- 作者: 八木澤高明
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/12/22
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
- 作者: 八木澤高明
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2017/12/22
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内容(「BOOK」データベースより)
刃物をもったヤクザと大立ち回り、相手を病院送りにする。警察の手入れに激怒し、腹にダイナマイトを巻いて警察署を襲撃し逮捕。業界のドンとして全国指名手配をされるも逃げ切る等々。このような武勇伝と裏腹に、その男・瀧口義弘は線の細い銀行マンだった。福岡の進学校を卒業後、福岡相互銀行(現・西日本シティ銀行)に勤めていたが、昭和50年にストリッパーとして活躍していた姉に誘われ、その日のうちに辞表を出して劇場に飛び込んだ。以後、彼は帝王としてストリップ業界を差配するまでに上り詰める。15年以上にわたり、日本各地、世界各国の色街を取材し、ストリップ劇場の栄枯盛衰も見てきた著者が描く、悪漢にして好漢の一代記!!
数奇、としか言いようのない人生を送るひとって、いるのだよなあ。
まるで猛獣使いのように現場を仕切っていた瀧口は、つい数日前に福岡から出てきたばかりだった。瀧口の姉で、劇場の経営者の名前は桐かおる。当時、ストリップ界で知らぬ者はいない名ストリッパーだった。彼女はレズビアンショーで知られ、同じく絶大な人気を誇っていた一条さゆりと人気を二分していた。
瀧口の前職は銀行マンだった。福岡相互銀行、現在の西日本シティ銀行に勤めていた。安定した銀行員の職業を投げうって、姉が経営するストリップ劇場の一員となっていたのだった。
「私が木更津に行く前は、両親が姉の劇場を手伝っていたんですが、両親も年でしたし、九州に帰りたいと言い出したもんですからね。私が手伝いに行くことになったんです」
ストリップ業界に身を投じた経緯を瀧口はさらっと言う。当時、三十四歳の瀧口には、福岡に妻子がいたが、単身で木更津に来ていた。姉から帳簿をつけろと言われ、1975年(昭和50年)の二月から劇場で働きはじめたのだった。最初に降りかかってきたトラブルが、ヤクザとのひと悶着であった。
瀧口さんのお父さんも元銀行員だったのですが、売れっ子のストリッパーだった姉、桐かおるさんの「鶴の一声」で、姉の劇場の帳簿をつけることになったそうです。
そのお父さんが高齢となり、九州に帰りたい、ということで、代わりに、木更津のストリップ劇場の経理担当者として、瀧口さんが指名されました。
弟さんがすでにこの業界で姉と一緒に働いていたとはいえ、銀行員という安定した職(しかも1975年の銀行員といえば、「良い仕事」だったと思います)をあっさりと捨てて、34歳で妻も子どももいる男が、ストリップの仕事の手伝いをする、というのは、僕にはちょっと信じがたい話でした。
頼むほうも、引き受けるほうも、正気の沙汰ではない。
ところが、瀧口さんは、銀行の仕事はちゃんとやっており、他の行員から慕われていたにもかかわらず(後輩の若い女性が、のちに瀧口さんを追いかけて木更津までやってくるくらいに!)、自分は学歴がなく、出世の見込みもないから、と、単身木更津にやってきて、結果的に、妻子とも離れ離れになるのです。
この本では、子どもたちへの取材もされているのですが、娘さんが、そんな父親に対して怒りや苛立ちを露わにすることもなく、「そういうものだ」と淡々と受け入れており、むしろ、憧憬さえ抱いているようだったのに驚かされました。
血は水よりも濃い、とはいうけれど、イタリアのマフィアみたいな世界だよなあ。
金に興味がない元銀行員でストリップ劇場の経営者。この尋常ならざる振り幅の広さは、瀧口が常人ではないことを、多くを語らずとも物語っていた。
それにしても、月に1億8000万円、年にしたら、20億円以上。おそらくほとんど税金など払っていないだろうから、そのほとんどを懐に入れ、すべてギャンブルに使い果たした。
「それにしても、すごい収入ですね?」
「何でそれだけ稼げたかって? それはですね、私のプロダクションには多い時で300人のタレントがいたからなんですよ。彼女たちを全国の劇場に手配していたから、それだけの収入があったわけなんです」
瀧口は踊り子と言わず、タレントと呼んだ。現在、全国にあるストリップ劇場は20軒ほど。過去の状況を知らない私には、スケールが大きすぎて、いまいち話を飲み込めないでいると、瀧口が続けた。
「私がストリップの世界に入ったのは、1975年(昭和50年)からですが、その当時、全国には200軒以上の劇場があったんです。ストリップは十日興行で、ひとりのタレントあたり、1日2万円のマージンが入るとすれば、いくらかわかりますよね」
「踊り子によって、当然マージンは違うんですよね?」
『私が手配したタレントで一番高額だったのは愛染恭子でした。金額は十日で800万でした。破格のギャラで最初は乗せる劇場を見つけるのが大変でした。名古屋に千人収容のカイケイ座という劇場があって、そこに乗せたんです。そうしたら、大好評で全国から引く手数多で、お盆やゴールデンウイークの時のギャラは1000万円になりましたよ」
「手配したのは、日本人の踊り子だけだったんですか?」
「いや、日本人だけではないですよ。フィリピン人、南米の女の子もいました。昭和50年代ですね。私がフィリピン人のタレントたちを入れたのは。彼女たちは観光ビザで働いていたものですから、私は職業安定法違反で警察に全国指名手配されて、読売新聞の社会面に六段抜きの大きな記事が出たこともありました。荒稼ぎの手配師だとか書かれたんですね。
指名手配された時は、それこそ何百人のタレント、従業員を抱えていましたから、捕まるわけにはいかなかったんです。私が刑務所に入ってしまうと、劇場にもタレントを派遣できなくなる。タレントたちも仕事が無くなってしまうんですね。だから私は逃げることにしたんです。職業安定法違反は7年間で時効なので、ヤクザの親分や建設会社の社長に住む場所を提供してもらったりして、逃げ切りました」
当時、フィリピン人の踊り子たちは、ストリップを披露するとともに、劇場の一室やステージ上で客の男たちに体を売っていた。彼女たちが行っていたのは売春であり、しかも観光ビザでの就労という、無法行為そのものだった。
金儲けの話も悪事も、大げさに虚勢を張るのではなく、まるで他人事のように淡々と表情を変えずに話したのだった。
瀧口さんは、「ショービジネスとしてのストリップ」に信念を持っており、若いタレントたちを「ただ見せればいいというものではない」と、厳しく指導していたそうです。
その一方で、当時のストリップ劇場を支えていたのは、踊り子たちが体を売る行為だった、という事実に僕は驚いてしまいました。えっ、劇場内で、そんなことをやっていたの?
それも、劇場内につくられた個室だけではなく、他の客がみている舞台上で、客と踊り子の行為がそれがショーの一部として公開されていたのです。
著者は、30年前ぐらい前に「本番まな板ショー」を見たことがあるという50代後半の知り合いの話を紹介しています。
「確か、三人ぐらいを30分ぐらいの間に相手していたけど、フィリピン人の子がさ、何にも声を出さないんだよ。ただ天井を見ているだけ、男の粗い息づかいだけが響いてね。女の子のマネキンのような表情が強く印象に残っている。女の子はあんな晒し者にされてさ。声を出さないことが、人間としての最後の矜持だったんじゃないかな」
人間の欲望とは、そういうものだ、ということなのかもしれません。
でも、こういう話を読むと、日本人というのは(あるいは、人間というのは)、性に対して、状況によってはおおらかというか残酷になれるのだな、羞恥心など脱ぎ捨てられるのだな、と考え込まずにはいられません。
いくら「ショービジネス」と銘打っていても、こういう「売春行為」がないと、ストリップ劇場の安定した経営というのは難しかったようですし。
瀧口さんは、こうして稼いだお金をほとんどギャンブルに使ってしまい、ほとんど残さなかったそうです。
全国各地のストリップ劇場の再生を手がけてもいましたが、時代の波には抗えず、地方の温泉地から劇場経営は立ち行かなくなり、次第に都会でも難しくなっていきました。
「性」に触れる方法の多様化、というのもあり、あえて劇場に足を運ぶ、という人も減ってきたのでしょう。
むしろ、「人間とのふれあいを求める高齢者」が、ストリップ劇場を支えるようになったのです。
引退後の瀧口さんを著者が取材した際には、生活保護で独りぐらしをしていた、とのことでした。
ただ、そんな状況でも卑屈になることはなく、お金が無いなりに淡々と生活を続けていたのです。
こういう人がいたから、破廉恥で残酷な日本の風俗産業が、海外から人を連れてきてまで盛んになってしまったのか、それとも、他に生きる術を知らない人たちに稼ぐ術を提供してあげていたのか?
瀧口さんの数奇な人生とともに、日本の高度成長期からバブル経済の時代までの「裏側」について考えさせられる、そんな伝記だと思います。
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