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琥珀色の戯言

【読書感想】【映画感想】のブログです。2016年8月より、『はてなブログ』に移行しました。

【読書感想】物流ビジネス最前線~ネット通販、宅配便、ラストマイルの攻防~ ☆☆☆☆

物流ビジネス最前線 (光文社新書)

物流ビジネス最前線 (光文社新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
物流を制するものがビジネスを制する―。これまで物流は、経済や企業を背後で支える地味な存在で、社会的に大きく注目されるようなことはなかった。しかし現在、物流は経済全体に大きな影響を与える、極めて重要な存在だと認識されるようになった。ネット通販ビジネスが拡大し、私たちの生活に欠かせないものになった物流が企業の競争力を高める生命線となりつつあるいま、アマゾン、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便など各企業はどのような戦略を描いているのか。物流研究の専門家が、ドライバー不足に喘ぐ日本、そしてネット通販先進国であるアメリカの事情を含めて、その現状と課題を読み解く。


 ロボットの進化やネットの普及によって、世の中は大きく変わってきました。
 これまで人間によって行なわれていた、生産や受注、営業などのサービスが、どんどん機械によって効率化されてきているのです。
 情報を伝達するのに必要な時間やコストは、どんどん少なくなってきています。
 

 しかしながら、どんなにネットが普及し、回線が速くなっても、人間は、情報を食べては生きていけないし、どうしても必要な「モノ」はあります。
 いまの世の中では、モノをどうやって人々の手に届けるか、すなわち「物流」が重視されるようになってきているのです。


 僕が物流について考えさせられたのは、東日本大震災のときのこんなエピソードでした。
『できることをしよう。~ぼくらが震災後に考えたこと』(糸井重里ほぼ日刊イトイ新聞著・新潮社)より、
糸井重里さんと木川眞(ヤマトホールディングス社長)の対談「クロネコヤマトのDNA。」の一部です。

糸井重里最初にうかがった、救援物資を運ぶチームのことについて、もうすこしくわしくお話しいただけますでしょうか。


木川眞:「救援物資輸送協力隊」ですね。


糸井:そう、それです。その活動は現在も続けられている。


木川:続けています。


糸井:救援物資がちゃんと被災者のみなさんに届くのか、ということについては、心配されたり話題になったりいろいろなかたちで言われていますが、実際のところはどうなんでしょう。


木川:それはですね、救援物資をどこにどれだけ送るか、送った物をどうやって管理するか、そういう整理整頓が、できていないケースがやっぱり多いんです。


糸井:ああ……。


木川:災害が起きたときには、常に同じことが起きているのですが、救援物資の管理については地方自治体のかたが仕切るわけです。多くの場合そのかたには、ロジスティックス(物流・資材調達)の専門知識がありません。


糸井:そうでしょうね。


木川:その一方で、救援物資はどんどん集まってくるわけです。水が来る、食料品が来る、衣類も来る。そしてそれらは、およそ物流の拠点にふさわしくない体育館であったり、公会堂であったり、学校であったり、そういう場所へまずは運び込まれます。ところが、そういう場所は、中は広くていいんですが、出入り口が狭いんです。救援物資はどんどん来るから、どんどんそこに入れられていく。そうするともう、最初に入れられた荷物は出せなくなる。


糸井:ボトルネックだらけになるんですね。


木川:そう。必然的に「後入れ先出し」になるんです。後から来たものを最初に出す。いちばん最初に入れたものが食料品だったら、賞味期限が切れてしまいます。


糸井:うーーん……。


木川:ほしい物がいちばん奥にあるとわかっていても出せない。それどころか、奥に何があるのか誰も知らない状況になる。


糸井:簡単にそうなってしまいそうですね。


木川:あとは、これ、ほんとうに、とある避難所で見たんですが、そこにはひとりも赤ちゃんがいないのに哺乳瓶と粉ミルクの段ボールがどーんと置いてあったんです。つまり、それを必要とするところはほかにあるのに、まったく別のところに行ってしまっている。


糸井:せつないなぁ。


木川:そういう状況をロジスティックスの専門家が仕切ると、うまく回転がはじまるんです。たとえば、気仙沼市では、「ぜんぶヤマトに任せる」ということになりました。もう自分たちの手に負えないと。それで、大混乱してる状態でぼくらが引き受けて、二日目には完璧に「どこに何がいくつあるか」をパソコンに入力し、その置き場所のレイアウトも完了しました。


糸井:所番地をつけたわけですね。


木川:そう、所番地をつけた。すると、歯ブラシ一本とか、長靴一足とか、ほしい物をすっと出してお渡しすることができるようになりました。


糸井:たった二日で。


木川:忘れてはいけないのが、自衛隊の方々の協力です。ヤマトがその場を仕切ると決まってから、自衛隊のみなさんがですよ、ぼくらの支配下に入って、指示通りに動いてくれたんです。これはね、ほんとに……。


糸井:すごいっ! もう、立ち上がって拍手したいですよ(笑)。


木川:ひと言の文句もなしに、われわれの指示で動いてくださる。自衛隊っていうのはすごいな、と。


 「モノがどこにもない」という状況は、現在の日本ではあまり無いのかもしれません。
 でも、「モノはあるのに、それをうまく取り出して利用することができない」あるいは、「必要な場所に、必要なだけ持っていくことが難しい」ということは、少なからずあるはずです。
 倉庫にいくらあっても、必要な場所に届かなければ「無い」のと同じこと。
 そして、ただ「届ける」だけではなくて、いかに早く、正確に届けるか、配送のコストを減らすかというのが、現在の「勝負どころ」になっているのです。
 インターネット通販でのAmazonの強みは、安さや品揃えの豊富さはもちろんなのですが、「欲しいものを早く手に入れられること」も大きいのではないかと思います。
 もちろん、店に買いに行くのがいちばん「早い」のだろうけど。

 近年、これまでは各企業が自分たちで行なってきた物流をアウトソーシング(外部委託)しようという流れが強まっており、サードパーティロジスティックス(third-party-logistics、3PL)と呼ばれる新たなタイプの物流会社が台頭しつつある。従来、企業の物流というのは、物を運ぶのは宅配便やトラック運送業者、在庫管理は倉庫業者、といったように分野ごとに別の業者が担当していたが、最近では注文から発注、配送までの一連の情報管理や物流センターでの在庫管理など、「物流」に関わる幅広い範囲をカバーした複合的な業務を行なう物流業者=3PLが増えてきている。
 物流の身近な例にアマゾンがある。アマゾンは巨大な物流センターに多くの在庫を抱え、即座に対応できるような物流システムを整えているため、商品を迅速に買い手のもとに届けることができる。このようなインターネット通販はすでに私たちの生活に浸透しているが、この流れは今後ますます拡大していくだろう。こうした時代の中で物流というのは、全体的なシステム運営に加え、荷主に対するコンサルティングや提案などもできるような、インテリジェンスが要求される分野になりつつある。


 著者は、「いまほど物流が注目されている時代はないという実感がある」と仰っています。
 その理由として、物流業界の労働力不足とドライバー不足、そして、ネット通販の成長を指摘しているのです。
 以前は、企業のなかで優先順位が低く、「左遷先」だった物流部門が、いまや、企業の命運を握る存在になっています。
 ネット通販では、商品が売れれば売れるほど、それを注文者に早く、正確に配送するのが大変になっていくのです。アメリカのAmazonも、クリスマス商戦で売れすぎて、クリスマスプレゼント用の商品が、クリスマスに間に合わなかった、という苦い経験をしています。
 アメリカの他のネット通販の会社では、配送地域を郊外まで広く設定したために、物流コストが高くなりすぎて倒産してしまいました(『ウェブバン』という会社だそうです)。
 日本のネット通販大手、楽天は、配送に関しては「各店舗任せ」の時期が長かったのですが、各店舗の対応力に差がみられることもあり、アマゾン等に対する競争力を強めるため、2010年に物流子会社の「楽天物流」を設立したそうです(2014年に親会社の楽天に吸収合併)。


 Amazonは物流コスト削減と人手不足対策のために、ドローンによる無人配送の実験をしています。

 小型貨物を抱いた小さなドローンが、アマゾンのフルフィルメント・センターから飛び立ち、上空を飛行した後、一軒の家庭の玄関前に着陸する。着陸するとすぐに小型貨物を切り離して地面に落とし、ドローンは再び上空に舞い上がって帰っていく。これを玄関口から見ていた住人が、玄関のドアを開けて届いた荷物を取りに出てくる。まるで近未来のシーンのようだが、アマゾンはこうしたドローンの実用化に向けた取り組みをすでに行なっている。
 じつは、このアマゾンのドローンには日本も深くかかわっている。2016年、安倍政権の重要な経済政策の一つである国家戦略特区に千葉市が指定され、そこでドローンを使用した宅配の実証実験が行なわれているが、今後、これにアメリカのアマゾンが参加することが検討されている。本拠地のアメリカでは連邦政府の航空規制が厳しく、ドローンの飛行はいまだに実用化されていない。したがって、これに参加することができればアマゾンにとって新たな突破口を日本で開くことができ、願ってもない好機が到来することになる。ちなみに千葉市では、2019年にもドローン宅配の実用化を目指している。


 千葉では、すでに「ドローン宅配」の実験が行なわれているんですね。
 僕はこれを読んではじめて知りました。
 

 この本では、2001年以降、トラック運送業のドライバーの賃金が大きく減少していることも紹介されています。
 ドライバー不足にもかかわらず、賃金は上がらず、労働時間は長い。
 そんな状況だから、新しくやろうという人も少なくなってしまう。まさに悪循環。
 Googleは自動運転の車を開発していますし、近い将来、物流は人間の仕事ではなくなる可能性が大きいのではないかと思われます。
 現在のドライバーの待遇を考えると、機械に任せたほうが良いのかな、とも思うのですが、そうなると、これまで物流で仕事をしてきた人間の雇用はどうなるのか、という問題もありますよね。


 ネット通販では、再配達や返品といった、コストがかかる要素もあります。
 Amazonは自前の巨大な配送センターまでつくっており、規模が大きくなるほど「ネット通販だからこそ必要なコスト」も生まれてくるのです。

 アメリカのアマゾンは、年間にどのくらいの配送コストを支払っているのか明らかにしている。2015年、アマゾンは配送料金として115億ドル(1兆3800億円)を支払っている。これは一企業が支払う配送料金だけだが、それ自体、巨額な金額である。この年のアマゾンの売上高は1070億ドル(12兆8400億円)であるから、売上高に占める配送コストだけで10.7%に達する。
 もちろん、これ以外にフルフィルメント・センターなどの稼働コストもあるために、物流コストはもっと高い比率になる。いずれにせよ、配送料金の支払いだけで売上高の10%を超えているということは、ネット通販にとってラストマイルのコストがいかに大きな負担になっているかということを端的に示している。


 これだけのコストがかかっているのに「送料無料」というのは、どこかにそのしわ寄せがきているのは間違いありません。それでも、Amazonの商品は(大概において)安いのですが。


 昔からあった「物流」というのが、現在、こんなに注目されているのです。
 ネット通販では、最後の工程である、顧客への商品の配送(ラストマイル)こそが、「他社との差別化のポイント」になっています。
 ただ、そう言っているうちに、テクノロジーの進歩によって、自動運転車やドローンによる配達、あるいは商品のデータを家庭用3Dプリンターで実体化、というのが、当たり前の世界になっていくのかもしれませんね。