- 作者: 川島蓉子,糸井重里
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2018/10/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- 作者: 川島蓉子,糸井重里
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内容紹介
ほぼ日の経営について、
まるごと糸井さんに聞いてきました--。糸井さんは、もともとフリーのコピーライターで、組織に身を置いたことはほとんどない。
それなのに、活動の幅を広げる過程で事務所を立ち上げ、100人以上が勤める企業をつくりあげた。
一方の私は、大学卒業後に伊藤忠商事の事業会社のひとつである
伊藤忠ファッションシステムに入社して35年目。
転職をしたこともなければ、フリーとして活動した経験もない。
根っからの組織人であり、よくも悪くも日本企業の価値観が、骨の髄(ずい)までしみこんでいる。
そんな私が、糸井さんにほぼ日という会社の目指す先を聞いていった。
インタビューは、驚きと発見の連続だった。
事業、人、組織、上場、社長--。企業の根幹を支える部分について、
なにを考え、どのように向き合っているのか。
糸井さんが語ってくれた話の数々は、長年の会社員生活を通じて、
私の中にインプットされた常識をくつがえす内容ばかりだった。--まえがきより
ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」の創刊から20周年。
ジャーナリストの川島蓉子さんが、ほぼ日を率いる糸井重里さんに、「ほぼ日の経営」について、まるごと聞いてきました。
ほぼ日の「これまで」と「今」。
なぜほぼ日では、魅力的なコンテンツ、サービス、商品が、次々に誕生しているのでしょうか。
糸井さんとほぼ日にとって、事業とは、働くとは、そして会社とは--。
糸井重里さんは、何を考えて、『ほぼ日』を経営してきたのか。
僕もけっこう長い間『ほぼ日』を見続けてきたのですが、最近の『ほぼ日』って、なんだか物を売る話ばかりで、ショッピングサイトみたいだよなあ、と思っていたのです。
以前は『ほぼ日手帳』を中心とするインターネット通販が中心だったのですが、2017年3月には期間限定の商店街のような実際の店舗によるイベント「生活のたのしみ展」も始めています。
その「意味」について、糸井さんはこう仰っています。
――どうして「生活のたのしみ」なんですか。
糸井重里:読者にときどきアンケートをするんですが、「ほぼ日でやってほしいことはなんですか」と聞くと、圧倒的に多いのは「買いもの」で、ほぼ日の中では買いものの占める割合がとても大きい。
買いものというのは面倒や手間ではなく、実は楽しみなんです。じぶんのポテンシャルの表現であり、自由のシンボルでもある。選挙に近いものがあるんです。「私はこの商品に賛成して、一票を入れるつもりで買います」という感じがどこかにあるのだと思います。だから買いものは「あればうれしい」し、「買うと楽しい」。
――「買いもの」と「楽しみ」のつながりはわかりましたが、それと「生活」は、どのようにつながるんですか。
糸井:その頃のほぼ日は、手帳を「LIFEのBOOK」と言ったり、手帳のコマーシャルでは「This is my LIFE」と言ったりしていました。「LIFE=生活」を大事にするというテーマがあったんです。
それで、お客さんが雑貨を買うのは「LIFE=生活」を楽しむということだから、「生活のたのしみ展」になったんです。
『ほぼ日』が通販サイトみたいになったのは、「結局のところ、買いものこそがみんなの楽しみだから」という、糸井さんからのメッセージでもあったんですね。
僕もAmazonなどのネット通販サイトが大好きなので(リアル店舗の洋服屋とかは苦手ですが)糸井さんがそこに行きついたことは理解できます。
その一方で、なんのかんの言っても、糸井さんは「バブル時代の亡霊」を引きずっている人なのではないか、とも感じたんですよ。
経営的にみれば、何かを継続してやっていくためには、やはり「お金」が必要だというのも現実です。
——ほぼ日の採用についてうかがいたいと思います。最近、採用したのはどのような人でしょうか。
糸井:「いい人募集」という形で募集しました。それも広告を出すのではなくて、採用告知そのものを「ほぼ日」の記事として出したんです。
——「いい人募集」の「いい人」とは、どういうイメージですか。
糸井:どう言ったらいいんでしょうか。「いい人」を定義してくださいと言われると困ってしまうんですが、仕事の中で話をするとき、ごく普通に「いい人」という言葉を使っていますよね。一緒に働いていて、「いい人をとったね」「いい人に来てもらった」とも言います。
その「いい人」は、なにかの条件を満たしているというわけではなくて、ある種の運や縁としか言いようのないものです。採用する側にいる人にとっては、声の出し方がよかったとか、なにかのいい感じがあったんでしょう。
——たしかに「いい人いない?」という聞き方をよくします。普通の会話の中では使っているのに、実際に採用の場面になると自然と使われなくなる言葉です。
糸井:ぼくは、これから仲間になる人と、これから仲間を迎え入れようとしている人たちとの両方にとって、心で一致するいい人像」がるんじゃないかと思っています。
「いい人像」はあるのに、人を採用するものさしとして定義できていないだけではないか、と。その定義できないものを、うちではあえて前に出したんです。
あいまいなことを言っているようですが、なにかを表現するとき、最も大事な芯になることは、ぼわっとしているものです。
もう一つ、もし「いい人」を定義してしまうと、それに合わせた人がやって来てしまうから定義をしていない、という理由もあります。
糸井さんは、育休の人がたくさん出て、自分の仕事が増えたときに「『じぶんは子どもがいる人のぶんまで責任を持たされました』ではなくて、『よーし、俺がやるよ。頑張ろう』となってほしい」と仰っています。
いつ誰が支えてもらう側になるかわからないから、自分が支えられるときには支えるような人であってほしい、と。
そして、いまの『ほぼ日』では、割合それができているのではないか、ということです。
ああ、なんだかとても「いい人」たちが集まった、「いい会社」なんだなあ。
読んでいて、Googleみたいだなあ、と思いました。
「優秀な人がたくさん応募していて、そのなかから『いい人』を選べる立場だから、というのはあるのでしょうけど。
職場全体の総合力を考えれば、優秀だけど周りをないがしろにする人よりは、能力的には目立ったところはなくても、困った人をさりげなく支えてくれる人のほうが大事でもある。
ただ、こういうシステムが可能なのも、糸井重里という「看板」で商売ができるからで、糸井さんがいなくなっても、『ほぼ日』が売るものにみんなが同じ価値を見出せるかどうかはわからないんですよね。
それはやはり、『ほぼ日』にとっての今後の大きな課題だと思います。
——上場してから、周囲の反応は変わりましたか。
糸井:想像していた以上によかったですね。
まずほぼ日は「ぼくの会社」ではなく「チームの会社」になりました。それがよろこびをもって迎えられたのは、ぼくにとってすごくうれしかったことです。少し重たいことではありますが、誇らしくもありました。
ぼくや社員の周辺にいつ人たちの反応に、ちょっとした驚きもありました。
たとえばぼくと同じマンションに住んでいるおばあさんは、いままで顔を合わせても会釈をするくらいだったのに、上場したあとにばったり会ったら、「上場おめでとうございます」と言ってくれました。
社内のみんなも、皆働いていた会社の重役から急に連絡が来たり、社員の親御さんや親戚から声がかかったり、いままでとは周りの視線が変わったという話をたくさん聞きました。
上場前に亡くなった妻のお父さんは、「おたくの糸井くんはずいぶんと楽しそうだね」と冗談っぽく言っていたのですが、病院に置いてある日経新聞で上場すると知って、「(東証)一部なのか二部なのか」と聞いたそうです。「真剣な顔で聞かれたからびっくりした」と妻が話してくれました。それまでは趣味のように見えていた仕事が、しっかりとした事業として見られるようになったのかもしれません。
経済誌とかビジネス誌など、いままでとは違うメディアの取材も増えました。
予想していたことではありますが、成長戦略について聞かれることがものすごく増えました。そこでぼくが「成長戦略だけじゃないよ」と答えるなら、ほぼ日が次になにをするのかもはっきり説明しないといけません。
じぶんでじぶんに問いつめて出てきた答えは、「事業そのもの」でした。つまり事業を育てていくのがぼくらの仕事なんです。
糸井さん自身も、株式上場後、あらためて、『ほぼ日』という会社の未来と事業の継承について、あれこれ考えてもおられるようです。
あの糸井重里さんの『ほぼ日』が上場すると聞いて、僕も「お金が入ってきて、規模が大きくなると、『普通の会社』になってしまうものなのだなあ」と感じたんですよね。
それでも、これほどの「ふつうの人たち」からの反響があることを知ると、「だからこそ、糸井さんは、あえて『ふつうの会社が通っていく道』を、変えられるとことを変えながらなぞっているのではないか」とも思います。
この本を読んでいて意外だったのは、具体的な社員の名前とか、利用者の美談みたいなものがほとんど語られず、糸井さんの「働くこと、会社というのものへの哲学」が、それこそ「ぼわっと」語られていることでした。
糸井さんの話が具体的でないことは、「らしさ」でもあり、「なんだか丸め込まれている」ようでもあり、なんだか不思議なインタビューになっているのです。
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