1つ3000円のガトーショコラが飛ぶように売れるワケ 4倍値上げしても売れる仕組みの作り方 (SB新書)
- 作者: 氏家健治
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2014/01/17
- メディア: 新書
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内容(「BOOK」データベースより)
扱う商品は「ガトーショコラ」1つだけ。値段もサイズもお店も、たった1つしかない。街の小さなお店でありながら、驚異のビジネスモデルでスイーツをトップブランドに育てた。もちろん味はダントツで、テレビや雑誌で何度も紹介されるくらいだが、その成功の背景には、弱者が強者を凌駕する計算され尽くした“一点集中マーケティング”があった。紆余曲折の末にたどり着いた、どの業界にも通じる儲けのカラクリを隠すことなく公開する。
「1つ3000円のガトーショコラ」か……
僕は甘いものに目がない、というほどの「スイーツ好き」ではないので、あんまり参考にはならないかもしれませんが、このタイトルをみて「3000円は高いな」とは思いました。
3000円あれば、普通のランチなら3〜4日分、ちょっと贅沢な感じの夕食にも行けそうです。
でもまあ、「一度くらいは、話の種に食べてみてもいいかな」と思うくらいの価格でもありますね。
私は東京の新宿御苑前にある「ケンズカフェ東京」という店のオーナーシェフをしています。
商品は「ガトーショコラ」1つだけです。
ガトーショコラとは、フランス生まれのチョコレートケーキのこと。私一人で毎日手作りしており、来店でのテイクアウトと全国配送のみを取り扱っています。
ガトーショコラは1本250gで、値段は3000円。片手に収まるくらいの小ぶりなスイーツが3000円ということで、はじめてのお客様は驚かれます。
それでも月間3000本以上を販売し、1000万円以上を売り上げる月もあります。作っているのは私一人だけ、店のスタッフも二人だけですから、この販売量(額)の多さにも驚かれるのではないでしょうか。
(中略)
そもそも私はパティシエ(菓子職人)ではありません。もともとはイタリアン・レストランのシェフ(料理人)であり、パティシエとしてスイーツだけ作るなどということを嫌っていたくらいです。
しかし、ディナーのコース料理のデザートとしてお出ししたガトーショコラが評判を呼び、2008年からガトーショコラ1本に絞った店に路線を変更しました。
そのガトーショコラも、当初は1本500gと現在の2倍の容量、でも値段は半額以下の1300円で販売していました。その後、容量を現在と同じ250gにして、値段は1500円、2000円、そして最終的には3000円と上げてきました。
当初より容量は半分、値段は2倍以上と、実質的には4倍以上の値上げをしたことになりますが、3000円にしてから本格的にブレイクして日本中のお客様から高い評価をいただくようになりました。
この本には、イタリアン・レストランのオーナーシェフだった著者が、紆余曲折の末、「ガトーショコラ1本」に商品を絞り、人気店として成功していったプロセスが明かされています。
「良いものを安く売る」のが商売の基本なのだと、僕はずっと思ってきましたし(実際に商売をやったことはないんですが)、それが「王道」なのは間違いないでしょう。
ところが、この新書を読んでいると、著者は、この「日本一のガトーショコラ」が話題になる兆しがみられるたびに「量を減らし」たり、「値上げ」していくのです。
3000円に値上げしたのは、『とんねるずのみなさんのおかげです』の「新・食わず嫌い王決定戦」のなかで、藤井フミヤさんがこのガトーショコラを紹介することになった直前だったのだとか。
もちろん、単に価格を上げるだけではなくて、材料をより良質なものに変更したり、包装をお洒落なものにしたりと、「高品質化+見てわかるような高級感の演出」を伴っての「値上げ」なのですが。
「せっかくブレイクしかけているのに、そんなことをしたら、これまでのファンにそっぽを向かれてしまうのではないか?」
僕はそう思いました。
店のスタッフや周囲の人も、同じように考え、著者を諌めたそうです。
ところが、著者は「これまでのファンが離れていくかもしれない」ことを覚悟で、あえて値上げに踏み切ったのです。
ブレイクの予感がすると同時に、不安も頭をもたげてきました。
「このまま1500円で売っていたら、いつか立ち行かなくなる。評判のラーメン店が潰れるパターンに陥るかもしれないぞ」と思ったのです。
美味しいと評判で行列ができるラーメン店が潰れることがあります。
たとえば、780円で美味しいと行列ができるラーメン店が潰れることがあります。
たとえば、780円で美味しいと評判になったラーメン店があるとします。そして、なにかのきっかけでブレイク。お客さんが殺到して行列ができる人気店になったとしましょう。
行列してまで食べたいという通をうならせるラーメンを作り続けるためには、それなりのコストがかかります。お客様が飽きないように味をどんどん進化させる必要もありますし、味を真似するライバルが出てきてもそれを一蹴するような仕掛けも準備しなくてはなりません。いずれにしても確立した味と評判を守るためにはお金がかかるのです。
ところが、ブレイクしてからだと値上げはしづらいもの。最高のラーメンを提供するために850円に値上げしても「ちょっと売れるようになったら、儲けに走るのか」とあらぬ誤解を受けないとも限らないのです。
かといってコストを抑えるために材料の質を落とすと味が落ち、ファンになってくれたお客様が離れていきます。「あの店は昔は美味しかったけど、最近は味が落ちたからダメだね」という話、よく耳にしますよね。
こうして人気が出たばっかりに潰れてしまう飲食店は少なくないのです。
なるほど、「人気が出たばっかりに潰れてしまう」ということもあるのか……
そう言われてみると、たしかに「数年前はあんなに人気があった店なのに、いつの間にか潰れてる……」ということって、けっこうあるような気がします。
一度人気が出てしまえば、同じものを継続してつくっていくだけで良いのだから、楽勝なんじゃない?と飲食業の経験がない僕は考えてしまうのですが、実際は「ずっと同じことをしていても、売り上げは右肩下がりになってくる」し、たくさんのお客さんをさばいていくには人手も設備投資も必要。ライバル店は追いつこうとしてくるし、評判の店となれば、お客さんの評価も辛めになる。
本当に、客商売というのは難しい。
著者は「安定した味のガトーショコラを提供する」一方で、常にお客さんの味への感想などをSNSでチェックし、微妙に材料の配合を調節し続けているそうです。
「よほどチョコレートに精通した人じゃないとわからないような違い」なのだそうですが、それでも、アップデートを欠かさない。
それができるのも「ガトーショコラ1本に商品を絞っているから」なのです。
この3000円という価格でもこれだけ売れているというのは、なんといっても、著者のガトーショコラが美味しいから、に尽きるとは思うんですけどね。
価格というのは不思議なもので、逆に「3000円もするから、贈答品としてのランクが上がる」とか「そんなに高いということは、よっぽど美味しいに違いない」なんて、かえって魅力が増すところもあります。
もちろん、大手お菓子メーカーの商品のように「大衆をターゲットにした大量消費」を目指すのであれば、やっぱり3000円では無理でしょうけど。
ちなみに、この『ケンズカフェ東京』のガトーショコラのレシピは、クックパッドで公開されているそうです。
人気店の、ひとつだけの商品の作り方を公開しても、大丈夫なのだろうか?と思うのですが、著者はこう説明しています。
私としては、レシピを公開して真似されるのは折り込み済みです。実際、私のレシピをそっくり真似て作っているスイーツ店が数軒あるようです。なかにはケンズカフェ東京の公式サイトのテキストまで流用している強者もいます。
けれど、レシピを真似しても、それを1本3000円では売りづらく、ブランド力では先行する本家にかないません。かといってガトーショコラで3000円以上の値段にするとマーケットはかなり小さくなりますから、先行していてブランド力も高いケンズカフェ東京に太刀打ちできないのが実情です。
またレシピを真似しても、1品主義というビジネスモデルを真似しないとコストが高くつきます。レシピを真似しようにも同じレベルの材料は使いたくても使えないのも実情。ブランド力でも使っている材料でもかなわないとしたら、本家を超えられる要素はありません。そんな計算もあって、堂々とレシピを公開しているわけです。
私がレシピを公開しているのは、もっと前向きな理由からです。私の店をガトーショコラの存在をもっと広く知ってもらいたいのです。
この本のタイトルだけ見て、「裏技」的なものを期待してしまっていたのですが、読んでみると「すごく美味しいものを、雰囲気づくりも含めてアピールし、買いたい、買えるお客さんに届けていく」という、ものすごく「まっとうな仕事術」が書かれていました。
これを読んで「自分も真似してみよう」という覚悟はなかなか難しいとは思うのですが、「高くても、売れるものは、ちゃんと売れる」というのは、商売をやっている人は知っておいて損はないのかもしれませんね。
「安いだけでは差別化できなくなってきている」のも事実ですし。