- 作者: 米山伸郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2017/10/20
- メディア: 新書
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- 作者: 米山伸郎
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内容(「BOOK」データベースより)
ノーベル賞受賞者数、研究開発費、博士号保有者数、ベンチャー起業数…人口比で世界一の知的レベルの高さを誇るイスラエル。その強さの背景には軍のエリート選抜システム、「失敗を恐れない」教育、移民がもたらす多様性、そして不屈のフロンティア精神があった!
イスラエルという国はみんな知っていても、行ったことがある、という人は、ほとんどいないのではないでしょうか(僕も行ったことはないです)。
アラブ諸国とずっと紛争が絶えず、ユダヤ人のネットワークを通じて大国アメリカに影響を与えている、ユダヤ民族の閉鎖的で得体の知らない国、というのが僕の率直なイメージなのです。
ところが、アメリカでは大きく事情が異なる。ICT(情報通信技術)やバイオ、医薬品関連などハイテク分野を中心に、イスラエルは「わくわくさせられる注目ブランド」で、目を離せないというイメージを持たれている。グーグルやインテルなど、世界最先端を行く企業がこぞってイスラエルに進出し、優秀な人材のリクルートや投資を活発におこなっている。若者の間では、イスラエル独自の農業集産共同体「キブツ」がクールだとして、生活体験ツアーやキブツホテルが人気を集めている。最近ではイスラエルのワインも評価が高い。
「キブツ」といえば、血縁を取り払って、共同体で子育てをする、というシステムをとっており、その弊害が明らかにされてきていたのですが、現在では親子が一緒に暮らせるようになるなど、これまでの経験を活かして、さまざまな改善がなされているそうです。
冷戦後の経済成長率(1991〜2015年までの実質成長率)でみると、イスラエルは174%と、日本の20.5%を大きく凌駕している。人口1億3000万に近いわが日本がパッとしない状況の中、当時人口わずか700万人程度のイスラエルがどんどんアメリカで存在感を増し、ビジネスリーダーや知的階層が敬意を表している様子を目の当たりにしたわけである。
著者は、イスラエルがアメリカで急速に存在感を増した理由として、「ハイテク分野でのめざましい進歩」「積極的に移民を受け入れる政策と国民の起業家精神」をあげています。
周囲を「対立する国々」に囲まれるなかで、イスラエルは生き残るために、「成長しなければならない国」でもあったのです。
意外に思う人が多いかもしれないが、じつはわれわれの日常生活の中には、「イスラエル」が溢れている。
毎日自宅やオフィスで使うパソコンの心臓部のプロセッサーがインテル製であれば、それはおそらくはイスラエルにあるインテルの研究所で設計され、イスラエルの製造工場で作られたものである可能性が高い。インテルプロセッサーの8割以上がイスラエルで設計・製造されているからだ。
そのパソコンで、グーグル検索しようと何文字かタイプすると、プルダウンメニューのようにユーザーが検索しようとしているものを”察して”、検索文字列の候補をすぐに提示してくれる。いわゆる「グーグル・サジェスト」という機能だが、これもグーグルのイスラエルにある研究所で開発されたテクノロジーだ。
同じくグーグルで、自分のウェブサイトへのアクセスなどを分析する「ページ分析」や、ユーチューブでのビデオ画像を双方向対応にする機能、検索で出てくるリストをクリックすることなく要求のデータが直接表示される「ライブ・リザルツ」という機能も、イスラエルで開発されたものである。
そのパソコンを日々、不正アクセスから守ってくれているセキュリティ機能「ファイアウォール」を開発したのもイスラエル企業である。
IT産業では、イスラエルという国は、非常に大きな存在感を占めているのです。
「イスラエルのやりかたには反対だから、スターバックスではコーヒーを飲まない!」ってパソコンに入力している時点で、イスラエルとは無縁ではない、ということなんですね。
ちなみに、アメリカとイスラエルの密接な関係の理由について、イスラエル人であり、アメリカ側のニューヨーク州通商代表のゲリー・ストックさんは、こう仰っています。
「ユダヤ人は必要以上に話す傾向があり、自己主張も強い。しかし、それでこそアメリカ人に理解されるのです。相手側にうるさがられるほど積極的に自己主張することで、イスラエルという国がアメリカ人に受け入れられているのです。
もっとも、こうしたユダヤ人の行動を見て、一部の日本人は『ユダヤ人がメディアをコントロールしている』『ユダヤ資本が金融を牛耳っている』などと陰謀めいたことを言ったりしますが、そのような事実はありません。メディア王のルパート・マードックも、CNNの創業者のテッド・ターナーもユダヤ人ではない。たとえば、イスラエルで学位を取得したポスドクの約8割はアメリカを目指します。そうした若者たちが、アメリカの研究機関で人脈を形成しているのです」
つまり、アメリカとイスラエルの緊密な関係は「ユダヤの秘密の取引」などではなく、70年に及ぶ建国後の経緯と、日常の両国国民間の不断の交渉の積み上げの結果であるとの主張である。
そしてイスラエルはアメリカとのつながりの継続を担保する投資にも隙がない。主に北米のユダヤ人の若者に1〜2週間イスラエルに来て楽しんでもらい、自らのルーツを意識させる「TAGLIT」と呼ばれるプログラムをイスラエル政府の経費で行っている。これは移民促進政策ではない。アメリカの若者と繋がっておくことが最大の狙いである。北米はイスラエル以外では最大のユダヤ人の居住地である。イスラエルへの移民候補者を呼び寄せるという狙い以上に、同国の最大のスポンサーであるアメリカの内部に将来の支持者を多く作っておくことが狙いと言える。
「○○さんはユダヤ人じゃない」っていう「そうじゃない人を強調する手法」には、若干疑問も感じるのですが、イスラエルという国は、「アメリカとの繋がりこそが生命線だと認識している」のです。
優秀な人材を自分の国で活かすよりも、アメリカで活躍させることのほうが、イスラエルにとってはメリットが大きい、と割り切っているのかもしれません。
イスラエルの義務教育は幼稚園1年、小中高11年間と充実している。古代イスラエルの頃より教育は生活と文明の一部として位置づけられ重視されてきている。ただし、イスラエルにはユダヤ教という特殊要因がある。
「OECDによる各国のK-12(幼稚園、小学校から中高まで13年間の教育課程)の試験結果を比較すると、イスラエルは全体的にスコアが悪いのです。そのことから、イスラエルの教育の質に疑問を持たれる向きもあるかもしれません。
ただし、その統計結果を注意深く見る必要があります。イスラエルの調査対象のうちの約2割は、必ずしもヘブライ語や英語を話さないアラブ系です。また残りの8割のユダヤ人のうち、1割以上がユダヤ教だけを学習する超正統派の子息です。超正統派の家庭では、算数などの世俗教育を受けさせません。そのため、全体的なスコアは低く出るのです」(コーヘン氏)
イスラエルの教育の特徴の1つに、教える側が権威を笠に着ず、教師と生徒の関係がフランクでインフォーマルなところがある。教師も学校長も生徒からファーストネームで呼ばれる。カリキュラムは欧米諸国よりも幅広く、算数と科学、そして外国語に重きを置いている。幼稚園と小学校では創造性、遊戯、感情の発達とともに進歩的なモデル、価値ある体験そして社会的交流を重視する。高校までの必須履修科目はヘブライ語、英語、数学、プログラミング、聖書、歴史、国家及び文学である。これら必修科目の試験において最低限の得点をクリアしておかないと大学受験資格を得られない。
日本の児童教育で重んじられる「協調性」「謙虚」「規則を守る」といった項目は、イスラエルの教育方針の少なくとも上位にはなさそうである。
イスラエルでは徴兵制度のなかで、厳選した若者たちにエリート教育を行っており、彼らがイスラエルのインテリジェンスを牽引しているのです。
ただし、上記にあるように、教育にも格差が大きく、超正統派の人たちは受けている教育の内容から、稼げる職業には就きにくく、宗教活動のみを行って、日本の生活保護のようなシステムの恩恵を受けている割合が高いそうです。
それ以外の層からは「それでいいのか?」という疑問の声があがり、社会問題となっているのです。
ユダヤ人の、ユダヤ教の国であるというのがアイデンティティなのだから、教義に忠実な人たちを否定するわけにはいかないのが建前なのだろうけど……
日本人の完璧主義は、製品の細部の仕上げやサービスにおいて、「そこまでやるか!」と外国人を驚嘆させるほど、手を抜かず技を極める形であらわれる。「カイゼン」の積み重ねによって、「より軽く」「より薄く」「より小さく」という加工技術の粋を極め、ついには神業の領域まで達してしまう。
そんな日本人に対し、ユダヤ人は問題の本質に迫る「なぜ?」の問いと議論を、「そこまでやるか!」と、あきれるほどに繰り返す。その問いは、ユダヤ教においては「自分自身の存在」そのものにも向けられる。ユダヤ人のイノベーションは、既存の価値観をも疑問視できる知的執着から生まれているのではないかと筆者は思う。
著者は、「0から1を生み出すのが得意なイスラエルの人々」と「1を効率よく100にすることに能力を発揮する日本人」というのは、お互いの長所を活かせば、素晴らしい組み合わせになるのではないか」と述べています。
たしかに、日本人には理解し難い、独特なところがあるからこそ、協力するメリットは、大きい可能性はありますよね。
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