
- 作者: 菊池真理子
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2017/09/15
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内容紹介
「夜寝ていると、めちゃくちゃに顔を撫でられて起こされる。それが人生最初の記憶……」 幼い頃から、父の酒癖の悪さに振り回されていた著者。中学生になる頃には母が自殺。それでも酒をやめようとしない父との暮らしに、著者はいつしか自分の心を見失ってしまい…。圧倒的な反響を呼んだ家族崩壊ノンフィクションコミック。読後涙が止まらない全11話に、その後の描きおろしを収録。家族について悩んだことのあるすべての人に読んでほしい傑作。
ああ……
読みながら、子どもの頃、酔っ払った父親が帰ってくると、あわてて布団に潜り込んで寝たふりをしていたのを思い出しました。
でも、そのくらいだったら、まだマシ、だったのかな……家で飲んで暴れる、ということもほとんどなかったし……読み進めていくと、そうやって「うちよりもっと酷い家だってたくさんあって、まだマシなほうなんじゃないか」って、思い込もうとして、ガマンしようとしてしまうことが、状況の改善を妨げていたのかな、という気もするんですけどね。
この本へのさまざまな感想を読んでいると、「内容には共感できるのだけれど、解決策がほとんど提示されていないので、いま、同じようなことで苦しんでいる人には、役に立たないのではないか」というのがありました。
僕も、読み終えて、最初はそう思ったんですよ。
でも、安易に「これでウチは良くなりました」「悲しいこともあったけど、お父さん、ありがとう!」みたいな「いい話」に着地させなかったのは、すごく誠実なことだと思うのです。
こういう体験をした人が「許せました!」って、作品にするときに自分の感情を美化してしまうほうが、そうできない人を、ずっと苦しめることになるのではなかろうか。
全11話を読み終えた時点では、僕はちょっと「綺麗すぎる」と思ったんですよ。たぶん、作者も、自分の気持ちに決着をつけたくて、あるいは、あまりに座りの悪い終わり方だと読者に受け入れられないのではないかと考えて、ああいう「終わり」に一度はしたのではなかろうか。
でも、書き下ろしの「その後」を読んで、僕は正直、ちょっとホッとした。
そうだよね、そう簡単に、割り切れないよね。
もしかしたら、出版社や編集者の「最後は泣けるオチに」というようなプレッシャーを、読者の声が払いのけて、こういう、迷宮の深さを思い知らされるような、率直な「その後」が書かれることになったのではなかろうか。
そういう意味では、インターネット時代の、読者の声や気持ちがリアルタイムで直に伝わってくる時代だからこその着地点であるようにも思います。
「解決法がない」という話なんですが、これって、お父さんにとっては「付き合いにはお酒を飲むことが欠かせない時代」であり、「妻はずっと新興宗教にハマっていて、自分よりも信仰のほうばかり見ている」状態で、お母さんにとっては、「夫は毎晩友人との酒の付き合いばかりしていて、自分や家族のことに構ってくれない。だから信仰に頼らざるをえない」のですよね。
どちらも、自分が正しいと思っているのだけれど、相手にあまりにも伝わらないから、もう、諦めてしまっている。
そういう夫婦のかみ合わなさが子どもに与える影響を考えると、押しつぶされるようなつらさを感じずにはいられません。
子ども時代に僕が悩んでいたことなのに、同じことを、子どもたちにやっているのではないか。
人は、自分がイヤだと思っていたことに引き寄せられやすいし、同じ過ちを繰り返してしまう。
自分が居た環境、受けた教育に、良くも悪くも、引きずられてしまう。
著者の交際相手の話を読んで、「志村、後ろ後ろ!」って言いたくてしょうがないんだけれど、人間なんて、「周囲はみんな危機が迫っていることをわかっているのに、本人だけは気づかない『全員集合』の志村けん」ばかりではなかろうか。
どうすれば良かったのでしょうね、本当に。
飲み会や麻雀の場所を提供してくれる家として利用し、「あの人は飲むと面白い」と酔わせておいて、後始末をしない人たちは酷いと思うけれど、人って、他者に対して、無意識に、そういう酷いことをやりがち、ではあるんですよ。
今の世の中では、昔ほど「付き合いのためには、お酒を飲めないとダメ」って感じではなくなってきているのは事実です。
その一方で、「飲みニケーション至上主義者」は、まだまだ少なからずいる。
ただ、そういう人たちも「飲まないと他人とうまく喋れない」とか、アルコール依存になっていることが多くて、結局、その大元は何なのか、よくわからないのです。
絵に描いたような幸せな家庭なんて、この地球上のどこかに、存在するのだろうか?
「アルコール依存の人を引き戻すには、自分の人生を1回分くらい犠牲にする覚悟が必要で、それでもうまくいくとは限らない」ので、関わらないのが最も利口ですよ、というのが、僕の利己的かつ経験的なアドバイスです。
「メンヘラ」と呼ばれる人たちも同じ。
その人が、自分の家族だった場合には、どうすれば良いのか?
それでも、「家族だから」自分を犠牲にして、なんとか助け出そうとしなければならないのか?
アルコール依存症は、本人に治療の意志がないと、専門的な治療は受けられないことがほとんどなのですが、本人は「自分はどこにでもいる酒好き」だと思っているし、家族も「酒好きって、こんなものなのだろう」とか、「治療させようとして大きなトラブルになるよりは、とりあえず酒を飲ませて、問題を先送りしたい」とか、考えてしまう。
「とりあえず、これは自分だけに起こっていることではないのだ」
それを知ることができるだけで、物事を客観的に見られるところはある。
そこから先に、模範解答は、無い。
自分の哀しみや切なさ、行き場のなさを解消してくれる存在だったものが、結局、自分を縛り、取り込んでいく。
でも、何にも頼らずに生きていける人なんて、そんなにいない。
「間違っていても、家族なんだ」
そう言い切れればラクになれるのかもしれない。
でも、そんなの綺麗事だとみんなが気づいてしまった時代を、いま、生きている。
fujipon.hatenadiary.com
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西原理恵子月乃光司のおサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気
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