琥珀色の戯言

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We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力 ☆☆☆☆


We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力 (講談社+α新書)

We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力 (講談社+α新書)

内容説明
 現在コミック全15巻累計500万部のベストセラーで、2012年春の映画(出演:小栗旬岡田将生)公開が決まっている『宇宙兄弟』の関連企画です。
 ムック『We are 宇宙兄弟』(現在、vol.4まで刊行済み)の超貴重な宇宙飛行士9人と彼らを宙へ送り出すキーマン3人の本音トークをまとめて読めるのは本書だけ。もちろん、宇宙から帰還したばかりの古川聡宇宙飛行士も登場。
 JAXAの全面協力のもと、圧倒的な情報量と独創性で、ほかに並ぶもののないオリジナリティ高い新書として刊行します。
 日本中に宇宙ブームがやってくる2012年、子どもから大人まで、身近に宇宙の神秘を感じられる1冊です。


 講談社の『モーニング』で2008年から連載されてるマンガ『宇宙兄弟』。
 この作品が今春に映画も公開されるということで、最近ちょっと「宇宙」が話題になることが増えてきたような気がします。
 ちなみに、アニメ化もされているようですよ。


 僕は、堀江元社長が、逮捕される前に「次は宇宙ビジネス」なんて話をしていたときには、「いまさら『宇宙』かよ、なんか古典的なドリームおやじだなあ」などと内心毒づいていたのです。
 ところが、NHKの番組で宇宙飛行士たちの訓練風景が放映されたり、この『宇宙兄弟』が話題になることによって、あらためて宇宙に興味を持つ人が増えてきたようです。
 これまでは、「宇宙」そのものへの興味だったものが、「人類最高のエリート」である、宇宙飛行士とは、どんな人たちなのだろう、ということにもスポットライトがあてられるようにもなってきました。
 この本、『宇宙兄弟』関連の企画モノなのですが、フリーライターの門倉紫麻さんが、宇宙飛行士9人と、彼らとともに、ミッションをこなしている地上管制官、宇宙服の開発者、広報担当者各1人、合計12人にインタビューしています。


 それぞれ、ひとりあたり1冊の新書くらいは書けそうな人たちではあるのですが、180数ページに12人のインタビューが詰め込んであるので、やや駆け足な印象はあります。
 しかしながら、それだけに、彼らの「個性」と「宇宙飛行士として選ばれるのは、どういう人なのか」が比較しやすく、よくまとまっているように思います。
 彼らはつねに「大局をみること」「つねにこの先起こることを予見して行動すること」そして、「どんな困難な状況でも、粘り強く対応し、あきらめないこと」を自分に課している人たちです。
 でも、その一方で、人間としての悩みもあるし、壁にあたることもある。仲間の突然の死に直面することもあります。
 

 この新書のなかでは、それぞれの宇宙飛行士に、「影響を受けた本や映画は?」などの質問をしているのですが、30代〜40代の宇宙飛行士たちが『宇宙からの帰還』とか『ライトスタッフ』『アポロ13』など(なかには『オネアミスの翼』や『銀河鉄道999』を挙げている人もいます)の話をしているのを読むと、なんだかちょっと嬉しくもなるんですよね。ああ、僕と同じような世界をみてきた人たちが、いま、宇宙に行っているんだなあ、って。


 僕はこれまで、それなりの数の「宇宙飛行士モノ」を読んできたのですが、宇宙飛行士に必要な資質というのは、天才的な頭脳や運動能力ではなくて(とはいっても、大卒以上で研究職の経験がある人などの「募集規定」はあります)、ストレスがかかる状況でも、他者とうまくやっていくこととか、困難な状況でもパニックに陥らずに冷静な判断ができること、なんですよ。
 そして、常に向上心を持ち続けること。


 日本人初の「母親宇宙飛行士」となった山崎直子さんは、こんな話をされています。
 民間企業で宇宙開発を手掛けてきた山崎さんの夫は、妻の宇宙への夢をサポートすることを選び、家族でアメリカに移住します。
 ところが、山崎さんが宇宙飛行士に選ばれたのが1999年で、宇宙に行くことができたのは、2010年。
 これは、スペースシャトルの事故の影響などもあり、山崎さんに限ったことではありませんでした。
 山崎さんは、宇宙に行くまでを振り返って「宇宙に行くのは怖くないですか?と聞かれますが、このまま宇宙に行けないことのほうが怖かった」と述懐されています。
 厳しい訓練を受けながらの10年、か……


 慣れない海外での生活で、夫ともケンカが絶えず、離婚調停にまでいったこともあるそうです。
 そんな話、僕はいままで全く知りませんでした。

 山崎さんが大きな苦労を背負ってしまったことの背景には、女性であることが関係しているように思える。女性が第一線で働くことは、やはりまだ難しいのだろうか――。
 そのことに対する山崎さんの指摘は、斬新で鋭かった。
「女の人が働くということ自体は、大変なことも多いとはいえ、だいぶ受け入れられていると思います。働いたり、育児のための休んだり、女性の選択肢は広がっている。
 でも男性には、選択肢がない。男の人は、働くことしかできないんです。人生の一時期、家庭に入るという選択はできない。家庭に入った女性が社会復帰するのも大変ですが、男性のほうがずっと大変なんですよね。男の人に選択肢がない分、女の人にしわよせがきているんだと思います。
 一時家庭に入ってもいいと思っている男性は、本当は結構いるはずです。でも、周りからの目も気になるし、復帰も難しい。”イクメン”が増えているといっても、育児休暇を取れる人は全体の1%くらいというのが現実です。
 私の夫が退職した時も、次の道を探すのがとても難しかった。女の人には再チャレンジ支援とか制度的な支援があるけれど、男の人にはありません。男の人の人生も、もっと流動的になれたらいいのに、と思います。そうすることが、女性が働きやすい社会になる近道だと思う」

「女性宇宙飛行士の夫」というのも、それはそれでつらいものだろうな、と思うんですよ。
宇宙飛行士が「スター」であるだけに。
この山崎さんの指摘、「そんなこと言ったって、女性の『再チャレンジ』は難しい」という人が多いのは百も承知だけれども、「男の人生も、もっと流動的になれたらいいのに」というのは、言われてみれば、たしかにそうだよなあ、と考えずにはいられませんでした。


 2011年に宇宙飛行士に認定された油井さんは、訓練経験のなかで学んだ「リーダーシップ」について、こう話しています。

「アメリカで訓練を受けるうちに、気づいたことがあって。結局リーダーシップとフォロワーシップは表裏一体なんですよね。NASAの宇宙飛行士たちは、リーダーシップとフォロワーシップについて、どの人もすごくわかっていて、誰かを助けるということをごく自然にやる。
 自分が日ごろからリーダーをサポートしていれば、サポートしやすいのはどんなリーダーかがわかってくるし、逆にリーダーをしていれば、どういうところをサポートされるとリーダーは助かるのかがわかってくる――。
 これからも、リーダーシップについては勉強していきたいと思っています」

 「リーダーシップ」=「天性の人を動かす才能や能力」みたいなイメージを僕は持っていたのですが、「リーダーにならなくても、リーダーシップは学べる」し、「リーダーの経験が、フォロワーとしてのプラスにもなる」のです。
 もちろん、ある程度先天的にそういう能力を持っている人もいるのかもしれませんが、「リーダー」っていうのは、そんなに「みんなとかけ離れた存在」ではないのですね。
 むしろ、日常こそが学習の場なのだなあ。

、  
 来年、2013年に日本人初の国際宇宙ステーション(ISS)のコマンダー(船長)となることが決まっている若田光一さんの、こんな話も印象的でした。

 「過去3回の宇宙飛行でもそうでしたが、本番でのパフォーマンスは、かなりシビアに評価されています。いくら訓練でうまくやれても本番で力を発揮できなければ意味がない。ISS運用ブランチチーフの時も、NEEMOのコマンダーの時も、全てが理想通りというわけにはいきませんでしたが、とにかくミスを少なくし、成果を出せるよう努力しました。結果が全てですから」
 ISSのコマンダーに選ばれたのは、「結果」を出してきたから――。
 ほかの宇宙飛行士やJAXAの職員への取材時に、若田さんの「人柄がすばらしい」という話はこれまでにもよく聞いていた。その人間性ゆえにリーダーに選ばれたのではないか、と私はどこかで思っていた。実際、そういう面はもちろんあるだろう、だが若田さん自身はずっとシビアに、冷静に、分析をしていた。宇宙飛行士には結果、それが全てだ。
 厳しい試験をくぐり抜けて宇宙飛行士になっても、何度宇宙へ行っても、ある意味ずっと試験を受けているようなものだ。最高のパフォーマンスを要求され続けるのが宇宙飛行士であり、そこで常に結果を出し続ける人がコマンダーに選ばれるのだ。

「人間性」はもちろん大切なのだけれども、若田さんは自分の「人間性」に甘える人ではないのです。
でも、「常に結果を出し続ける」というのは、なんて過酷な人生なのだろう。


この本の「おわりに」で、インタビュアーの門倉さんは、こう書いておられます。

 ライターとして、いろいろな人に会って話を聞く仕事をしているうち(私はふだん、主に漫画家や小説家に取材しています)、こんなふうに感じるようになりました。
 本当に「すごい人」というのは、必要以上に人を緊張させたりしない。「彼に比べて私はだめだ」と人を落ち込ませるようなこともしない。「すごい人がいるんだなあ」だけで終わらせたりもしない。
「自分にも、何かできるかもしれない」と、人を行動に向かわせるのが、本当にすごい人なのではないか――。
 本書に登場する12人の方たちは、まさにそんな人たちでした。

この言葉が、まさに「腑に落ちる」インタビュー集だと思います。
「宇宙なんて、自分には関係ない」っていう大人たちにこそ、読んでみていただきたい一冊です。

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