琥珀色の戯言

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【読書感想】筒井康隆、自作を語る ☆☆☆☆

筒井康隆、自作を語る

筒井康隆、自作を語る


Kindle版もあります。

内容紹介
デビューから「最後の長篇」まで――
大作家、すべてを明かす。


日本SF黎明期におけるSF同人誌〈NULL〉の創刊、短篇「お助け」での商業デビュー。“浸透と拡散の時代"を経て『日本SFベスト集成』の編纂や日本SF大賞の創設、エンタメ小説黄金期における大活躍と断筆活動、そして日本文学界の大家となり「最後の長篇」『モナドの領域』執筆に至るまで――半世紀を超えるそのキャリアを、筒井康隆自身が語る。〈SFマガジン〉に連載された「Live Wire」主催のロング・インタビューに自選短篇集の解題と全著作リストを併録する必携の1冊。


 ひとことで言うと、「ツツイスト(筒井康隆ファン)にとっては、読んでいるだけで楽しくってしょうがない本」であり、そうでない人にとっては、「マニアックすぎてついていけないというか、筒井康隆ワールドに触れるのであれば、この本から入るのは無謀」です。
 いやまあ、筒井さんを知らない人が、いきなりこの本を買うことはまず無いとは思うのだけれども。

 この本の前半は、筒井さんが、インタビュアーの日下三蔵さんとともに、自らの作家人生を振り返ったトークイベントの内容を収録したものです。僕もこれ、参加したかったなあ、と思いながら読みました。筒井さんは役者としての経験もあり、こういうイベントでのサービス精神もすごいのだよなあ。というか、ツツイストとして、「生で筒井さんを見てみたい」というのは悲願なのです。たぶん、目の前におられたら、何も言葉が出なくなって、緊張のあまり、逃げ出してしまうのではなかろうか。


 これを読んでいると、僕が子どもの頃、あるいは学生時代に読んできた、SF作家たちも多くが鬼籍に入ってしまったのだ、と、しんみりしてしまうところもあるんですよね。
 そんななか、筒井さんは、いきなり、「しぶとく生き永らえて、一人勝ちしております(笑)」という先制パンチをかましてくるわけです。
 

 家族で出版したSF同人誌『NULL』で作家デビューへの道を切り開いた筒井さんなのですが、「家族での同人誌」というのは、話題づくりをねらってあえてやったことだった、というような話をきくと、自分をいかに売り出すか、どう見せるか、ということをつねに意識してやってきた人なのだなあ、と驚かされます。

——(『NULL』の)創刊号に載った「お助け」が江戸川乱歩編集の探偵小説誌<宝石>にさっそく転載されました。


筒井康隆このときは、弟たちと一緒に三作載りました。江戸川乱歩氏から丁重な手紙が来まして、私の「お助け」と次男の正隆の「二つの家」、それから三男の俊隆の「相撲喪失」と一挙に載せたいということで、大喜びしましたよ。いま、ぼくを見出してくれたのは江戸川乱歩だというと、みんな「ええっ」とびっくりするんだよね。


——若い人たちにとっては、もう歴史上の人物ですからな。


筒井:私もそろそろ歴史上の人物です(笑)。


 「お助け」が『NULL』の創刊号に載ったのが1960年ですから、もう半世紀以上も前、僕が生まれる前だったんですね。あの江戸川乱歩と直接の面識があったというのも、言われてみればおかしな話ではないのですが、僕も読んで驚きました。この対談のなかでは、筒井さんが乱歩邸を訪問したときの話も出てきます。
 そういう意味では、筒井さんは日本の戦後のSF界、いや、SFのみならず小説界の生き字引ともいえる存在なのですが、筒井さん自身は「自伝を書くつもりはない」と仰っています。

——『東海道戦争』のすぐあとに、最初の長篇『48億の妄想』が出ているのですが、これは並行して書き進められていたんですか?


筒井:もちろん、そうです。これは集中して書きました。今みると、『東海道戦争』が(1965年)十月、『48億の妄想』は十二月、ずいぶん早く書いているんですね。このころはこんなに早く書いたのかなと思って驚いた。でもまあ『東海道戦争』の方は短篇集なので蓄積はあったわけですから。コレクションのあとがきにも書きましたけど、『48億の妄想』を、もう五十年ぶりで読み返したんですけど、傑作なんですよ(笑)。


——それはみんな分かっています(笑)。


筒井:こんなもの、今は書けないですよ。よく書いたものだと思います。自分をほめてやりたい。これが出たときに、本が出来てきたというので、早川書房へ行ったんです。福島さんのデスクの前に行くまでに、早川清社長のデスクがあるんですね。「筒井さん、ちょっとちょっと」というので前まで行ったら、「これ、新聞広告です」と言って、『48億の妄想』の新聞広告のゲラを見せてくれたんです。デカデカと自分の写真が載っているんですね。あのときはびっくりしたというか、非常に嬉しかったですね。


 僕がはじめて読んだ筒井作品が、この『48億の妄想』で、最初に出てから20年くらい経った1980年代の半ばくらいに読んでも、「こんなすごいものを書く人がいるのか」と、当時はまだ「ピュアな(苦笑)文学少年」だった僕は驚愕したのです。2018年に読んでも「現在にあてはまる話」として読めると思います。
 日本にはたくさんの作家がいるけれど、デビューから半世紀以上のキャリアがあって、いまでも書店でほとんどの作品の文庫が並んでいるのは、筒井さんと星新一さんと西村京太郎さんくらいではないでしょうか。
 当時は、「時代の寵児」として、けっこう時事ネタを書いていた印象がある筒井さんの作品が、これだけ長く読み継がれているというのも、なんだか面白いですよね。

——読者として断筆がいずれ解除されるというのはわからない訳ですから、目の前が真っ暗になるような気分でした。どれだけの損失なんだろうかと何年も思っていました。


筒井:読者の方は悲愴になるわけだけど、こっちは面白がっていました(笑)。根本的には、出版社がほっておくわけがないです。書いてくれと言ってくるに決まっているんだけど、そのときにどういう条件を出すかということで、名乗り出てくれたのは文藝春秋角川書店でしたね。いろいろと相談したり、そういうことがありました。


 あの「断筆宣言」のあいだ、ファンはみんな「もう、筒井さんの新作は読めないのか……」と暗澹たる気持ちでいたわけですが、筒井さん本人は、ずっと断筆しているつもりはなくて、あの期間中もずっと小説を書き続けていたのです。心配して損した!……ってこともないか。
 筒井さんは、「断筆」というのを交渉の材料として利用していた面もあったみたいです。
 それで干されることがないというのも、筒井康隆だから、ではあるのですけど。


 筒井さんの作品を時系列でみていくと、SF、スラップスティック、ミステリから、純文学に実験小説まで、長いキャリアのなかで、一つの場所に留まらないで、新しい挑戦を続けている人なんですよね。ライトノベルにも挑戦されています。

——ベストテンは、筒井ファンが十人いたらみんな違うと思います(笑)。


筒井:短篇はいっぱい書いているので。集計すれば「おれに関する噂」とか「佇むひと」なんかは入ってくるんだろうけど、それは嫌いという人もいるしね。だから代表作のない作家なんですよ、結局(笑)。代表作が多過ぎてないというか。これ一本という作品がある人とどちらが幸せなのかということですね。このままだと『時をかける少女』が代表作になってしまうので困るなと(笑)。いや、まあ別にいいんですけどね。
(場内爆笑)


 筒井さんほどの大作家でも、こんなことを考えることがあるのか、なんて思いながら読みました。
 まだまだずっと「一人勝ち」でいてください。

 あと、後半の全著作リストは、本当にすごい仕事で、ツツイストなら一家に一冊、という感じです。



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旅のラゴス(新潮文庫)

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