ルポ ひきこもり未満: レールから外れた人たち (集英社新書)
- 作者: 池上正樹
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2018/09/14
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
ルポ ひきこもり未満 レールから外れた人たち (集英社新書)
- 作者: 池上正樹
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2018/10/19
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内容(「BOOK」データベースより)
派遣業務の雇い止め、両親の多重債務、高学歴が仇となった就職活動、親の支配欲…。年齢も立場も、きっかけも様々な彼らに共通するのは、社会から隔絶されて行き場を失ってしまった現状である。たまたま不幸だったから?性格がそうさせているから?否。決して他人事ではない「社会的孤立者」たちの状況を、寄り添いながら詳細にリポート。現代社会の宿痾を暴き出し、解決の道筋を探る。制度と人間関係のはざまで苦しむ彼らの切実な声に、私たちはどう向き合うことができるのか…。
ひきこもり、といえば、学生の登校拒否を思い浮かべてしまうのですが、実際は、「若者のひきこもり」だけではないのです。
何かのきっかけでコミュニティとのつながりをいったん手放すと、”社会のレール”といわれている関係性が、すべて切れてしまう。
自分の意図を超えて社会とのつながりが途絶えても、若年者と高齢者に対しては手厚い支援策が施されてきた。しかし、中高年層は「働くことが前提の世代」として制度設計されてきたため、支援が必要というイメージがなく、セーフティーネットの谷間に置かれている。そのため、支援の対象から年齢や状態などで線引きされ、せっかくたどり着いた相談窓口で「排除」されてきたことが、本人や家族を潜在化させ、「ひきこもり」状態などの長期高齢化の要因にもなっていた。
2017年5月に公表された佐賀県の調査では、40代以上が全体の引きこもり層の7割を超えた。同年6〜11月の京都府の調査では、「ひきこもり」状態にある人の4割以上が、行政や医療機関、NPOなどの支援の状況は「不明」と回答するなど、全国的に見ても、ひきこもり層の半数近くは、家族以外、社会の誰ともつながっていないのが、筆者の元に日々寄せられてくるメールを通じての実感だ。
いったん、「レール」から転落することで、生きる意欲を醸成する上で欠かせない社会とのつながりを”遮断”されていく風景は、確実に広がっている。
子どもや高齢者の「ひきこもり」に関しては、ある意味「わかりやすい」ところがあって、まだ、セーフティネットも充実しているのです。
それに比べて、「いい歳の大人のひきこもり」に対しては、「本人のキャラクターの問題」とか「真剣に働こうと思えば、仕事はあるのに」というような目で見られがちなんですよね。
率直に言うと、僕はこの本に出てくる「中高年ひきこもり」に対して、「なんか小難しい理屈ばっかりこねて、著者が手を差し伸べても細かいことにこだわって拒絶したり、『自分は他の連中とは違う』とプライドが高すぎたりして、めんどくさい人が多いなあ」と思わずにはいられませんでした。
メールのやりとりだけでもくたびれそうな相手に対して、地道にフォローを続けている著者は、本当にすごい。
以前、ある公的な機関で働いている知合いが、疲れた顔でぼやいていたんですよね。
「支援を受ける側が、みんな、『フランダースの犬』のネロみたいな人ってわけじゃないですからね……」
「お金」のためなら、したたかさやズルさを全開にする、あるいは、やる気の欠片もないけれど、理屈だけは完璧、という人たちも少なからずいて、支援する側も消耗していく。
いまの世の中では、誰でも「ひきこもる側」になる可能性があると思う一方で、根本的に生きづらい人というのも存在しているのではないか、と思えてきます。
著者は、「ひきこもり支援」のゴールが、「就労」や「結婚」とされてきたことに疑念を呈しています。
周囲を気遣って無理して就労しても、雇用の現場が安心できず、自分が壊されると感じれば、自己防衛のために再びひきこもらざるを得なくなる。また、結婚していても、子どもがいても、父親でも母親でも「誰ともつながりがない」「つらい」などとひきこもる人たちがいる。
多くの親は、そうしたひきこもる家族が同居していることを知られると恥ずかしいからと、その存在を地域で隠し、相談することもできない。また、ひきこもる当事者も、自分の存在を恥ずかしがる家族の気持ちを知って、ますます身動きがとれなくなる。
こんな理不尽な目に遭っているのは自分ひとりだけだと思い、絶望と諦めの中で生きる意意志が薄れていき、情報もなければ、家族に万一のことがあったとき、残された当事者は、生きていけなくなる。
社会との関係性が途絶え、誰にも相談することができず、諦めの境地に至った人たちからの悲鳴のようなメールが、最近ますます増える傾向にある。
この本を読むと、中高年層のひきこもりというのは、子どもの頃から引きこもっていて、というケースだけではないことがわかります。
若い頃はアルバイトや派遣で収入を得て、あまり他者と深く接することもなく生活していた人が、加齢とともに仕事がなくなり、親も健康を害して、どんどん孤立を深めていく、というのがひとつの典型なのです。
今は、人とあまり深く付き合わなくても生きていきやすい世の中ではあるのですが、そのことが、孤立を深めやすい要因にもなっています。
だからといって、「若い頃から、みんなでベッタリ家族のように付き合いましょう!」なんてわけにはいかないし、それはそれでキツいよなあ。
石田さんという41歳男性のこんな話が紹介されています。
石田さんは、コンビニでバイトしている間も、たまに求人誌を見ていた。一年後、就職試験を受けてみたい会社が見つかった。希望していたプログラムの仕事とは違うものの、全国にチェーン展開しているパソコン店の販売員だった。一年間何もせず、新しいことも覚えられなかったので、それも仕方ないと思った。
ちょうどウィンドウズ95が流行り出した頃で、自分の知識が役に立った。とりあえず持っていなければ……という動機で購入しにくるお客もたくさんいた。ただ、接客業はあまり楽しいものではなかった。
同世代の同僚にも何人か、コンピュータ系の専門学校の卒業生がいて、人間関係は苦にならなかった。交通費込みの月収は、手取り15万円あまり。二年ほど在職した。
「幹部候補のスーパー店長が来る」
石田さんが店を辞めたのは、そんな噂が職場に流れたのがきっかけだった。
「数字を絶対に上げなければいけないというノルマを背負っているため、自分とは絶対に合わない上司だろう」
そう直感した石田さんは、お互いが嫌な思いをする前に、赴任して来る直前、辞表を出した。勢いだけで稼働している会社は怖いと思ったという。
懸念したとおり、その後、テンポは、別の系列会社に吸収された。その上司が社内で生き残れたかどうかはわからない。
石田さんは、パソコン店を辞めた後、四〜五年くらい自宅にいた。精神的に参っていたわけではない。ただ、どうしても働く気になれなかった。
「人間関係が面倒くさかったのかもしれません」
母親は、特に何も言わなかった。生活費も、地代も山間部だけにそれほど高くない。父が残してくれた遺産で細々と食べていけた。
僕はこれを読んで、考え込んでしまいました。
その「幹部候補生のスーパー店長」が赴任してきて、実際に酷い目にあったのなら、辞めるのも理解できるのですが、石田さんは、実際に接する前に「自分とは絶対に合わない」と判断して、仕事を辞めてしまっています。もちろん、それまでの会社での居心地も良くはなかったのでしょうけど、ひきこもってしまう人には、悪い方向への想像力が豊かすぎる、という傾向があるように感じます。それも「成功体験が乏しいから」なのかもしれませんが、先回りして避けてばかりでは、成功するわけもなく、悪循環になってしまいます。
でも、こういう人に「それでも無理に働け」というのが正しいのかどうか、というのも悩ましいですよね。
正直、僕も人間関係はめんどくさいし、そんな中でなんとかギリギリのところで社会生活をおくっているので、これが「有り」なら、「それでは『ギリギリ踏みとどまっている』人は割に合わないのではないか」とか、つい考えてしまうのです。
他者から受け入れられない、と本人は言っているけれど、経緯をみると、「むしろ、この人が他者を受け入れていないのではないか。あまりにも自分の正しさにこだわりすぎて、頑なになっているのではないか」と感じる事例もあります。
ただ、この本に出てくる人たちも、みんな「一目でわかるような病気」ではないだけに、周囲から理解されない、という悩みを抱えているのも事実なんですよね。
「家族の病気や浪費、十分な教育を受けさせてもらえなかった」という理由で、ひきこもりに至ってしまった人もいるのです。
櫻井さんは、筆者の元に初めて連絡してきた頃、仕事を探していた。地方の実家にひきこもっていた櫻井さんが、実家から離れた都市部へ面接に行くと、アパートがないことを理由に採用を断わられ、仕事が決まっていないことを理由に、アパート契約を断わられていた。では、いったいどうすればいいのか。親元を離れて自立し、ひきこもる現状を打開したいと考えている人たちの多くは、この負のスパイラルのような社会の障壁に、行く手を阻まれる。
そんな櫻井さんは、就職活動中、ハローワークに置いてあったチラシを見て、厚労省の事業である地域若者サポートステーションのことを知った。当時、死のうかなと思っていた櫻井さんは、「働きたいけど、どうしたらよいのかわからない……」といった働くことに悩みを抱えている若者の就労を支援しているというサポステに、後悔したくないから頼ってみようと考えた。
ところが、このサポステで、スタッフからまず勧められたのは、半年以内に就労を強要されるという結論ありきのメニューだった。櫻井さんがそれを断ると、次にスタッフから、連携している民間の支援施設の寮に入って生活保護を申請し、集団生活してくれれば、小遣いをあげると言われた公的支援機関と思っていた無料の窓口相談で勧められたのが、いわゆる”貧困ビジネス”だったのだ。
世の中には、社会でうまく生きられない人を食い物にする「ビジネス」もたくさん存在しています。
弱り目に祟り目、というか、こんな目にばっかり遭わされては、働きたいという意欲も無くなっていきますよね……
個々の事例を読むと、レールを外れた人たちへの支援というのは、そんなに簡単なものではない、きれいごとだけではうまくいかない、ということが伝わってきます。
どうすれば良いのか途方に暮れてしまう、そもそも、僕自身もそこに積極的に関わる余裕もないし……というのが正直な感想なんですよね。
- 作者: 辻村深月
- 出版社/メーカー: ポプラ社
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- 作者: 山田ルイ53世
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
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学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで (文春e-book)
- 作者: 岡田麿里
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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