琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】まだ東京で消耗してるの? 環境を変えるだけで人生はうまくいく ☆☆☆



Kindle版もあります(ちなみに「電子版特典」というのは、短いエッセイ(半分宣伝)がついているだけです)。

内容紹介
東京はもう終わっている。人が多すぎる東京では仕事で頭角を現すのは難しく、少ない給料のほとんどは住居費などの「東京に住むための経費」に吸い取られる。おまけに子育て環境は酷く、食は貧しい。そんな東京に嫌気が差し、縁もゆかりもない高知県限界集落に移住した著者は、家賃が8万円から3万円に下がり、収入は約3倍になり、自然豊かな環境で幸せに暮らしている。地方消滅という言葉があるが、人が少なく、ないものだらけだからこそ、地方には確実に儲かるのに未だ手付かずの仕事が無数にあるのだ。「東京」と「地方」の常識が変わる一冊。本電子書籍版には、面白いローカルメディアの秘密について綴ったコラムを限定特典として収録!


 僕が以前読んだイケダハヤトさんの新書『なぜ僕は「炎上」を恐れないのか』は、かなり酷いもので、「なんでこんなものを読んでしまったんだ……」と後悔するようなシロモノでした。


参考リンク:【読書感想】『なぜ僕は「炎上」を恐れないのか』(琥珀色の戯言)



 あれから2年、イケダさんは高知に移住し、相変わらず世間を煽り続けており、ブログでは「アンチイケダハヤト」がひとつのジャンルになっているのですが、イケダさん自身は、最初に言っていた「年収150万円で暮らす」から、『note』で情報商材めいたものファンに売りさばいたり、書生にベーシックインカムを提供したりして、「売り上げをどんどん伸ばす」「こんなに儲かっている」という方向にシフトしてきました。
 僕は、地道に働いている人たちを小馬鹿にしたり、あまりにも特殊な自分の経験を普遍の定理のように語ったりするイケダハヤトさんが嫌いです。
 でも、最近の「イケダハヤトという名前が出てくるだけで全否定する一部の人たち」も、それはそれで思考停止しているのではないか、という気もして、お金を出して、この新書を読んでみました。
 批判するにしても、「とりあえず原典にあたってみる」のが僕の主義なので。


 率直に言うと、この『まだ東京で消耗してるの?』は、読者を挑発するようなタイトルや、いちいち癇に障るような言い回しは大変不快なのですが、読んでみると「こういう情報を必要としている人は少なからず存在しているだろうし、『イケダハヤトフィルター』を外してみると、なかなか面白いことが書かれていると感じました。


 僕は東京で長期間生活した経験がないので、「大都会の良さ、素晴らしさ」って、正直よくわからないのです。
 でも、「毎日通勤時間が2時間もかかる」とか、「終電の時間を気にして動かなければならない」とかいうのは、自分にとっては息苦しいし、いくら通勤時間を読書やスマホゲームに使えるとはいっても、それだけの時間を人の多い電車の中で過ごすのはつらいだろうな、とも思います。
 最先端のアートとか小劇場、秋葉原の近くにいたい、という人は、仕方が無いと思うのだけれど、僕が子どもだった30年前に感じていたような、「電車で博多天神コアの上にあった紀伊國屋まで行かないと、読みたいちょっとマニアックな本をすぐに手に入れられない」なんていう「格差」も、Amazonをはじめとするネット通販で、大幅に小さくなりました。
 かなりニッチなものを必要としなければ、生活していく上では、「東京じゃなければならない」ところは、かなり薄まっていると思うのです。


 ただ、この新書を読んでいると、「それって、イケダハヤトさんにとってはそうかもしれないけど、突出した能力がない『ふつうの人間』である僕(や、その家族)には、あてはまらないだろ……という「我田引水的な理論」が多いのもまた事実なんですよね。

 愕然とします。移動だけで1日2時間以上使っているじゃないですか。ミーティングが多い日は、3時間以上移動するのも珍しくありません。新幹線移動が入る日なんかは、移動だけで5時間以上かかったり……。
 サラリーマンをやめて、高知に移住してからは、すっかり「在宅ワーク」が中心になりました。当たり前といえば当たり前なんですが、会社を辞めて自宅で仕事をするようになって、仕事の効率が明らかに改善したんです。
 ごくごく普通に考えて、「1日2時間以上、パソコンに向かって作業をする時間が増えた」わけです。ついでにいうと、社内の無駄な「打ち合わせ」も減りましたし、満員電車で消耗することもなくなりました。そりゃ、仕事のパフォーマンスは上がりますよ。
 往復で2時間を通勤に費やす人が、年間250日働いた場合、ざっくり500時間、通勤している計算になります。
 で、ぼくは500時間もあれば、ブログ記事を2000本は生産できます。2000本の記事を書くことで、年間で1000万円程度を稼ぐことができます。
 みなさんが時間とエネルギーを消耗している間に、ぼくはコツコツ仕事をしていて、あなたの年収を超えるお金を稼いでいるんです。こんなことは当たり前ですよ。だってぼくは「通勤」してないんですもの。年間500時間も集中できる時間があれば、誰だってお金を稼ぐのはうまくなります。

 というか、「炎上させる」のがうまくなるだけで、それは「焼畑農業」みたいなものなのでは……
 そもそも、それはイケダハヤトという人の「特殊スキル」であって、1時間にブログ記事を4本も生産できるって、どんな乱れうちっぷりなんだ……
 ここでイケダハヤトさんが主張している生き方というのは、あくまでも「在宅ワークでパソコンがあれば稼げる人」にしか通用しません。
 15分間で、5000円稼げる記事を書き続けるというのは、明らかに「特殊な能力」です。
 特殊能力がない人でも「田舎には、けっこう『小商い』があって、住宅費も食費も安いから、アルバイトでも何でも食べていけるよ」ということが書かれている章もあるのですが、それだとまさに「その日暮らし」なのでは……
 都会でギリギリの生活をしていて、仕事も今後どうなるか不安定、家族も田舎暮らしに積極的、というような状況であれば、参考になるとは思うのですが、「都会で普通に暮らせている人」には、参考にしがたい感じです。
 「新しいことをはじめる」のには、エネルギーが必要だし、ある程度の「コミュ力」みたいなものも要求されますし。
 そもそも、地方に移住して、すぐに友達をつくれるような人であれば、都会でも、そんなにストレスなく生活していけるのではなかろうか……


 ちなみに、上記引用部のあとには、こう書かれています。

 さて、こういうことを書くと「私は電車のなかで読書をしているので、時間を有効活用している! 無駄なんかじゃない!」とか反論が来るんですが、それ勘違いですよ。
 当たり前のことですが、家で読書していた方が明らかに効率はいいです。メモも取りやすいし、調べものもしやすいですし、他の本の参照もしやすいし、途中で中断されることもありませんし、必要に応じて昼寝もできますし。
「移動しながら」という条件下においては、あらゆる作業の効率は落ちます。まずはそれを認めましょう。
 ぼくはあなたが汗臭い満員電車で頑張って本を読んでいる時間に、誰もいない静かな部屋でのんびり日本酒を飲みながら本を読んでいるのです。


 まあなんというか、こういうふうに書くと「炎上」するのだな、というお手本みたいな文章です。
 この本、編集者がこういう「イヤミ」とか「自慢」の成分を取り除いて出してくれればいいのに。


 イケダさんは子どもの教育について「今はインターネットで素晴らしい授業の配信が行われているのだから、都会で塾に通う必要などない。自分だったら、ネット講座で良い成績をとり、一流大学にも合格できる」と書いていたのも、「なんだかなあ」という感じです。
 僕は学校とか塾に関する本を読んだり、先生の話を直に聞いたりする機会が最近多いのですが、「学ぶ」ということにおいては「他の子どもたちや先生と空間を共有する」ことが、かなり重要みたいなんですよ。
 一時期、有名講師によるサテライト講座やネット通信教育がもてはやされて、そのうち、一部の超人気講師が講座を寡占してしまうのではないかと僕は考えていたのですが、そうはなりませんでした。
 少なくとも現時点では、「画面の向こうの超有名講師の授業」だけでは、多くの生徒の学力は引き出しきれていないのです。
 その場に他の人がいる環境というのは、けっこう大事みたいです。
 たぶん、イケダさんなら、本当にネット環境だけで、一流大学に入れるのではなかろうか。
 でも、大部分の子どもは、そうじゃない。


 この本は役に立つ部分も多いのだけれど、「イケダハヤトさんにしかあてはまらないところ」と「自分にも適用可能なところ」を丁寧に仕分けしながら読む必要があります。
 それは、チャーハンからタマネギをひとかけらずつ取り除くような、大変くたびれる作業ではありました。
 読みながら、「まだイケダハヤトで消耗してるの?」というテロップが、僕の頭の中を、何度も流れていくくらいに。


 地方での待遇でも「有名ブロガー・イケダハヤト」として鳴り物入りで「移住」するのと、ごくふつうの家族として行くのとでは、かなり違うでしょうし。


 地方は食べ物が美味しいし、住居費も安い、店もトイレも混まない、なんていうのは、頷けるところもあるのです。一軒家だったら、子どもが家の中で騒いでも、気にしないですむ。
 僕も妻がマンションで「こんな時間に近所迷惑でしょ!」と怒るのを聞くたびに、なんだか子どもにも隣人にも申し訳なくなるのです。甲斐性なしでごめん、みたいな。

 都会には、ものすごく高くて美味しい店もあるけれど、普段使いできるくらいの価格の店だと、「なんで東京って、このくらいの店に行列しているんだ?」ってことも少なからずあります。
 その一方で、都会っていうのは、「ものすごく安いもの」もあって、「質と時間にこだわらなければ、かなり安いものを手に入れる」ことが可能です。
 それが「健康的」かどうかはさておき。


 

 もうちょっと生々しい話をしましょうか。ぼくは、移住して収入が大幅に増えました。
 事業規模でいうと、東京で生活していた2013年度は年商800万円(年商なので、ここから経費が引かれます)。高知市から限界集落に移住した2015年度は年商2000万円程度まで伸びました。2016年度は2500万円の売り上げを目論んでいます。まさに右肩上がり。このまま「限界集落から年商10億」を目指します。
 実はこれ、予想通りなのです。論より証拠、ぼくは移住を発表した2014年6月1日に、こんなことをブログに書いています。

 今の時代、クリエイターにとって「移住する」という選択肢は、キャリアにポジティブな影響を与えると考えています。
 ぼく自身、東京を卒業するのは、さらなるキャリアアップのためです。
「東京から逃げる」という意味合いもありますが、どちらかというと「さらに成長するため」に、移住という選択を決断しました。
 なぜ移住が成長につながるか。ぼくらクリエイターは、外部から与えられる刺激によって、アウトプットが変わっていくわけです。ぼくはもう東京的なものは把握できたので、また違う環境から影響を受けて、そこで何が創れるかを摸索したいのです。
 環境を変えれば、アウトプットは変わります。まさに今回、ぼくはブログのタイトルを変えることができました。今後、ますますみなさんをイライラさせるメッセージを発信することができるようになるでしょう。え、まだ東京で消耗してるんですか?


 そうか、「稼ぐ」ことを覚えてしまうと、「年収150万円で自由に暮らす」と言っていた人が、こんなふうになってしまうのか……
 僕は「収入が低くても、コストを抑えて慎ましく暮らす」ほうが、いまの時代に合っているし、その思想を必要としている人も多いと思っていたのだけれど。
 カネって、怖いよね。


 イケダハヤトさんが、多くの人をイライラさせているのは「わざと」なんですよね、要するに。
 イライラしてしまう人には、たぶん、多かれ少なかれ、自分が「東京で消耗している」感覚があるのではなかろうか。
 そして、地方に在住していると、たしかに「ネットは世界中の人に読まれるという前提のために、あまりにも大風呂敷を広げすぎて、地方都市レベルでも知りたい身近な情報が空白地帯になっている」のもわかるのです。
 目の前にあるこのレストランに、入っても酷い目にあわないかどうか?
(それこそ、都築響一さんなら「ゴチャゴチャ言わずに、入ってみろ、だからお前はダメなんだ!」って言いそうだけど)
 どうせ行けはしない東京のオシャレな人気店の情報は、飽きるほど観ることができるのに。
 そういう、イケダさんの「目のつけどころ」は、素直に認めざるをえないのです。


 地方への移住についても、実践的なアドバイスが書かれています。
 たとえばこういう話。

 ここで現実的になってくるのが「二段階移住」という考え方です。
 東京から地方に移住したいと考えている人の多くは、ぼくが住んでいるような「田舎」を探していると思います。
 が、田舎は物件を見つけることが困難です。不動産屋はありませんので、人づてで物件を見つけるしかありません。また、第5部の冒頭で話したエピソードのように、運良く「空き家バンク」で物件を見つけたとしても、コミュニティに入り込むためのハードルもあります。ゆえに、まずは県庁所在地レベルの「地方都市」に居を構え、そこから自分たちにあった「田舎」を探すことを、強く強くおすすめします。
 かくいうぼくの場合も、まず1年ほど高知市内に住み、それから本山町の山奥へと引っ越しました。当初は高知市〜本山町の中心部〜本山町の山奥という「三段階移住」の計画だったのですが、幸いにしていい物件の情報を得ることができ、一足飛びで山奥に移住しました。
 第1段階として高知市に居を構えたことで、さまざなま地域を実際に見ることができたのは、かなりのプラスでした。「ここは良さそうだなぁ」「ここは何もなさそう」と第一印象で感じる地域でも、2泊3日で滞在し、現地の移住者の話を聞くと、大きく印象が変わることがあります。


 イケダハヤトという人への見方は人ぞれぞれでしょうし、よほどのファンでなければ、オンラインサロンに入ったり、有料noteを買ってまで「真似をする」ことは薦めません。
 イケダハヤトさんの話には、基本的に「タマネギ」が多すぎるから(これは「トマト」と言ったほうが良いのかな)。
 ただ、本気で都会暮らしに疲れていて、田舎への移住を考えている人は、この新書に関しては、けっこう参考になると思います。
 けっこうイライラさせられることも覚悟の上で、ご利用は計画的に。


圏外編集者

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