込みとはうって変わって、2016年の電子コミックは市場規模1460億円で前年比27.1%増。電子コミック雑誌にいたっては55.0%増という高い成長を見せている。
 2016年のコミック市場(コミック+雑誌)は、紙と電子をあわせて4454億円で前年比0.4%増。コミック誌限定では電子コミック雑誌が高い伸びを見せてるのにも関わらず紙媒体のマイナスを補填出来ず8.9%減。こうしたデータを照らし合わせても、電子コミックが現在の、そしてこれからの漫画界を支えているといっても過言ではない。
 電子書籍全体の勢いをまとめておく。出版科学研究所によれば、2016年の電書市場規模は1909億円と前年比27.1%増。その内訳は電子コミックが1460億円(前年比27.1%増)、電子書籍が258億円(13.2%増)、電子雑誌が191億円(52.8%増)。それぞれ高い伸びを見せてるだけでなく、その比率を見てわかるとおり、電子コミックが電子書籍の伸びを支えている。一昔前から「電子書籍元年」と言われ続けてきたが、本当にその扉を開いたのは電子コミックなのだ。


 著者は、出版社によって、電子書籍化率の違いがあることも紹介しています。
 出版物全体でいえば、電子書籍化率は8.2%にすぎないそうなのですが、KADOKAWAでは電子書籍化率は34%、集英社は26.5%など、大手出版社のほうが電子書籍化率は高い傾向があるようです。
 講談社は21.2%など、大手のなかでも、温度差はあるのも事実なのですが。
 コミックの電子書籍化率は全体で49.2%だそうで、この数字には僕も驚きました。
 最近の「目につく」作品は、ほとんど電子書籍になっていますし、それだけ、漫画にとっては電子書籍化することが重要視されている、ということでもあるのでしょう。


 著者は、雑誌からWEBに舞台を移したことがきっかけで、人気が再燃した『キン肉マン』や、WEB発で、人気漫画家とのコラボレーションでさらに注目を集めた『ワンパンマン』など、さまざまな事例を関係者の言葉とともに紹介しています。
 紙の書籍だから良い、WEBだから優れている、というよりは、それぞれの作品に向いた環境があって、それをうまく見つけられるかが重要になってきているのです。


 電子書籍には、書店に行かなくても買える、続きが読みたくなったら、どんな夜中でもすぐに(お金を払ってダウンロードすれば)読める、などのさまざまなメリットがあるんですよね。かさばらないから、持ち運びやすいし。
 ただ、すべてにおいて、電子書籍が正解とは限らない。
 その例として、田中圭一さんの『うつヌケ』が挙げられています。

(「」内は田中圭一さんのコメントです)

「出す前から『本屋で売れる漫画だろうな』とは思ってました。『鬱のレポート漫画』という企画の段階でそれを欲してる人は多いだろうなと。それにちょっと前にヒットした『ツレがうつになりまして』(細川貂々幻冬舎 2006年単行本発売)からしばらく経ってましたし。
 それでWebで連載が始まって、noteでは1話100円で売ったんですけど、だいたい1000人か1500人くらいが買ってるかなという感じでしたね。1話目は無料だったんですけど、それ以降は各話の頭のところしか見れないというのもあって、正直言えば連載中はそんなに反響があったという感じではなかったんです。反応でいえば同時期に連載していた『ペンと箸』の方が大きかったですね。連載中にいろんな出版社からオファーもいただきましたし。
だから『うつヌケ』は単行本出した時にだいたい3万から5万部いけばいいかなと思ってましたね」


 それが『うつヌケ』単行本発売が発表され、予約開始するやいなやランキング急上昇。発売前日には村上春樹を超えてAmazon1位にまで上り詰めて、田中先生も驚いたという。


「noteで毎回100円を出すのがしんどくなって、『単行本まで待とう』って人が増えたんだと思います。ぼくも雑誌連載より単行本派ですもんね(笑)。『うつヌケ』はテーマといい、本屋に来た人にも買われた本だと思います。本屋さんではのきなみ平積みにしてもらって、ぼくも玩具業界で10年営業やってきて店頭販促とかずっとやってきたんで、本屋さんがどうやったら『売るぞ!』という気になってもらうか考えて、全国津々浦々にサイン色紙を送ったんですよ」


 『うつヌケ』は10刷33万部のベストセラーとなったのですが、田中さんによると、「たぶん30万対3万くらいで紙で売れてます」だそうです。
 たしかに、書店で、立ち寄った人が手にとりやすい本というのはありますよね。


 WEBからの新しい才能の発掘には、大きな可能性があると同時に、これまで世界のなかでも独自の進化を遂げてきた日本の漫画文化を悪い方向に変質させていく危険性についても、多くの関係者が指摘しています。
 2012年に『電脳マヴォ』を立ち上げた編集者・漫画原作者竹熊健太郎さんは、こんな話をされているのです。

「ネットになんでも載せていって、その中から人気投票させて淘汰していって、勝ち残ったものがプロ枠に移動する、というと編集の出る幕がないんですよ。
 IT系の一部の人たちは、編集者が入ることをコストと捉えているんですね。それより『ランキングを編集』にすればいいでしょ、と。皆が好むのがいい作品、それが基本的な発想。たしかにそれは悪いことではないんですけど、そこから新しいものは生まれません。
 ランキングで良い悪い決めるのって一見ジャンプのアンケート至上主義にも似てるように思えますけど、ジャンプの漫画は企画を立ち上げた時から編集者と作家でそうとう考えて作ってますからね、『バクマン。』なんかでも描かれてますけど。『アンケートで上位を』という目標は作家も編集者も一致してて、そのためにどうすればいいかとにかく練り上げる。そういう過程なしで、いきなり玉石混交で何の指導もない作品でランキング作って大丈夫? と思いますね」


 本当に編集者は必要ないのか?
 たぶん、「優秀な編集者は必要で、無能な編集者は不要」だということになるのでしょうけど、有能・無能なんて、そう簡単にわかるものじゃない。
 コンスタントにヒットを生み出せる人もいれば、三振も多いけれど、当たれば大きい、というタイプの編集者・作家もいるでしょうし。
 そして、「ランキング至上主義」は、表現のパターン化、過激化を招きやすい面もある。


 電子書籍は便利だし、田舎住まいの僕にとっては、「日本全国同じ時間になったら同じ本が読めるし、品切れもない」というだけでも、素晴らしい世界になった、と思うのです。
 それが作品にとってプラスになるかどうかは、これからの付き合い方次第なのでしょう。
 身も蓋もない話をすれば、「職業作家」という存在が成り立たなくてもよければ、誰かの「生涯に一度レベルの渾身の作品」を消費するだけでも、一生退屈しないような気もするんですけどね。


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