琥珀色の戯言

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【読書感想】実録! あるこーる白書 ☆☆☆☆


実録! あるこーる白書

実録! あるこーる白書

内容紹介
失踪日記vs毎日かあさん!! 元アルコール依存症者だった吾妻ひでおと、アルコール依存症だった夫に悩まされた西原理恵子、個性あふれる二人のマンガ家の初コラボ企画――踏んだ地雷はお酒だった! 酒好き、酒飲み、酒乱に依存症……その違いって一体なに。まさに「実録」なトラブルの数々を、赤裸々かつギャグたっぷりに語り合う、普段わからないアルコールに関する裏知識が身につくエンタテインメント啓蒙書。


吾妻ひでお西原理恵子月乃光司の3氏による、「アルコール依存症」についての鼎談本。
「エンタテインメント啓蒙書」と内容紹介にはありますが、このメンバーから期待してしまうほどのエンターテインメント性には乏しく、「極力わかりやすく、実体験をもとに書かれた『アルコール依存症』に対する啓蒙書」という感じでした。
これまで、西原さんが書かれてきた、鴨志田穣さんとの「アルコール依存症闘病記」をずっと読んできた僕にとっては、あんまり目新しい話はなかったなあ、とも思ったのですが、逆にいえば、こうして同じことを繰り返し西原さんが語っているのは、それだけ世の中に強く訴えたいという意思の表れでもあるのですよね。
西原さんは、アルコール依存症に関する講演などは、ノーギャラで引き受けておられるそうです。
この本のなかには、日頃の漫画のなかでの「サイバラ」とはちょっと違った「妻として、母親としての素の西原理恵子」の姿が少し明かされているんですよね。

――名称の問題は難しいですね。「アルコール依存症」っていうのも、「依存」という単語が、本人がだらしがなくて酒に頼っていると思われかねない。


月乃光司日常での「依存」という言葉の使い方からすると、確かにそういう誤解が生じかねない気がしますね。「依存心が強い」なんて言い方は、悪口や乖離しているとしか思えない。なにかいい呼び方はないですかね。吾妻さん。


吾妻ひでお当事者もあまりアル中って言わないほうがいいのかねぇ。


月乃光司西原さんとイベントやったことがあって、面白いからアル中、アル中って言ってたんですよ。偏見打破のイベントのつもりだったんだけど、かえって偏見を助長してしまった可能性もあるのかな。ちゃんと依存症って言ったほうがいいんでしょうか。


吾妻:でも単に依存症だと、タバコもクスリもアルコールもごっちゃになっちゃうし、それぞれ問題は違うしな。「百薬の長」とか言われているお酒が、こんな風にまで、人間を変えてしまうってことが重要なんでしょう。

アルコール依存症」は、本人にもどうしようもない「病気」なのです。
誰もが、一定の確率でかかる可能性があるのです、たぶん。
でも、それは頭でわかっていても、「だから、酒飲んで他人を傷つけても仕方が無い」とは思えないんですよね。
相手が酔っ払っていても、悪口を言われれば傷つくし、殴られれば痛い。
西原さんや吾妻さん、月乃さんは、「アルコール依存をネタにしている人」でもあるわけで。


病気だって言うのなら、他人に迷惑かけないように、ちゃんと治療しろよ!
「名前を変えて、地位向上」も良いけれど、他者を傷つけることが多い病気なのに治療もせず「病気なんだからしょうがない」で思考停止してしまう人が、なんと多いことか……
そして、まだまだこの病気は「酒好きなだけの困った人」として、家族が擁護してしまって、かえって状況を悪くしてしまうケースも、少なくないんですよね。

西原:アルコール依存症の問題は、まず本人が気づくのは無理だということですよ。アル中って例えば、40度の高熱が出てうなされてる状況なんですよ。インフルエンザで40度が出てるときにちゃんと判断しろっていうのは酷な話だと思うんですよ。それは無理でしょう。気づく前に死んじゃう人が7割方だと思うんです。しかも、家族にはクソ野郎って言われながらね。その反面、知識はあれば必ず治せるんです。だから、この病気を世に知らしめることが大事なんだと思います。AIDSみたいに、病気としての身分を上げてやることが絶対必要なんです。何にも分かってない親戚のオバちゃんに相談すると、ろくでもないことになっちゃう。それどころか医者ですら、治ったら「赤ワイン一杯くらいならいいんじゃない?」とか言うやつがいるしね。


吾妻:専門医じゃないと分からないからね。


医療側からすると、明らかにアルコール依存症なのに「酒を抜けば良くなるから、入院させてくれ」と言って受診する人が多いことに愕然としたりもするのです。それはアルコール依存の治療の専門病院に行ってください、と言っても、本人だけではなく家族も「いやそんな精神科なんて……本人もやめるって言ってますし……」の繰り返し。
いやほんと、こういう「読みやすい啓蒙書」をもっと多くの人に読んでもらいたい。
本人はなかなか理解してくれない場合も多いので、まずは「酒飲みに甘いのが寛容の精神だと思っている周囲の人々」だけにでも……


まあ、この本を読んでいると、「アルコールに依存してしまうような繊細さ」っていうのが、クリエイターとしての武器だった(そして、普通に生きるための弱点だった)人もいるのかな、とも思うんですけどね……

西原:この間なくなった土田世紀さんなんかも完全に依存症側でしたね。肝硬変でしたからね。最初に、20代で会ったときからベロベロでしたよ。飲まないと他人と会えない人チーム。一緒に歩いてたら綺麗な歩きゲロ吐いてましたからね(笑)。


月乃:ニュースで、若いのに肝硬変ってみました。


西原:お酒に持ってかれちゃったんだろうな。けど、若いうちからそういう心の病気があったから、若いのに、あんなにすごい作品を描けたんだと思いますね。最初からケツは決まってたのかなあ、みたいな気がします。ああいう心じゃないとあんな作品描けないですもの。健常者に描ける作品じゃなかった。それくらい迫力があって、素晴らしかった。会ったときに、こまわり君みたいなちっちゃい人が出てきてね。絵がカッコ良くって暗いじゃないですか。ちょっと影のある韓流スターみたいなのが出てくると思ったら、こまわり君みたいな小太りなのが出てきて、しかもベロンベロンなの。「もー、つっちー」って(笑)。

うーむ、「美化」してはいけないと思いつつも、こういう人は、アルコールがなかったら、はたして、「普通に幸せ」になっていたのだろうか……
そう考えると、西原さんが、「禁酒法」に向かっていかない理由も、わからなくはないのです。


ただ、身近な人や家族は「耐えられない」ですよね、アルコール依存症って。
ほとんどの人にとっては「メシのタネ」にもなりませんし(というか、経済的にも苦しめられることがほとんどでしょう)。
この本のなかには、鴨志田さんのアルコール依存症時代、西原さんが徹底的にいびられた話も出てきます。
読んでいて、いたたまれなくなるような話ばかりで、「病気だったと理解しているとはいえ、よく最後は許してあげられたなあ」と。

西原:日本人は死んだ人の悪口言わないような習慣があるでしょ。でもね、ちゃんと言っとかないと後々大変なことになるんですよ。そういえば吉祥寺の公園側で、いつも高田渡さんがニヤニヤ、ニヤニヤお酒を飲んでて、まるでアル中の神様みたいだったんだけど。お葬式のときに、長男さんが「これから父親は伝説になってみんなに語り継がれていくでしょう。みんなに愛された男でした。でも、息子からひとつだけ言わせてください。あいつは最低の人間でした」って。あたし、それ聞いたとき泣きながら「そーそー」と思って……ああいう人たちって、ほんっと外面はいいんですけどね。

アルコール依存症というのは、どういう病気か?」「身近な人にとっては、どう見えるのか? どんな影響を与えるのか?」
この息子さんの言葉に、すべてが集約されていると僕は思うのです。
葬式のとき、こんな悲しい言葉を息子に言わせるなよ……
これを言わずにはいられなかった心境を想像するだけで、僕も涙が出ます。

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