- 作者: 権藤博,二宮清純
- 出版社/メーカー: 廣済堂出版
- 発売日: 2017/12/01
- メディア: 新書
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内容(「BOOK」データベースより)
野球で一番難しいと言われる「継投=投手交代」。だが、継投について本格的に論じた本はない。1998年に横浜ベイスターズを率い、独特の継投理論で日本一に輝き、WBCでも継投釆配を振るった日本一のピッチングコーチ・権藤博氏と完投重視の「先発選民思想」の愚を説く二宮清純氏が徹底討論。誰もが居場所を確保し、役割を分担し、「みんなで幸せになる」ことが求められる時代に生まれた日本初の継投論。
「権藤、権藤、雨、権藤」で知られる(とはいえ、僕は権藤さんの現役時代をリアルタイムでみていた世代ではないのですが)権藤博さんと二宮清純さんの「継投論」です。
権藤さんはプロ野球の世界に入ってから2年連続で30勝以上という凄まじい成績をあげながら、その酷使の影響もあって、その後は怪我に悩まされ、その現役生活は極太ながらも短いものでした。
その後、投手コーチ、あるいは監督として、ずっとプロ野球に関わり続け、2017年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でも、投手コーチとして小久保監督を支えました。
権藤さんは、プロ野球の監督やコーチの仕事について、こう仰っています。
権藤博:そもそも論を言えば、そもそもプロ野球の監督やコーチは何をするのが仕事かっていうことです。
それは、選手に教えることではないんですね。教えるのが仕事だと思って居る人が多いんですが、選手の持っている力は、プロに入ってきた段階でもうだいたい決まっているんです。
監督・コーチの仕事は、教えることよりも選手の能力や適性を見極めた上で、誰をどう使ったら勝てるのかっていうこと。これがプロ野球の監督・コーチの仕事ですよ。
二宮清純:権藤語録の中に「今さら教えてうまくなるようなやつはプロの世界には入ってこない。そもそも何千万、何億円もの契約金をもらってプロに入ってくる選手たちに、やれフォームがどうだこうだというのは、彼らに対して失礼ですよ」というのがあります。
教えるのは監督・コーチの仕事ではない。あくまでも選手という戦力の運用、すなわちマネジメントだと。
権藤さんは基本的にそれぞれの選手の個性や特徴を活かして、自主性に任せつつ、どう選手を起用していくかを考えていく指導者なのです。
ただ、僕は以前、横浜ベイスターズ(DeNAベイスターズ)の関係者に詳しく取材した本で、「マシンガン打線」と大魔神・佐々木主浩投手を擁して日本一になった権藤監督に対し、その後、チームの成績が落ちてきた際に「あの監督は選手任せで何もしてくれない」と不満が蓄積していった、というのを読んだことがあるんですよね。
結局のところ、指導者というのは、選手しだい、フロント次第、という仕事でもあり、良い指導者だから結果が出る可能性は高いけれど、同じ監督でもAクラスからいきなり最下位になることもあるのが勝負の世界でもあるのです。
オリックスの森脇監督が、ソフトバンクと最後までリーグ優勝を争った翌年にチームが低迷し、シーズン途中で休養してしまったのも記憶に新しい。
僕は森脇監督はなかなかやるなあ、と思っていたのですが(広島カープのOBであり、故・津田恒実投手の親友でもあるので、気になる人だったんです)、同じ人が監督をやって、今年こそは去年の雪辱を、というムードだったのに、こんなはずじゃないんだけどな、と驚きました。
森脇監督が急にダメ人間になったわけではなくて、フロントの補強の失敗が元凶とはいえ、チームの成績は監督次第でもあり、監督の力では、どうしようもないところもある。
いまのプロ野球では、「リリーフが充実したチームが強い」のは間違いありません。
権藤:だからとにかく、優勝するチームの中では中継ぎから抑えにしっかりしたピッチャーを置くっていうのは、欠かせない要素なわけですよ。先発の代わりはなんぼでもいるけど、試合が煮詰まってきて1点もやれないっていうときの代わりはいない。
二宮:だから、後ろから決めていくということなんですね。
2017年の巨人は、先発投手の防御率は3.26でリーグ1位。2位阪神が3.68、3位広島が3.71ですから、ダントツです。ところが、リリーフの防御率を見ると、1位が阪神の2.65、2位が広島で2.77、巨人は3位ですが、だいぶ下がって3.40です。
これを見ても、前より後ろがしっかりしているチームが上位にいることが分かります。巨人は勝ち星で見ても防御率で見ても、先発三本柱(菅野、マイコラス、田口)はいずれもベストテンの上位に入っている。ところが、中継ぎのホールドの数で見ていくと、巨人以外の5チームはベスト20の中にそれぞれ3人以上(阪神は4人)入っているのに、巨人はマシソンただ1人。頼りになる中継ぎはマシソンしかいなかったのが分かります。
この数字を見るとやはり、後ろが大事、後ろが活躍しないと優勝争いには食い込めないということを物語っていますね。
権藤:現代野球をきちんと見ていけば、勝つためには後ろのピッチャーが大事だというのはもう明らかなんですよ。前が良くても後ろがダメなチームが優勝したなんてことはなくて、むしろ、前が少々頼りなくても後ろがしっかりしているチームのほうが成績がいいはずです。
とはいえ、「先発完投こそピッチャーの栄誉」という考え方には、まだ根強いものがあるみたいなんですけどね。
贔屓のチームの試合をみていると、「このピッチャー、いつも100球くらいで崩れちゃうんだよなあ。もうちょっと長いイニングを投げてくれれば、リリーフの負担が軽くなるのに……」と思うことは僕も多々あるのです。
そこで「今日は調子がよさそうだから、あと1回がんばれ!」とベンチが送り出すと、やっぱり打たれてしまう。うーむ、もうちょっとしっかりしろよ……
権藤さんは、そういうピッチャーに対して、「5回、6回までならしっかり抑えられるのなら、そこでピッチャーを替えればいいじゃないか」という考えなのです。
ピッチャーを「打たれる前に替える」のが、首脳陣の仕事なのだ、と。
先発完投なら、ヒーローは一人だけだけれど、7回、8回、9回とそれぞれリリーフを使って勝てば、ヒーローは3人、4人になって、より多くの人が幸せになれる、とも仰っているのです。
できないことを無理にやらせようとして、試合を落とし、本人も自信を失ってしまうのであれば、それぞれの選手ができることをしっかりやってもらえばいい。今は、ひとりだけの力で優勝できる時代ではないのだから。
これって、たしかに、プロ野球の選手起用だけの話ではないですよね。
プロ野球ファンのあいだでよく話題になる「イニングまたぎの弊害」についても語られていて、長年現場で選手をみてきた権藤さんならではの知見にはうならされます。
権藤さんの話のなかで、とくに印象的だったのは、WBCでのこんなエピソードでした。
二宮:優勝争いのかかった場面もそうでしょうし、WBCなんか、国旗を背負ってマウンドに立つわけですから、生半可なプレッシャーじゃない。いわば精神的な拷問です。そういう場面でマウンドに向う投手に対して「絶対抑えてこい!」なんて言ったら……。
権藤:それが本音。WBCなんかでは、みんな投げたがらんわけですよ。先のWBCで千賀(滉太)が活躍しましたけど、「よし行け!」って言ったら、最初は「はい!」って言って出ていった。でも帰ってきたら、「もうダメです」と。「バカヤロー!」って言って送り出したら、三者凡退で帰ってくるんですよ。
「よーし、まだこれが最後じゃない、もう1回行け!」って言ったら、「嫌です。もうダメです」と、こんな調子です。こうなると「打たれたら代えてやるから、とにかく行ってこい!」と、それしか言いようがないんですよ。
で、「分かりました」って言って出て行って、次もピシャッと抑えるじゃないですか。そうするとベンチに戻って今度はグラブ投げて「もう本当にダメです!」って言う。そこで「よし、じゃあ代えてやる」って。もうそれぐらい、みんな疲れ果てて帰ってくる。
こんな様子ですから、余計なことを考えさせないように、「とにかく行け!」って言うしかないんです。千賀は何イニングもよく投げましたけど、みんな1イニングで、もうヘロヘロになって帰ってくるんですから。
二宮:WBCのプレッシャーは、それぐらい選手を疲れさせる。球数が何球なら大丈夫とかいう問題ではないんでしょうね。
百戦錬磨の千賀投手でさえ、こんな感じなんですね、WBCって。
「国の代表として試合に出る」というのは、別格のプレッシャーみたいです。
出場した選手のなかで、シーズンになって調子が上がらない人が出てくるのも致し方ないよなあ。
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