琥珀色の戯言

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【読書感想】看板のない居酒屋 ☆☆☆


看板のない居酒屋

看板のない居酒屋

内容紹介
静岡の大人気居酒屋「岡むら」流、 「幸せ」で「喜びにあふれた」働き方!


岡村佳明、50歳。
35歳まで夢もなくチャランポランに遊び回っていた男が一念発起!
今では、「宣伝しない、看板出さない、入り口がわからない」居酒屋として若者に大人気!
そんな大繁盛居酒屋を経営する
岡村佳明さんの「商売繁盛・人育ての極意」がついに一冊の本になりました。


岡村佳明さんの商売の先生は
六十年前、藤枝にカウンター五席だけの小さな小さな居酒屋をつくった
おかあさんでした。


★人は自分のためにがんばれないことも
誰かのためだったら、がんばれる!


★人が輝けば、店は輝く!
★お客さんに喜んでもらえれば、店は輝く!


★本気で何かを始めたり、やり直したりするのは
年齢も性別も関係ない!
★生きてる限り本気になるチャンスはある!


人とつながり、喜んでもらう「働き方」がここにあります。


感謝、感謝、感謝!か……
僕はこの本、正直あんまり好きになれないなあ、と思いながら読んでいました。
ヤンキー精神+自己啓発のコラボレーション、って感じだし。
『水は答えを知っている』を本当に信じているような記述もありましたし。
「繁盛店をつくるための、具体的なポイント」などはほとんど書かれておらず、著者の自叙伝と「感謝の心」についての話が延々と続き、「これを信じられる人なら、役に立つのかもしれないけどなあ……」なんて考えたりもして。


60年前、『岡むら』誕生のきっかけについて、著者はこう紹介しています。

 戦争が終わって復興の兆しが見えはじめた昭和26年、おやじは22歳、おふくろは19歳。結婚間もない新婚夫婦でした。
 おやじはお気に入りの居酒屋があって、毎晩のように通っていました。一軒家で、一階部分がカウンター5席の、ごく小さな店でした。
 ある日、その居酒屋店主から「岡村さん、この家を安く買ってくれないか」と頼まれたのです。気に入って通っていたくらいですから、おやじも喜んでその家を買わせてもらいました。
 引っ越し早々のある日のこと、おやじは五升の酒を買い込んで自転車で運ぶと、あっけにとられているおふくろに言いました。
「今日からこれを売れ!」
 居酒屋をやれ、というのです。
 生真面目で水商売とは縁のないおふくろは泣いていやがりましたが。が、おやじは一度言い出したら聞き入れません。
 そんなわけで、カウンター5席の小さな居酒屋「岡むら」が誕生しました。
 まだ私がこの世に誕生する前の出来事です。


 最初は泣いて嫌がっていたというお母さんの頑張りで、『岡むら』は地元の繁盛店になりました。
 お父さんは店主におさまったわけではなく、妻に店を切り盛りさせて自分はサラリーマンを続け、仕事を終えたらお客さんと一緒に店で酒を飲んでいたそうですが。
 著者は、ずっとお父さんに反発していたとのことですが、そりゃそうだろうな……と。
 その著者も、若い頃は、かなり「やんちゃ」をしていて、昼間に趣味のサーフィンをずっと続けていくために家業を手伝っている、という時期が長かったのだとか。
 それが、こうしてカリスマ店主になってしまうのですから、人生というのは、わからないものです。


 僕はこの本を読みながら「いかにも自己啓発書的な『感謝の心』のインフレ」や、「人と人とのつながり」「やりがい」重視の方針に反発しまくっていたのですけど、その一方で、「日本には、こういう『自己啓発的価値観』や『ヤンキー的なつながり』を求めている人のほうが多いのかもしれないな」とも思ったのです。
 ネットでは、『水は答えを知っている』は、詳細に検証され、「似非科学」だと批判されることが多いのですが、世の中には、「そんなふうに殺伐と検証しないで、そのまま受け入れればいいのに」と考えている人が、けっこういるんですよね、きっと。


 「接客業」というのは「合理性」だけではうまくいかない。
 『俺のイタリアン』のように、「回転率を極限まで上げて、質の良い料理を安く提供する」ことによって、薄利多売で大きな売り上げを得ているレストランがあります。
 それはひとつの「サービス」なのだけれども、お客にとっては「おいしくて安いけれど、そんなにのんびりはできない」のも事実。
 そういう「合理的な計算で成り立っている店」が繁盛している一方で、「人情」を求めている人たちもたくさんいるのです。

 今思えば、商売にとって大切なものは、すべておふくろから教わっていたんだと思います。その一つ一つが、今の私の宝であり、商売のやり方やプライドにつながってきています。
 そんなおふくろの教えの中で、とにかく衝撃的であり、「なるほど!」と深く考えさせられ、その後の私の指針になった言葉があります。


「あんたが好かれる人間になったら、周りの人は寄ってきてくれるんだよ」


 おふくろはこう言うのです。
「お店は家だ。好きな人の家に遊びに行くのが居酒屋だよ。嫌いな人の家には遊びに行きたくないよね? 好かれる人間になってあんたに会いたいと遊びに来てくれる人がお客さんなんんだよ。せっかく来てくれたんだからおいしいものを出そう。楽しんでもらおう、驚かせようと思うんだよ。お客さんに来てもらうために、おいしいものをつくるのでも、楽しいことをするのでも、驚かせるのでもないんだよ。この違いが大切なんだよ」

 水商売の素人だった著者のお母様は、こうして、店を60年間も切り盛りしてきたのです。
 「精神論だけじゃダメだろ」とか「自己啓発っぽい」と反発するところもあるのだけれども、ひとりのお客としては「客は数字だ」と考えている合理的な経営者の店よりも、このお母様の店に行きたいと思うのです。
 あんまり、「お客に馴れ馴れしくしてくる店」は、ちょっと苦手でもあるんですけどね。


 また、著者は「一括仕入れをしない理由」を、次のように述べています。

 飲食業界に限らず、スケールメリットが重視される最近では、一括仕入れをするケースが多くなっています。確かにそうすればコストダウンできます。
 でもそれでは、地元の商店会に喜んでもらったり、元気になってはもらえませんよね。その地域ならではの農作物や海産物などを使わない、買わないということは、地域貢献ができていないと思います。
 閉店する商店が相次いで、ついにはシャッター通りと化した商店街は全国各地にあります。そうして街に人がいなくなってしまえば、居酒屋にも誰も来てくれなくなります。店を出した街には元気になってもらいたい。その街に元気になってもらうためにも、その街で仕入れをしたいと思うのです。
 仕入れ先の商店主さんともいい関係ができると、人のご縁も広がっていきます。いつも仕入れさせてもらっている商店の人が店に来てくれたり、家賃や友人を連れてきてくれたりするようになります。


 こういうやり方では、大手居酒屋チェーン店に「安さ」では太刀打ちできないはずです。
 にもかかわらず、『岡むら』は、静岡県内に7店を構え、いずれも人気店となっています。
 「合理的な経営」だけが正解ではない、というか、むしろ、「効率化」がどんどん先鋭化していく反動として、「泥くさい感じすら覚える、地域の人に愛される商売」が、見直されてきているのかもしれません。
 

 この本のなかには、著者が影響を受けてきたというたくさんの人たりのエピソードが紹介されているのですが、その中に、こんな新庄剛志選手のエピソードがありました。

 米メジャーリーグサンフランシスコ・ジャイアンツで活躍していた頃、タクシーをよく利用する新庄選手には、必ずしていたある習慣があったそうです。
 それは、運転手さんに5倍のチップを払うこと。ここまでなら「そうか」と思いますよね。でも、次の一言が、必ず添えられていたのです。


「これから来る日本人をよろしくね」


 まったくシビレます。私はこの話を知って鳥肌が立ちました。
 新庄選手のカッコよさは、こうした「黒子力」があるからだとあらためて思います。


 新庄選手は「天性のスーパースター」だと僕は思っているのですが、新庄選手が来たことによって、日本ハムファイターズがあんなに強くなった原因には、こういう「気くばりの力」があったのだなあ、と。
 自分だけのことしか考えていない選手であれば、たぶん、あそこまでチーム全体を強くすることはできなかったのでしょう。
 それにしても、「どこの誰かもわからない人のために、何かをしておく」というのは、なかなかできることではありませんよね。
 

 僕にとっては、「ついていけない自己啓発書」だと思うところも少なくなかったのですが、こういうやりかたを知っておくことはけっこう大事だし、日本人の半分くらい(当社推定)は「こういうのが好き」なのではないかという気がするんですよね。
 そんな自己啓発書なんて、読んでもしょうがないだろ……と思った人ほど、一度くらいはこういうのを、なるべく素直な気持ちにで読んでみるべきなのかもしれません。

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