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【読書感想】セブン-イレブン1号店 繁盛する商い ☆☆☆

セブン-イレブン1号店 繁盛する商い (PHP新書)

セブン-イレブン1号店 繁盛する商い (PHP新書)


Kindle版もあります。

セブン-イレブン1号店 繁盛する商い (PHP新書)

セブン-イレブン1号店 繁盛する商い (PHP新書)

内容(「BOOK」データベースより)
父の死をきっかけに、19歳で家業の酒店を継ぐも将来の展望が持てず、アメリカ生まれのコンビニ店へ商売替えを決意。自らの熱い思いを本部への手紙に託した結果、セブン‐イレブンの国内1号店に選ばれる。1974年5月、東京・江東区に日本初のコンビニがオープン。以来43年、これは、著者が同店を日本有数の繁盛店に育て上げるまでの奇跡のストーリーである。後ろから入れる「リーチイン・クーラー」、「ロックアイス」「プルトップ缶」などの提案から、雨の日対策、ひと手間かけると売れる商品まで、現場から生まれた「より売れる」アイデア満載。「売る人」も「買う人」も楽しめる一冊。コンビニ激戦区で1日200万円を売り上げるセブン‐イレブン1号店のオーナーが、いま明かす「強さの秘密」!!


 セブン-イレブンの日本国内1号店のオーナーによる「コンビニ黎明期の記憶」と「繁盛するコンビニのつくりかた」。

 あいにく、その日は朝から大雨だった。
 深夜遅くまで慣れないレジ打ちの練習をしていたので、寝たのは数時間ほどだ。この雨の中、はたしてお客様は来てくださるだろうか。
 1974年5月15日、東京・江東区豊洲の私の店が、セブン-イレブンの一号店としてオープンする日である。


 僕自身はコンビニ経営をやろうと思ったことはありませんし、今の世の中の感覚からいえば、著者の「商売」に対する考え方は、ちょっと昔気質すぎるのではないか、と感じるところもあるのですが、おそらく「商売の基本」というのは、部外者が思っているほど変わってはいないのでしょう。
 1号店のオーナーが、こうしてまだ現役バリバリで活躍されているというのはなんだかすごい気がするのですけど、コンビニの「歴史」って、まだ40年ちょっとくらいなんですね。
 思い返してみると、僕が子どもの頃には近所のスーパーが18時とか19時に閉まっていて、大学の近くに「夜遅くまで開いているコンビニ」ができたときには、世の中変わったものだなあ、と感心した記憶があります。
 いまから40年くらい前には、夜中にお腹が空いたら、冷蔵庫を漁るか、カップラーメンをつくるくらいしか選択肢が無かったのだよなあ。


 著者がセブン-イレブンフランチャイズに応募した際に、こんなやりとりがあったそうです。

 しばらくして、私の手紙を読んだ本部の岩國修一さん(のち常務取締役)から連絡があった。お店を拝見して面接をしたいという。
「アメリカでは、チェーン店をお願いする場合は、おもに30歳以上の方に採用を絞っています。あなたは、まだ24歳ですね。年齢より熱意があるかどうかが大切ですから、それはいいのですが、あなたは、独身ですよね。社会的信用という意味では、結婚していないと……付き合っている人はいますか。いないなら、お見合いのご紹介をしましょうか」
<そうか、結婚していないとチェーン店に入れてもらえないのか>
 私は、岩國さんの話を額面どおりに受け取った。


 コンビニのオーナーになるために結婚しろ、なんて、今だったらけっこう問題になりそうな気がします。
 そういえば、以前は「海外留学や海外赴任の前に結婚しておく」なんて話もありました。
 「そういう時代だった」ということなのでしょう。
 ただ、今でもコンビニのオーナーになるには「家族(あるいは安定して手伝ってくれる人)がいること」や「夫婦仲が良いこと」が求められるそうです。
 軌道に乗るまでは、基本的に「家族経営」なんですよね、コンビニって。

 のちにアメリカへ研修に行くことになるが、そこで学んだことと、実際日本で店をやってみて感じた大きな違いは、日本とアメリカの欠品に対する意識の差だった。
 アメリカのコンビニでは、お客のほしい品物が店になかったとき、総じて「ないものはない」と割り切った態度で応対する。日本は逆で、店側の申し訳ないという気持ちが先に経つ。お客様のがっかりする顔を見るのはつらいので、何とかしてほしい品物を揃えてあげたいと思うのだ。それが私たち日本人の接客態度であり、いいかえれば、店を開いているのは、自分のためというより、お客様のためだという感覚である。
 本部はこの考えを一歩進めて、「すべてをお客様の立場に立つと、接客の現場ですべきことが見えてくる。
 たとえば、酒やタバコがその代表的なものだ。これら好みの分かれる商品は、たまたまであろうと、その店にほしい銘柄がなかったらお客様は他の店に行ってしまう。私の店では、少数だが根強い人気のあるタバコ、缶入りピースは切らさずに置いておいた。
 店の利益ばかりを追い求めると、どうしても大量に売れるものに目がいきがちだ。いきおい少ししか売れないものは切り捨てようとする。だが、「少数だけれど売れる」品物を買うのは、だいたいいつも同じお客様、つまり常連さんなのである。いつも店を利用していただいているばかりか、決まった商品以外の品物も買ってくださるありがたい存在だ。一度でも期待を裏切って他の店に行かれてしまったら、それは大きな損失になるのである。


 著者は、コンビニを成功させるための条件として「とにかく欠品をなくす、お客さんに、買いに来た商品が無かったという経験をさせない」ことを何度も繰り返しています。
 廃棄ロスが増えるリスクがあっても、「一度探していた商品が見つからないと、お客さんは他所の店に行ってしまうから」と。
 言われてみれば、僕もやっぱり、「品揃えが良いコンビニ」を選ぶんですよね。少し遠回りになっても。
 逆に、お客さんが少ない、売れないコンビニは、仕入れる商品の数もバリエーションも少なくなりがちで、お客の満足度が下がる、という悪循環に陥ってしまいます。
 廃棄ロスというのは、コンビニにとっては、頭の痛い問題ですし、著者は「本部にモノが言える重鎮」であることも間違いないのですが。

 コンビニは競合店と日々売り上げを競い合っているから、お勧めの商品をアピールして売上げを伸ばそうと、売り場のつくり方から展示の仕方、POPの文句まで、さまざまに工夫をこらす。
 じつはコンビニ業界では、認知心理学行動経済学によって証明された陳列の技術が確立されていて、陳列の仕方には基本があるのだ。たとえば、ゴールデンゾーンと呼ぶ場所がある。陳列棚(ゴンドラ)の中の、お客様の視界に入りやすく、商品を取りやすい範囲のことだ。
 身長155センチの女性を基準に考えて、床上60〜150センチが目安になる。その中でももっとも注目が集まりやすいのが、目線の下20度付近である。陳列棚でいうと、上から二段目くらいのところで、このゾーンに売りたい最重点商品を配置することが多い。
 また、お客様の目線は左側から右側に流れていくので、コンビニの陳列棚で商品に向けられる目線は左上→右上→左下→右下と「Z」型に動いていく。そこで、まだ認知度が低いけれど売りたいと思う商品は、上から二番目の棚に置き、その左右に人気商品を配置するという「サンドイッチ陳列」というのもある。


 コンビニでは、上から二段目の棚に注目、ということみたいです。
 もっとも、店の「売りたい商品」が、「買いたい商品」と必ずしも一致するとは限らないんですけどね。


 コンビニというと、本部の搾取とか、ブラックバイトとか、最近はネガティブな話題が多いのですが、もちろん、うまくいっている人もいるのです。
 でも、これを読んでいると、「成功するためには、ここまで商売に家族ぐるみで身を捧げないといけないのか……」と圧倒されてしまうのだよなあ。


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