琥珀色の戯言

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【読書感想】業界破壊企業~第二のGAFAを狙う革新者たち~ ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

「デス・バイ・アマゾン」という言葉がある。アマゾンの業務拡大によって、業績の悪化が見込まれる企業や業界のことだ。同じような現象がさまざまな業界で起きている。ウーバー、エアビーアンドビーなどが有名なところだ。業界秩序や商習慣にとらわれず、斬新なビジネスモデルで驚くべきスピードで顧客を獲得している企業、すなわち「業界破壊企業」である。22の業界破壊企業をピックアップして徹底解説。


 GAFAGoogleAppleFacebookAmazon)の次に「来る」のはどんな企業なのか?
 あらためて考えてみると、現在の世界の「支配者」とさえ目されるGAFAも、スタートした時点では、検索や学生向けのSNSや本の通販サイトでしかなかったのです。
 ということは、これからの世界を変える企業が、いま、「まだ生まれたての小さな会社」である可能性もあるんですよね。
 この新書では、起業の経験豊富な著者が、いま、注目されている新興企業を紹介しています。
 

 じつは今、世界では独自のアイデアやテクノロジーで、業界の勢力図を一変させているイノベーション企業が続々と登場しています。
 よく知られたところでいえばAirbnb(エアビーアンドビー)。
 サンフランシスコで生まれたこのビジネスは、「安くてユニークな旅行体験をしたい」という人と、「空いた空間で手軽に稼ぎたい」という人をマッチングするというアイデアひとつで、世界中に広がるビッグビジネスへと成長しました。
 発想自体は単純なのですが、これこそイノベーション
 革新的なアイデアやビジネスモデルを知ると、それだけでワクワクしますし、楽しくなります。
 そんなユニークなアイデアで急成長を遂げているイノベーション企業の世界ランキングを、アメリNBC系のニュース専用放送局CNBCが毎年発表しています。
 その名も、「ディスラプター50」。


 著者は、この「ディスラプター50」のなかで、とくにユニークで革新的だと考えた20社を紹介しています。

「世界のいろんなイノベーション企業を、一気に、ざっくりと知りたい」という人におすすめ、ということです。
 経済誌の紹介コメントでは簡単すぎるし、その企業の創業者の伝記を読むのは時間がかかりすぎる。
 まさに、「いまの革新的な企業をざっくりと知ることができる」本だと思います。


 この本で紹介されている、さまざまな企業をみていくと、その着眼点に感心せずにはいられないものが多いのです。

 たとえば「TransferWise(トランスファーワイズ)」という企業は、海外送金の手数料を激安にするというサービスを提供しています。
 仮に、自分の娘がアメリカに留学していて、その子に送金する場合、けっこうな送金手数料が発生します。たとえば、10万円を送金する場合、娘さんが受け取れる金額は、大手銀行やPayPalで約9万3000円、ネット銀行で約9万7000円、それがTransferWiseでは約9万9000円ほど(2020年3月時点)。手数料の比較で6倍もの差があり、娘さんの手元に少しでも多く送りたいユーザーには大いに喜ばれるわけです。
 ここで考えなければならないのは、「なぜ、そんなことができるのか」「どこでマネタイズしているのか」です。ここにビジネスの工夫やアイデアがあります。
「TransferWise」の場合はどうなのか。


 ここまで読んで、「TransferWise」がこんなに手数料を安くできる理由がわかった人は、起業の才能がありそうです。
 僕は「どうやってコストダウンをしているのだろう?ネット銀行よりも安くすることって、可能なのだろうか?」とずっと考えていて、答えは出ませんでした。

 種明かしすると、同社は「実際には海外にお金を送っていない」のです。
 アイデアは単純で、「日本からアメリカへお金を送りたい人」がいれば「アメリカから日本に送りたい人」もいる。双方をうまく調整すれば、実際に国境を越えて送金しなくても、データ上のやりとりだけで「送りたい相手」にお金を渡すことができる。これをしくみ化したわけです。
 つまり、ユーザーは意識していないのですが、じつはこのサービスは「日本からアメリカに送金したい人」と「アメリカから日本に送金したい人」をマッチングするプラットフォームの側面を持っています。したがって、ユーザーが増えるほど価値が高まる「ネットワーク効果」によって一人勝ち状態になっていくという、じつにうまく設計されたサービスなのです。


 言われてみれば「なるほど」という感じなのですが、これを最初に思いついて、実際にシステムをつくった人はすごいですよね。初期は、マッチングがうまくいかずにどちらかの国からの持ち出しが多くなるリスクも高いでしょうし。


 また、「Teach For America」という教育NPO法人についても紹介されています。
 このTeach For Americaでは、(アメリカ)国内の一流大学を卒業した優秀な若者たちを、教員免許の有無にかかわらず、大学卒業後の2年間、教育機会に恵まれない地域の学校に、非常勤講師として赴任させるというプログラムを実施しているのです。

 大学を卒業した人を2年間限定で派遣するというアイデアも受け入れられ、1990年の第1回募集のときから、定員500人のところに約2000人の応募がありました。同時に企業や資産家などから総額250万ドルの寄付を集めることにも成功。事業は動き始めます。
 回を重ねるごとに、プロジェクトの評判は高まり、今では多くの有名企業がTeach For Americaと提携するようになっています。グーグルやGE、JPモルガンなどの企業も、内定している学生が2年間このプログラムに参加することを認めています。
 さらに、海外にもこの活動は伝播していって、イギリスのTeach First、日本のTeach For Japan、インドのTeach For Indiaなど50ヵ国以上に広がり、今では「Teach For All」という世界的ネットワークになっています。
 Teach For Americaの活動が大きなお金を生むかといえば、決してそんなことはないでしょう。
 しかし、2010年には、全米の文科系学生の就職先ランキングでアップルやグーグルを抑え、見事1位を獲得しています。多くの学生たちがTeach For Americaの志に共感し、「ここで一緒に働きたい」という思いを持っているのです。


 起業というと「株式上場して大金持ちに!」みたいなイメージを持ってしまうのですが、最近の起業のなかには、こういう「お金にならないけれど世の中の役に立つ仕事を、キャリアアップのためや善意でやりたい人とうまくマッチングすることによって、成り立たせる」というものもあるのです。
 「2年間」と期限が決まっていることや、Googleなどの大企業が、この活動に参加することを積極的に評価している、というのも大きいのでしょう。
 アメリカという国には、うんざりするほど拝金的なところと、驚くほど理想主義的なところが混在していますよね。

 こうしてみてくと、起業の明るい面ばかりが書かれているように思われるかもしれませんが、著者は、「WeWork事件」にについても言及しています。
 目次をみて、もしWeWorkを好意的に紹介していたら、この本は眉唾物だな、と危惧していたのですが、さすがにそんなことはありませんでした。
 WeWorkは、2010年創業のシェアオフィス、シェアワーキングスペースを提供する会社だったのですが、ナスダックへの上場を前にして、その「実態」が問題視されることになりました。

 2019年8月、風向きが変わる出来事が起こります。
 WeWorkが新たな資金調達を見据え、アメリカ・ナスダック上場のために証券登録届出書いわゆる「フォームS-1」を証券取引委員会に提出したのですが、その資料にあった数字を見て、世界中が驚愕することになりました。
 赤字額が予想をはるかに超えており、かつ不透明な会計処理が数多く見つかったからです。
 2018年の赤字額は約2000億円。2019年に関しても、上半期だけで約980億円の純損失が計上されていることが明らかになったのです。
 WeWorkは事業を拡大するなかで、極めて大きな赤字を垂れ流していたのです。イギリスの経済誌「ファイナンシャル・タイムズ」は「彼らは時間あたり、約3000万円を失い続けている」と断罪しました。
 この事実の発覚により、当時、約5兆円といわれていたWeWorkの時価総額は、約1兆円に暴落。予定していた新規株式公開(IPO)もあっさり延期になってしまいました。
 赤字の額があまりに巨大すぎるからです。
 この段階で、ソフトバンクグループとソフトバンク・ビジョン・ファンドはすでに93億ドル(約1兆円)をWeWorkに出資しており、この状況には頭を抱えたはずですが、追加の出資と融資を含め最大95億ドル(約1兆円)を投じることを決定しました。
 日本円で約2兆円──。WeWorkは、孫氏の後ろ盾によってなんとか生き延びている状態です。


 お金というのはあるところにはあるもので、最近は、まだ生まれてまもない、収益化もなされていない段階から、投資家たちが新興企業に多額のお金を融資していることが多いのです。
 それらの新興企業のなかには、計画や理念は立派だけれど、中身はスカスカのハリボテみたいな会社もあります。
 でも、このWeWorkのように、あまりにも投資額が大きくなると、潰すに潰せない、という事態に陥って、ヘタすれば共倒れになってしまいます。

 自分が投資するかどうかはさておき、「今、こういうことをはじめている人たちがいる」というのは、読み物としても純粋に面白いし、新しいことをはじめようとする人にはヒントになると思います。


起業を考えたら必ず読む本

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