琥珀色の戯言

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【読書感想】ベストセラーで読み解く現代アメリカ ☆☆☆☆

ベストセラーで読み解く現代アメリカ

ベストセラーで読み解く現代アメリカ

  • 作者:渡辺 由佳里
  • 発売日: 2020/02/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
アメリカで話題になっている本はなんですか?」は、人気レビュアーである著者がビジネスリーダーたちから常に聞かれる質問だ。本の良し悪しというより、話題となる本は、アメリカ人の興味を如実に映す。数々のトランプ本、ミシェル・オバマやヒラリーの回想録、ITビリオネアが抱く宇宙への夢、黒人や先住民から見える別の国アメリカ、ジェンダーの語られ方…「ニューズウィーク日本版オフィシャルサイト」の連載を中心に、人気レビュアーが厳選して伝えるアメリカのいま。


 アメリカ人は、どんな本を読んでいるのか?
 この本では、アメリカで生活している作家・書評家の著者が、現地でいま読まれている、さまざまなジャンルの本を、「この本が読まれている背景」を含めてレビューしているのです。
 紹介されているのは、政治、社会情勢に関するものをはじめ、自伝やSF、エンターテインメント小説など多岐にわたるのですが、「アメリカでベストセラーになっているのに、日本では翻訳されていない本」もあって、「なぜこの本は日本語に翻訳されなかったのか?」なんてことも想像してしまうのです。

 人はなぜ本を読むのか、と考えると、娯楽や気分転換のため、というのとともに、「新しい知識を身につけたい」とか、「自分の人生を変える参考にしたい」というのがあると思うのです。

 どの国でもそうなのだが、特にG7などの「主要国」に入らないヨーロッパや南米の国々のビジネスリーダーたちから「アメリカで話題になっている本」について尋ねられる。現代のアメリカを知るために役立つのが、アメリカ人読んでいる本を知ることだからだ。また、それについて私たちがどう考えているのかいも、彼らは興味深く耳を傾ける。
 
 アメリカでベストセラーになる本が優れているとは限らない。だが、多くの国民が何に関心を寄せているのかを垣間見ることができる。だからこそ、本の内容だけでなく、ベストセラーという現象の背後にある社会情勢を考えることが重要なのだ。世界中のいろいろな業界で働く人たちと私が交わすのは、そういう会話だ。話題になるのはノンフィクションだけではない。小説も、時には児童書も話題になる。


 日本は出版文化がかなり発達していて、世界中のベストセラーを日本語で読むことができます。
 それだけに、かえって「ガラパゴス化」してしまい、他国で何が読まれているか、について気にしていないところもありそうな気がします。
 
 この本を読んでいると、時期的なものもあって、「トランプ大統領の告発本」みたいなものが多くて、著者自身も、トランプ大統領のさまざまな不祥事に対して、厳しい言葉を浴びせています。
 書かれていることは本当に最もなのだけれど、結局のところ、「アメリカで生活している日本人は、民主党支持の『リベラル』に属する人が多い」というのも思い知らされるのです。
 それでも、アメリカ人の半分は、トランプ大統領を支持しているのはなぜなのか?

 読んでいると、「リベラル」「フェミニズム」などのポリティカルコレクトネスで、どんどん追い詰められていくような気もするんですよ。
 
 そして、「夫婦」とか「家族のパートナーシップ」についても考えさせられます。
 仕事と家庭生活のすべてにおいて「完璧」であることが果たして可能なのか?


 オバマ前大統領の妻であるミシェル・オバマさんの自伝『Becoming』の項より。

 バラクは最初から富にはまったく興味がなく、コミュニティの立て直しや貧困層の救済など社会的にインパクトがあることに駆り立てられていた。経済的に独立し、働く女性として大きな達成をすることを夢見ていたミシェルにとって、バラクと一緒になることは、相当大きな決意だったに違いない。なにせ、バラクはお金儲けには興味ないが、自分がやりたいことに100%の時間と労力を費やすのだ。そういう人と結婚して子どもを育てるためには、妻のミシェルが家事育児と経済面で大部分の責任を負わねばならない。この本で明かされている葛藤はたぶん一部でしかないが、それだけでもミシェルが相当悩んだことは想像できる。
 40歳のミシェルが、シカゴ大学メディカルセンター病院のエグゼクティブ・ディレクターという重職をこなしながら、昼食の休みの間に5歳の娘が土曜日に招かれている誕生パーティーのプレゼントを買い、見当たらなくなった靴下の替えを買い、娘たちが学校に持っていくランチ用のジュースやアップルソースを買い、その合間にお昼ごはんのテイクアウトを車の中で食べる場面がある。そうしながら、「私はご飯を食べている、(家族は)まだみんな生きてる。見て、この管理の腕前を!」と小さな達成を心中で自画自賛する描写は、同じような体験をした母親にとって拍手したくなるほど見事な表現だ。
 また、仕事優先のバラクのために夕食を待っている家族が疲れ果ててしまうとことなどにも、男性パートナーと同様の学歴や能力がありながらもサポート役にまわる女性の苦悩が感じられる。葛藤しながらも、ミシェルは社会を変える情熱を抱く夫を愛するがゆえに自分のニーズを後回しにするのだ。


 家族にこんな思いをさせる、オバマさんは酷い男、なのだろうか?
 「一生懸命仕事をして、社会に貢献したい」という二人が「夫婦」として「正しい家庭生活」を送るというのは、基本的に無理な気がしてくるのです。
 

「政治の世界に興味はない」と何度も繰り返すミシェルは、バラクのために上院議員の妻になり、大統領夫人になった。そして、この本でそれを率直に書いている。
 アメリカの女性が惹かれるのは、このミシェルなのだと私は思う。


 こう著者は述べています。
 僕は「これは『美談』なのだろうか?それとも、『夫のために自分を犠牲にした女性の物語』なのだろうか?」と考えずにはいられませんでした。
 「社会のために身を粉にしてはたらく人生」と「円満な家庭生活」を両立するのは、あまりにもハードルが高すぎて、それを実現しなければならないという強迫観念みたいなものが、多くの人を追い詰めているのではないか、と僕は感じています。
 だから、家庭を犠牲にしてもいい、とか、何があっても定時に帰宅すべきだ、と言うつもりはないのですが。
 
 基本的には「本のレビュー」なのですが、著者がアメリカで生活していて、見たこと、聞いたこと、会った人たちについての話には、非常に興味深いものが多いのです。


『The Space Barons』のレビューより。

 後に世界中で同世代の人に出会って知ったのは、1969年にアポロの月面着陸を体験した世界中の子どもたちが、私と同じような夢を抱いていたということだ。ところが、半世紀経った現在人類は月にすら戻っていない。それも、私の世代の宇宙ファンに共通する嘆きだ。
 あの頃にはSFの世界でしか実現できなかったよなインターネットやスマートフォンを一般人が毎日利用しているというのに、有人ミッションはアポロ計画に続くアメリカの宇宙ステーション「スカイラブ」から現在の国際宇宙ステーションまで地球の軌道上にとどまっている。
 技術は発達しているはずなのに、なぜなのか?
 2011年、ケープ・カナベラルで開催された宇宙飛行士奨学金のチャリティイベントで3日間宇宙飛行士らと一緒に過ごした。朝食で私の隣に「ここ、空いてますか?」と座ったベテラン宇宙飛行士らと一緒に過ごした。朝食で私の隣に「ここ、空いてますか?と座ったベテラン宇宙飛行士と雑談しているとき、この素朴な質問をしてみた。彼は結婚式場にも使われる大ホールの天井を指さしてこう言った。

「天井の電灯が全部ついているでしょう? これがアポロ計画までのNASAの資金だったんです。現在のNASAは、僕たちが座っているテーブルの上だけがついている状態。天井全部の電灯をつけることができたら、火星にもすぐ行けます。全然不可能ではありません」


 つまり、お金の問題なのだ。
 有人ミッションには膨大な資金がかかる。税金を使うNASAの場合には、国民の支持がなければそれだけの予算を確保することはできない。アポロ11号が月面着陸を果たす3年前、NASAは国家予算の4.4%という巨額を受け取っていた。当時のアメリカにとって、ソビエト連邦より先に「アメリカ人」を月に降り立たせるのは国を挙げてのミッションだった。宇宙飛行士はアメリカ国民にとってスーパーヒーローであり、国民は膨大な税金を宇宙計画につぎ込むことを許したのだ。
 NASAによる有人ミッションが消滅の方向に切り替わったのは、皮肉なことにアポロ11号が月面着陸を果たした日だった。
 宇宙開発競争のライバルだったソビエト連邦に大勝利したことにアメリカ国民は歓喜し、満足した。だが、それと同時に月や宇宙探索への情熱も失った。月に行けないソビエト連邦などはもはやライバルではない。ライバルを失ったことでアメリカ国民は宇宙計画への興味を失い、NASAの予算は削減され、当初予定されていたアポロ18、19、20号はキャンセルされた。NASAに与えられる資金は急速に減り、1990年代にはすでに国家予算の0.5%以下になっていた。


 結局のところ、アメリカの「宇宙への情熱」は、人類の未来をつくりだすことではなく、「ソ連に勝つ」ことが目的だったのかもしれません。
 その一方で、現在は、Amazonジェフ・ベゾスやテスラのイーロン・マスク、日本では堀江貴文さんといった実業家たちが、宇宙に興味を示し、多額の投資をしているのです。
 しかし、ここまでアメリカが「宇宙」に興味を失っているとは……


 「本のレビュー集」ではありますが、一冊読み終えると「今のアメリカ、今の世界」が少し見えてくるのです。
 見えてくるものが、自分にとって「受け容れやすい」ものではないとしても。


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