琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】だからヤクザを辞められない―裏社会メルトダウン―


Kindle版もあります。

暴排で食えない暴力団を辞めた人の再就職率は3%。望んでも即カタギ、といかない現実とは?
今やヤクザは食えない稼業だ。最大時約18万4000人を数えた暴力団構成員は、現在約2万8000人。しかし離脱届を出しても法律の縛りは厳しく、就職もままならない。反社排除に過敏な世間に受け入れられない彼らの行き着く先は? それでも辞めた者、辞めきれず元に戻った者、暴力団を嫌い半グレになった者……彼らの肉声に「暴力団博士」が耳を傾けながら、裏社会の危うい橋を渡り続ける男たちの実情に迫る。


 暴力団排除条例の効果や社会からの厳しい視線、そして、暴力団の厳しいタテ社会で「修業」することを受け入れる若者が少なくなったことにより、暴力団員の数はどんどん減ってきているのです。
 その一方で、「半グレ」と呼ばれる「反社会的勢力」は勢いを増しているようにもみえます。


fujipon.hatenadiary.com


 暴力団員が減る、というのは、良いことだと僕は思っていますし、辞めたい、辞められる人は、どんどん辞めていただきたいのですが、「暴力団員、あるいは元暴力団員に厳しく対応する」ことは、彼らの「社会復帰」にとって、必ずしもプラスにはなっていないのです。

 実は2010年以降、当時、調査に協力してくれた元暴力団員や現役の組員の方から、「何か、暮らしにくい世の中になった」という話を聞くようになりました。次第に、彼らの伴侶である姐さんたちも、我が子への影響など不安を訴え始めました。
 こうした兆候は、暴力団排除条例が福岡県で最初に施行され、全国の自治体が、それに倣って暴排強化を始めた時期以降に見聞きするようになりました。以降、暴力団離脱者が右肩上がりに増えていきました。
 2014年に再び調査地点に戻ってみて筆者が体感したのは、10年前とは異なる、カオス化した裏社会事情でした。この時は、助成金をもらっての暴力団離脱実態研究のため、「なぜ暴力団を離脱するのか」、「暴力団からの離脱に障害はないのか」という実態を、離脱者や親分から聴取することが目的でした。本書の前半に、この時の調査データも盛り込んでいます。
 調査地点で毎日のようにアングラ社会を徘徊しておりますと、本職(暴力団)とは違う、どうも得体の知れない集団が目に付きました。ちょうど、溝口敦氏が、関東連合OBや怒羅権(ドラゴン)OBという暴走族上がりのギャングもどき──「半グレ」について紹介し、その名称が一般に浸透したころです。
 一方、暴排条例なるものを調べていくうちに、暴力団に対する取締りの強化だけではなく、暴力団を離脱した者に対しても、厳しい社会権の制約があることが分かりました。それが、「元暴5年条項」です。
 人間が生きるためには衣食住を確保しなければならず、それには日々働く必要があります。しかし、この条項によって銀行口座が作れない、家も借りられないと来ては、憲法で保障された健康で文化的な生活を営むことができません。暴排機運の高まりでシノギが激減するなか、暴力団は残るも地獄、辞めるも地獄という状況が進行しており、彼らの間には右往左往せざるを得ない混乱が生じていました。


 いまの世の中で、銀行口座をつくれなければ、かなり困りますよね。
 前歴を隠して普通の仕事をしようとしても、そこの給料が銀行振り込みであれば、「口座を持っていない(つくれない)理由」を問われることになるでしょうし、住所がなければ、仕事を探すことも難しい。
 暴力団構成員に対する「犯罪の抑止」のため、あるいは「圧力」や「ペナルティ」としてつくられたルールが、「暴力団を辞めたあと」にも適用され、「普通の生活」を行うための高いハードルになっているのです。
 ちなみに、携帯電話も契約できない、と、この本には書かれていました。
 今の世の中で、携帯、スマホが持てないというのは、それだけで社会生活において、大きなハンデを背負うことになってしまいます。

 就職率約3%……この数字は、2010年度から18年度にかけて、暴力団離脱者のうち就職できた人の割合です。ボ応力団排除条例(以下、暴排条例)が全国で施行された2011年度からの2年間は、1%未満でしたから、若干、改善しつつありますが、依然として低い数字であることは否めません。


(中略)

 暴排条例が施行されてから9年間、全国の警察や暴力追放運動推進センターの支援による暴力団離脱者は合計5453人、そのうち就職者は約3%のわずか165人なのです。残りの約97%の離脱者はどこに行ったのでしょうか。さらにいうと、ここで就職したとされる離脱者のうち、その職場に定着して、継続的に仕事をしている人はどれほどいるのでしょうか。残念ながら、追跡調査のデータはありません。


 暴力団を辞めた人のうち、3%しか「就職」できていないとしたら、残りの97%は、どうやって食べていっているのだろうか……
 みんな生活保護を受けて、穏やかに暮らしている……というわけではなさそうです。
 「暴力団を辞めろ」という圧力の強さに比べて、辞めたあとの受け皿は、あまりにも小さい。
 そして、「元暴力団員」であることによる社会的な制約は大きい。
 「元暴力団員だということがわかって、就職先でイジメられた」なんていう話を読むと、「そんな人にキツく当たるなんて、怖くないのかなあ」と思うのですが、そういう事例は少なくないみたいです。
 むしろ、「元暴力団員なので、問題を起こすと不利になる」ということで、相手から挑発されたり、劣悪な条件で働かされたり、ということもあるのです。

 とはいっても、自分から反社会的な行為に身を染めて、暴力団に入ったのだから、それなりの「報い」を受けるのは、仕方がないのでは?

 僕もそう思っていたんですよ。実際、「そういう人たち」に絡まれて、怖い思いをしたことは何度もありますし。

 ただ、実際に若い頃、非行にはしっていたことがある、という著者が、彼らの中に入っていって聞いた話を読むと、「同じ環境にいたら、周りがヤクザばかりだったら、僕だって、生きるためにそうなってしまったのではないか」と考えずにはいられませんでした。


 著者は、元暴力団員Eさんの話を紹介しています。

「おれの家は、親父が指名手配犯やったんですわ。せやから、あちこち逃げ回る生活でしたんや。おれが小学校に上がる前の年に関東で死にまして、オカンはおれを連れて郷里に帰ってきたんです。そんとき、オカンの腹には妹がいてましたんや。
 帰郷して直ぐに、親父の友人いうんがなんや世話焼くいうて、家に出入りし、そんうちにオカンと内縁関係になりました。おれとしてはどうということは無かったんですが、ある事件──いうてもしょうもないことですわ──を切っ掛けに、虐待が始まったとですね。
 あるとき、まあ、おれが小学校1年生位やったと思います。そのオッちゃんから『おまえ、そないにアイスばっか食いよったら腹下すで』と言われたんで、『関係ないわ』というような返事しよったん覚えています。そんなことでも、まあ、殴る、蹴るの虐待の毎日ですわ。こっちは子どもですやん、手向かいできんかったですわ。それからですよ、路上出たんは。


(中略)


 そないな生活のなか、初めて遊園地や動物園に連れて行ってくれたんは、近所のアニキでした。この人は、筋金入りの不良やってましたんやが、おれら子どもには優しかったんですわ。アニキに連れて行ってもらった動物園、生まれて初めて見るトラやキリン……今でも鮮明に覚えてますわ。いい時間やった。
 おれもこのアニキのようになっちゃる思うて、不良続けよったある日、まあ、いつものように年少(少年院)から帰って、妹の違う小学校に行ったんですわ。すると、担任が『おまえの妹はここにおらんで』言うて、児相に行け言うとですわ。『はて、おれのようなワルとは違って、妹は大人しいんやがな』て不審に思いましたよ。で、児相に行って、『おい、兄ちゃんや、帰ったで』言うても、妹はカーテンの陰に隠れよるんですわ。『なんやね、おまえ』言うて、カーテンめくったら、ショックで言葉なかったですね。小学校5年生の妹の腹が大きいやないですか。『なんや、おまえ、どないしたんや』と問い詰めますと、妹は、泣きながら『聞かんといて』言うてました。聞かんわけにいきませんがな、とうとう口割らせましてん。まあ、あの時が、最初に人に殺意抱いた瞬間やったですわ。家に入り込んで、おれを虐待したオッちゃんにやられた言いよりますねん。もう、アタマの中、真っ白ですわ。出刃持って家に帰りましたら、ケツまくって逃げた後やったです。あの時、もし、そのオッちゃんが家におったら、間違いなく殺人がおれの前歴に刻まれとった思います。
 ヤクザになったんは、それから数年してからです。


 「厳しい環境に生まれても、努力して全うに生きたり、社会的に成功している人もいる」のは確かです。
 でも、自分の力でできることが限られている子ども時代から、こんな環境に置かれていたら、「選択肢」そのものが狭くなってしまうのは事実でしょう。


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 八百長事件を起こした元ボートレーサーの西川氏も、暴力団組長の子として育てられていました。

 こういう「反社会的勢力の再生産」を、どうすれば良いのだろうか?
 「元暴力団員の更生」というのは、こういう負の連鎖を断ち切るための柱になると思います。

 ところが、実際には、ヤクザという組織を抜けてしまったがゆえに、組織のルールに縛られず、カネのためならなんでもするようになったり、社会復帰がうまくいかずに元の暴力団員に戻ったり、という事例が多いのです。
 
 そして、暴力団という組織に縛られるのを嫌う若者たちは、暴力団としての盃を受けることなく、「半グレ」として一般社会に溶け込んで犯罪的な行為を行うようにもなっています。

 正直、「だから、昔のヤクザのほうがよかった」とか「暴力団は社会の必要悪」だとかは、僕には思えないんですよ。実際に怖い思いをした(している)人たちは、みんなそう考えているはず。
 いくら相手が「かわいそうな子供時代」を送っていたとしても、殴られれば痛いし、お金を取られてはたまらない。
 でも、辞めた人たちの「受け皿」をちゃんとつくっていくことは、長い目でみれば、負の連鎖を断ち切り、安全な社会をつくることにもつながるのです。


暴力団(新潮新書)

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