琥珀色の戯言

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【読書感想】あの人と、「酒都」放浪 -日本一ぜいたくな酒場めぐり ☆☆☆☆



Kindle版もあります。

内容紹介
吉田類なぎら健壱太田和彦吉永みち子
酒場のことは「呑兵衛」に訊け!


一番愉しく酔える場所、馴染みの店や隠れ家、大人の飲み方、下町の魅力、酒場で学んだ人生観…。
太田和彦森下賢一鷲田清一、佐々木幹郎、都築響一吉田類吉永みち子、エンテツ、藤原法仁、
倉嶋紀和子、浜田信郎、なぎら健壱橋本健二の各氏に訊く。カラー写真、店舗ガイド情報も満載。


 僕自身は、そんなに酒好きではありません。飲めばそれなりには飲めるんですけど。
 飲み会などでは、緊張を緩和するためにお酒に手をつけてしまい、酒の勢いで、その場ではちょっといい気分で話をして、家に帰ってきてから自己嫌悪タイム、ということが多いのです。
 もちろん、一緒にお酒を飲むのが楽しい仲間、というのもいますが、父親の飲酒に関する不快な記憶などもあり、「酒場人脈自慢」をするような人には、あまり好感を持てません。
 「そんな時間とお金があるんだったら、家で本でも読むか、映画でも観に行ったほうがいい」と、思いますし。


 ……とか言いながら、こんな「酒場の達人」たちを取材した新書を手にとってしまうのは、僕のなかに「飲酒を楽しめる人たち」への憧れみたいなものがあるから、なんでしょうけどね。
 「飲める」し、「心の奥底では酒場好き」だからこそ、「嫌い」「苦手」の感情が先に立ってしまうのだろうか。


 この新書に登場してくる「酒場の達人」たちの大部分は、「酒飲み嫌い」の僕にとっても、けっこう好感が持てる人たちでした。
 よく「今日は無礼講だから!」なんて言いながら、他人のプライベートなことを聞きたがる人っているじゃないですか。部下を無理矢理誘ったり、「オレの酒が飲めないのか!」とか言う人も。
 そんな「無粋な酔っぱらい」ではない「酒飲み」がいる。
 彼らは、ひとりで居酒屋にやってきて、好きな酒を飲んで肴をつつき、満足して去っていく。


 アートディレクター・太田和彦さんが出てくる最初の項を読んで、僕はこの新書が好きになったのです。

 歳月を経ても変わらない居酒屋が本業の新たなアイディアにつながることはなかったのか――。「鍵屋」で湯豆腐を突つく太田に聞いてみた。


「呑んでいてデザインのヒントが浮かぶことなどない。何も考えていないから」。大概の人は居酒屋に一人で入ると仕事のこと、家族のことに思いをはせる。携帯電話を取り出してメールをチェックする人もいる。だが、それらは「居酒屋初心者」のやること。


 太田が一人で居酒屋に行ったときに考えることは一つしかない。
 それは「次何頼もうかな」ということ。「座った瞬間からそれだけ。これが居酒屋での理想の境地。無念無想」。
 東京でも名うての老舗居酒屋に行くと、一人ばかりでシーンとしていることがある。ある者は天井を見上げ、お猪口を眺めて微動だにしない人も。「みんな雰囲気に満足しているから、しゃべる必要がない。悟りの境地だね」。
「まるで座禅道場ですね」と記者が言うと、「酒付き座禅道場だね。座禅でも、みんなが最後に考えるのはただ一つ。何時に終わるのかなーってことじゃないのかな」と楽しそうに答える。


 僕はこの太田さんの言葉が、すごく印象に残ったのです。
 僕も何度か「居酒屋でひとり酒」というシチュエーションになったことがあるのですが、どうも手持ち無沙汰というか、落ち着かないものなんですよね。
 それは「ひとりでいる人、として周囲に観られること」への過剰な自意識や、「何か考えごとをしなければ」というような思い込みから、だったのです。
 居酒屋にいるんだから、ただ、酒を飲んで、食べたいものを食べればいいし、悩むフリなんてしないで「次に頼むメニュー」のことだけ考えていればいい。
 そうか、それでいいんだ!

 
 人気マンガ『孤独のグルメ』を読みながら、僕はいつも「ゴローさん酒を飲まないとはいえ、頼みすぎ、食べすぎなんじゃない?」と思っていました。
 でも、あの「席に座っているあいだ、常に『次に何を頼むか』ということばかり考えている」というのは、まさに「達人の間合い」なのだなあ、と。


 ひとりじゃないと、相手との会話も多少なりともあるでしょうし、注文にも合意が必要でしょうから、こういう「境地」には、なかなか至れないはずです。


 この本には、「飲んべえ自慢嫌い」の僕も羨ましくなってしまうような「酒場の達人」たちの話が、たくさん収められています。

「一説によると、全国のスナックで一番多いのは来夢来人(ライムライト)という名前」「小料理屋では『ちえこ』が多い」。そんな都築(響一)と藤原(法仁)のスナック談義を聴きながら、ママの鈴木惇子が「ホステスナンバー1は『あけみ』が多かったの」と口をはさんだ。鈴木は新宿の歌舞伎町、2丁目、3丁目で長く店を続けてきたベテランで、都築の大著『天国は水割りの味がする』の冒頭にも登場している。この日は洋服だったが、いつもは和服。歌がうまく、店が終わった後も元気よく、呑み歩き、踊り明かす。「怪人」のようなママさんだ。

 下町酒場の居心地のよさとは何なのか――。藤原は、高級な店に行くと、「事業で失敗したら、もうここでは呑めないだろうな」と落ち着かない気持ちになるが、大衆酒場では「ここから頑張っていこう」と明日への活力をもらえるという。


 酒場と酔っぱらいが苦手な僕にも「伝わる」、酒場の魅力。
 結局のところは、「何も考えずに飲むか、一緒にいるだけで楽しい仲間と飲む」ということに、尽きるのかもしれませんが。

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