琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

ニコニコ動画が未来をつくる ドワンゴ物語 ☆☆☆☆☆


内容紹介
2006年12月12日。その変な名前のサービスは、静かに発進した。

コンセプトはーとにかく誰も見たことのないネットのサービスだ!廃人・奇人・そして天才が集まったネット企業の創世記。ニコニコ動画で世の中を騒がせる会社・ドワンゴは、こうして大きくなった!

いまネット界でもっとも注目される動画コミュニティサービス「ニコニコ動画」。それは、廃人と奇人と天才によって生み出された、と言ったらどう思われるでしょうか。
ネットワーク対戦ゲームでマニアをうならせ、超高音質のケータイ着メロで一世を風靡し、ニコニコ動画で新しい文化を創造しつつある会社・ドワンゴは、実はひと癖もふた癖もある、そして才能は誰にも負けない人々が集まってできた会社なのです。
彼らはいかにして、次から次へと迫りくる危機を乗り越えてきたのか? 本書はドワンゴの設立前夜からニコニコ動画リリースまでを背景に、そこに集まった異能たちが織りなす群像劇を丹念に描いた、ビジネスマン必読のドキュメンタリーです。

この新書、書店で見かけて、「まあ、軽く読めてネタにできそうな本だな」ということで購入したのですが、予想外の「当たり」でした。
ちょうど主要登場人物が僕と同世代ということもあり、「パソコン少年」だった僕にとっては、「自分があの頃、目指していた未来」と「目指さなくて良かった未来」を同時に体験させてくれるような本だったんですよね、これ。

僕にとって、「ドワンゴ」という会社は、「『ニコニコ動画』の運営会社」という認識しかなくて、その『ニコニコ動画』も、2ちゃんねるひろゆきさんが主で、ドワンゴはそのアイディアに相乗りした、というくらいのイメージしかなかったのですけど、この本を読むと、「なぜ、ドワンゴという会社が、『ニコニコ動画』にたどり着いたのか?」ということが、すごくよくわかるのです。
タイトルからすると、『ニコニコ動画』の話は、最後のほうにちょっとだけじゃないか!と感じる読者もいるんじゃないかと思うのですが、小〜中学校時代に「マイコン」「ファミコン」にはじめて触れて、「ゲームデザイナーになるのが夢」だった最初の世代のひとりとしては、この「ドワンゴ」が、森栄樹さんをはじめとするパソコン通信で伝説の無料ゲームを生み出したBio_100%というグループのメンバーと、ソフトバンクに敗れた流通会社・ソフトウェアジャパン出身で、ネットワークゲームマニアの川上量生さんを中心として生まれたというのは、なんだかとてもドラマチックな化学反応のような気がしますし、その「創成期」の話が面白い。
この「ドワンゴ」という会社は、1996年に創立され、そこから、オンラインゲームの通信対戦システムを皮切りに、コンピューター業界の流行を追って、さまざまな仕事に手を出していきます。
でもほんと、ある意味これほど「いきあたりばったりの会社」が、ここまで大きくなって、続いてきたのは奇跡だとしか思えない。

オンラインゲームの猛者である一方で、社会人としての常識が決定的に欠けていた「廃人ゲーマー」たちを採用したドワンゴは、こんな「賭け」に打って出ます。

 プログラミングのまったくの初心者だった中野は、3ヶ月ほど必死で勉強してどうにかこうにかCを書けるようにはなっていた。アメリカのIVSが開発していたDWANGOの通信対戦システムをあれこれ自分なりに書き換えて、ビルドして動かすぐらいのことはできるようになってきていたのである。
 その様子を見て川上は、
「おー、できるじゃん」
 とうれしそうな声をあげた。そうしてさっそく、セガの仕事を回してきた。前にも書いたように、レースゲーム「SEGA RALLY 2」がドリームキャスト用のセガの製品として初めて通信対戦機能を内蔵することになり、この通信モジュールの開発を受注してきたのだ。
「できるんじゃない」
 と川上に気軽に言われて、中野は卒倒しそうになった。だっていままでやっていたのは、しょせんは海外のプログラマーが書いたソースを読み取って、改造していただけだ。自分でゼロから長いコードを書いたことさえない。
 それなのに川上は「大丈夫、大丈夫」と軽い調子で言うのだった。
 結局 SEGA RALLY 2の通信クライアントを佐藤が担当し、サーバは中野が1人で作ることになった。
 こんなノリで素人の廃人チームに仕事をさせて、それで最終的に何とかなったのは奇跡としか言いようがない。

 このくだりなど、読んでいて、なんて無謀な会社なんだ……と呆れるばかり。それでも、ギリギリのところで「何とかなった」のは、この会社の運なのかもしれませんが……
 当時はこういう話が、けっして珍しくはなかったのかもしれませんが、SEGAもそんな杜撰な発注をしてたからプレステに負けたんじゃないか?

 その後、受託開発の繰り返しに行き詰まりを感じたドワンゴは、ドコモのiモードに、新たな「鉱脈」を発見することになります。「釣りゲーム」の予想以上の成功、超大作ネットワークRPG「サムライロマネスク」の挫折、そして、「着メロ」への進出……
 この「着メロ」への進出が、ドワンゴの運命を変えていくのです。「絶対音感」を持つ大学生を駆使しての「音質重視」の戦略、GACKTなどの有名人をCMに起用しての広告戦略の成功による、右肩上がりの大躍進(この新書のなかで紹介されている、川上さんとGACKTさんの最初の「会食」の話には、すごくインパクトがありました。180ページから掲載されていますので、興味をもたれた方はぜひ読んでみてください)。
 ところが、「着うた」「モナゲータウン」の隆盛により、ドワンゴの「いろメロミックス」は、大きな転機を迎えることになります。2006年には、決算でも10億円近くの赤字に転落。

 そんななかで打ち出された新しいサービスのひとつが、『ニコニコ動画』だったのです。
 いまのところ、『ニコニコ動画』そのものは、「収益を生み出している」とは言い難い状態で、サーバー代の負担を考えると、今後も黒字化できるかどうかは、かなり微妙な情勢のようです。
 ドワンゴというのは、「新しいものを作らずには生きていけない人たちが集った会社」であり、『ニコニコ動画』は、そんな人たちが生き残るために生み出した「商品」でもあります。
 そう考えると、『ニコニコ動画』も、ドワンゴも、まだまだ未完成・発展途上なのかもしれません。その一方で、この会社、明日倒産しても驚けないなあ、とも思うのです。

 最近のこういう「起業物語」は、当事者によって書かれることが多いのですが、この『ニコニコ動画が未来をつくる』は、佐々木俊尚さんというコンピューター業界を熟知した第三者によって冷静かつ客観的にまとめられながらも、それでもなお、黎明期のIT企業の「熱さ」が伝わってくる良書だと思います。
 この本のオビには、こんな言葉が書かれています。

 廃人と奇人と天才が集ったネット界でいちばん面白い会社の物語

 看板に偽りなし。ビジネス書というより、「IT業界に憧れていた、いまは普通のサラリーマンになってしまった大人たちへ」オススメしたい「夢の物語」。


 そうそう、この本に興味をもたれた方は、↓もぜひ。こちらも名著!僕の感想はこちらです。

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