琥珀色の戯言

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【読書感想】我が逃走 ☆☆☆☆☆


我が逃走

我が逃走


Kindle版もあります。

我が逃走

我が逃走

内容(「BOOK」データベースより)
ひきこもりから瞬く間に「IT長者」へ―驚愕のロングセラー『こんな僕でも社長になれた』を凌ぐ、その後の転落・逃亡・孤立を巡るどん底物語と、都知事選の裏側、そして“いま”を克明に描く衝撃作、満を持して刊行!!


 家入一真さんといえば、「ひきこもりから社長になった人」であるのと同時に、「studygift事件」や「都知事選出馬」など、話題に事欠かない人、というイメージがあります。
 実業家というよりは、「スキャンダルでしかテレビに出ない芸能人」みたいな感じ。
 この本には、その家入さんが、創業した『paperboy&co.』を上場させ、『IT長者』になってからの「転落の軌跡」が鮮やかに描かれています。
 「趣味悪いよなあ」と自分でも思うのだけれど、栄光の階段を駆け上がっていった人が、そこから転げ落ちていく姿を見るのって、なんでこんなに「面白い」のだろうか。
 大王製紙の会長だった井川意高さんの『熔ける』を彷彿とさせる「転落劇」でした。

 福岡で興した<ペパボ>とともに東京に出てきて、会社はみるみるうちに大きくなり、晴れて上場。僕は創業からわずか数年で上場企業の社長になった。その後、個人でカフェやギャラリーをスタートさせ、順風満帆だった毎日。だけど、あっという間に僕を取り巻く状況は変わった。
 いろんなものを手に入れて、そして失った。
 数十億の残高はゼロになった。
 友人だったはずの人たちは口々にこう言い始めた。


「家入はもう終わった」


 もう誰のことも信じられなかった。頭にきたし、それ以上に悲しかった。でも、何も言えなかった。自暴自棄になり、僕は逃げた。逃げて、逃げて、逃げ続けた。
 そして僕はゴボウになった。


 家入りさんは、何か「新しいことをはじめる」ことへの情熱と勘は、ものすごく優れているのだけれども、「ダメな人」「成功に安住できない人」なんですよ基本的に。
 でも、周囲からみれば「放っておけない人」「助けてあげたくなる人」なんだと思う。
 そして、すごく「やさしい人」。
 ただ、この本を読んでいると、家入さんの「やさしさ」というのは、「別れが見えている恋人に、言い出せなくて結論をズルズル引き延ばしてしまう、そんなやさしさ」のようにも感じます。
 同じ「IT起業家」でも、ワーカホリックな藤田晋さんや政治力が高い三木谷浩史さんのような人が勝ち残り、家入さんが転落していくというのは、当たり前といえば当たり前なのだけれど、結局世の中はそういうものなのだよな、と思うと、ちょっと寂しくもあります。
 

 家入さんは、ずっと「自分の居場所」をつくろうとしつづけてきたのです。
 外野からみると、「立派な巣」ができているように見えた。
 にもかかわらず、家入さんは、また新しい「居場所」をつくりたくなって、本当につくってしまう。
 家入さんは『paperboy&co.』の現場を離れたあと、飲食店経営に進出し、高コストすぎる放漫経営をはじめながら、さらに「新しい店」「新しいイベント」をどんどんやっていくのです。
 「ずっと何もしないで生活できるくらいの資産」も、あっという間に減っていきました。

 内山さんはわかっていたのだ。僕が自信満々で進めている飲食事業は、客観的な数字から見ると不安材料があり余るほどあるということを。事業単体では赤字で、僕の個人資金を使いながら運営している現状を、彼女は誰よりも問題視し、折を見ては忠告してくれていた。
「新しい店舗は、まだ出すべきではないと思います」
「スタッフの人件費が高すぎます。売り上げの見込みが立ってから再設定すべきです」
 だけど、何を言われても僕には響かなかった。
「大丈夫、大丈夫。お金ならいっぱいあるんだから」
 そう、お金ならある。僕の揺るぎない自信は、その大きな一点にあった。
「いくらあっても、このペースでいけば、いつかなくなります。それにそのお金はあくまで社長個人のものであって、会社でつくったお金ではないんですよ」
「ハハハ、内山さんは心配性だなあ」
 内山さんの真摯な言葉も、僕は母親の小言ぐらいに受け流していた。

 海の家の報告書を見て、僕は自分の目を疑った。
 パーティカンパニーが施工費として捻出したのは1500万円。季節営業の海の家としてはあり得ない金額だった。それに加えて、オープン前の試算表に書かれていた想定利益は2000万円だったが、実際の利益は恐ろしいことに、わずか180万円に満たなかった。ケタが違うどころではない。これでは、もはや子供の遊びというしかない。
 報告書の中では、もともと想定していたイベントがキャンセルになったことが原因として挙げられていたが、それも600万円程度の見込みに過ぎなかった。何をもとにして想定利益2000万円をはじき出したのか。最後には「すべて自分の責任です」というケンさんのひとことが添えられていた。

 僕は言わなかったけれど、アキコさんの計算にはひとつ、抜けているところがあった。僕の途方もない夜遊び代だ。当時、僕は一日で300万円ほど使うこともざらだった。使い方は簡単で、数人で高級バーかなんかに入って、
「この店で一番高いお酒ください」
 と言うだけ。あとはカラオケをするなり、女の子を呼ぶなり、どんちゃん騒ぎで朝まで過ごす。人をどんどん呼んで、呼ばれた人も別の知り合いを呼ぶ。そうやって、まったく知らない人が飲んだ高いシャンパンなりの代金を、僕が全部支払った。
 一日三百万円使う夜遊びを、仮に30日間続けたら9000万円になる。それに、自宅に帰りづらくなっていた僕はほかにもいくつか部屋を借りていて、住居費だけで月に300万円くらいかかっていた。お金がなくなった要因のひとつは僕の無駄使いなのだ。誰かを疑うまでもない。


 『グレート・ギャツビー』かよ!
 こんなエピソードが、この本には、赤裸々に書かれているのです。
 家入さん、人生まだ半分くらい残っているのに、こんなこと本に書いてみんなに告白して、本当に良いのですか……

 
 これは「過去に起こったことが書かれている本」であり、「すでに取り返しがつかないこと」だと読んでいる僕はわかっているはずなのに、「家入さん何やってるんだ……そんなの失敗するに決まってるじゃないか……なんで信頼できる人を遠ざけて、山師みたいな連中にばっかり肩入れするんだよ……」と心の中で家入さんを引き留めずにはいられませんでした。
 飲食店経営は、そんなに甘くないって……
 どうして誰も、家入さんを止められなかったのだろう。
 きっと、周囲の人も、家入さんの行状を危惧しながらも、「そういうのも、この人らしいのかな」と、つい情に流されてしまって、後戻りできなかったのでしょう。
 周囲も、みんな「いい人」ばかりだった。
 「自分と馬が合う人」だけを周囲に置いてしまったために、結局、みんなを乗せた船は沈没してしまったのです。

 ある日、僕は六本木のカフェでウェブ系のメディアからインタビューを受けていた。テーマは「『場所づくり』について」。リバ邸の話、ペパボの話、カフェの話、どれもよく話す内容だから、迷わずに答えることができた。このインタビューが終わったらもうひとつ打ち合わせをして、今日は終わりだな……。そんなことを思いながらスマホにときおり目を落としつつ、ゆるゆると時間は過ぎていった。
「では最後の質問になります」
 インタビュアーは、僕に問いかけた。
「家入さんって、いつも新しい『場所』をつくっていらっしゃいますよね。それはどうしてなんですか?」
「飽き性だっていうのもありますね。すぐ新しいことをやりたくなっちゃうんです」
「でも、なぜ『場所づくり』なんでしょう?」
「どうして?」
「ええ。家入さんはどうして、人が集まる『場所』をつくりたいと思われるんですか? 何か特別な思い入れか何かあるのでしょうか」
「それは……」
 思わず一瞬言いよどんでしまった。そのあとに続けようとした言葉に気づいて、自分でもハッとしたからだ。
「それは……、僕には、『居場所』がなかったからですよ」


 僕はこれを読みながら、家入さんって、誰かに似ているな、と思っていたのです。
 それは、チェ=ゲバラでした。
 世界を変えようとして志なかばで亡くなった偉大な革命家と、「炎上IT芸人」を一緒にするな、という罵声が聞こえてきそうです。
 でも、自分の居場所をつくろうとして仲間と一緒に頑張るのだけれど、実際にその居場所らしきものができてしまうと、そこに満足できないでリスクを承知で飛び出してしまう、というのは、なんだかすごくよく似ている。
 チェ=ゲバラカストロたちとキューバ革命に成功するのですが、「革命の理念」の違いから、政権の中枢を離れ、遠国への革命の輸出に旅立ちます。
 喘息持ちで、けっして丈夫な身体ではなかったのに。
 僕はずっと、「それがゲバラの理想主義なのだ」と思っていたのだけれど、それは理想主義というより「自分の居場所が欲しい、つくりたい」けれど、「一ヵ所に留まることに耐えられない」という強迫観念みたいなものだったのかもしれません。


 家入さんは、自分がつくった「居場所」にじっとしていることができなくて、また新しい「居場所」をつくろうとしてしまう。
 それでも、家入さんがつくった「居場所」によって救われる人も、少なからずいるのです。
 家入さん本人は、けっして満たされないのだとしても。
 

 モーは小学校高学年になりMacをサクサク操るようになって、まるで昔の僕みたいだった。
「パパ、僕も起業したいと思っているんだけど」
「おお、いいじゃないか」
「でもさ、僕、パパの息子だから絶対炎上するよね」
 思わぬカウンターに面食らう僕。
「う、うん」
「……炎上はちょっとなぁ」


 書かれているのは、良いことばかりではありません。
 むしろ、読んでいると、ヒリヒリすることや、「なんでこんなことに……」と呆れてしまうことばかりです。
 でも、家入さんは、こうして生きていて、また新しい「居場所」をつくろうとしつづけている。
 息子さんの「炎上血統」への不安に、苦笑しながら。


 自分に自信がない人、ワーカホリックな成功者の伝記に「これは真似できないな……」とため息をついてしまう人に、ぜひお薦めしたい一冊です。


新装版 こんな僕でも社長になれた

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こんな僕でも社長になれた

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熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録

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